自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

あなたは自然を無視して、利己的に生きて幸福ですか?

2016-05-18 10:29:49 | 自然と人為

 あなたは一人だけで生きていけない。人生は短く、誰にも必ず死が待っている。死後の世界は、あなたのためにあるのではなく、次世代が生きるためにある。先立たれた人のことを人々が言葉や映像で忍ぶことがあるにしても、宗教も死後の世界を語るのではなく、今をいかに生きるべきかを問うためにある、と私は思っている。これらを否定する人はどの程度いて、どのような生き方をしているのであろうか。
 世の中は便利になり、自然と生きること、他者と生きることが煩わしいと思っている人が多いかもしれない。しかし我々は自然の一員であり、他者を尊重して生きなければ、人間としては生きられない。

 他者を従えて生きる利己的な動物になることを自分の力だと信じ、それを力のある人だと従う人は多いかもしれないが、それは、その人も他者をも不幸にする、と私は思う。
 国の指導者として他者を愛する生き方を実践した、ホセ・ムヒカ前大統領(インタビュー:動画)がいる。彼のように我々と共に生きようとする人を「共産主義者」とレッテルを貼り、蔑視する人を見つけてはアパルトヘイトのように罵倒する一方で、我々の届かぬ世界に生きて力を見せつける人には黙って従うとすれば、その人は人間にはなれない動物であることを恥じないということだろう。犬や猫、牛や馬さえ、あなたとの関係であなたを理解しているというのに。あなたが他者を認めるから、他者もあなたを認めるというのに。他者を愛することは、人間にとって訓練のいる(動画)ことなのだろう。
 参考: 一人一人の「自由」と「助け合う社会」に責任を持つ国が必要

 フジテレビ『Mr.サンデー』でホセ・ムヒカ氏(2015年3月と10月)を紹介した結果、「我々の想像を超えたとても大きな反響がありました。今の日本人が見失っているものについて、ムヒカ氏の言葉が視聴者の心に深く刺さったからだと感じました。今回の来日を機に、ムヒカ氏の貴重な対話の機会を通じて、彼の含蓄に富む言葉と哲学を、宮根誠司キャスターと池上彰さんの手を借りながら、より多くの人々に伝えていきたいと思っています。また現代の日本人にとっての“幸せ”とは、何なのか?皆さんと共に考えていく機会になれば良いな、と考えています」 プロデューサー・濱潤(フジテレビ情報制作センター)

 私は、公然と自民党・安倍政権を擁護する辛坊治郎がニュースキャスターを務める「報道2001」が大嫌いだった。しかし、「新報道2001」(2016年5月15日)で「パン屋タルマーリー」を紹介しているのを知り、ホセ・ムヒカ氏を招待したフジテレビが新しく変わっていることを知った。
 「2008年、千葉県で自家製の天然酵母を使い地産地消を大切にパンを作り始め、素材が本来持つ力がパンにハッキリ表れることに気づき、より農に近い場所を求めて、岡山県真庭市の勝山を経て昨年の6月に鳥取県智頭町に移住」されていたようだ。「パン屋タルマーリー」の店主、渡邉格さんの著書「田舎のパン屋が見つけた『腐る経済』」も出版されているので、ご覧いただきたい。

 私に自然とともに生きる素晴らしさを教えてくれたのは、牛が拓いた斉藤晶牧場であった。その斉藤牧場でリンゴの自然農法で有名な木村秋則さんと対談をお願いしたことがある。

対談『自然に学ぶ』 斉藤晶木村秋則
  畜産システム研究会報 30号, p.89-100(2008年6月10日 於 : 斉藤牧場)  
  対談『自然に学ぶ』 斉藤晶&木村秋則 p.89-94
  対談『自然に学ぶ』 斉藤晶&木村秋則 p.95-100

 タルマーリーの店主、渡邉格さん「生命力の強い野菜や米は、山の枯れ葉のように腐らないで枯れる」は、木村秋則さんの腐らないリンゴと同じだ。ここでも自然に対する興味と理解がまた深まった。自然の循環の中で生命力ある野菜やリンゴが育つように、牛も子供も放牧で育つ。私たちの子供の時代は農家には1,2頭の牛がいて鶏は庭にいた。親は子供のことを気にしながら農作業や家内工業で一生懸命働くことで隣人との付き合いがあり、その地域で子どもたちだけで遊ぶ子供の世界が子供を育てた。農村が強いことが「強い日本人」と、「腐らない経済」をつくった。

 私が斉藤晶牧場で教わったことは、人が自然を征服するのではなく「自然と牛と人の関係」で美しい牧場ができるということだった。これは実習して身に着けるしかない。定年後には斉藤晶牧場に弟子入りして実習したいと、本気で思っていた。しかし、我が家を留守にすることで家族の反対に会い、斉藤牧場に実習に入り込むことでも斉藤家に問題を持ち込むことに悩んでいるうちに、退職直前から3年で脳梗塞2回を経験してしまった。57歳のとき風呂場で右脳出血で倒れたが愛犬が早く知らせてくれたので、半身麻痺から何も不自由を感じない身体に回復して職場復帰できていたのに・・・。

 だから牛の放牧による里山管理が大切なことは分かっていても、「牛は草さえあれば自分で生きていくから、脱柵して道路に逃げ出して大事にならぬように」と指導できるだけだ。里山で遊んで育った草刈り隊のグループは、私より里山のことはよく知っている。その経験を子供たちに伝えて欲しい。

 牛1頭で始めた慣れない放牧を短期間で軌道に乗せた大谷山里山牧場は、シルバー世代が作った牧場として放映されたり、福山まちづくり大学で発表されている。この経験を全国の荒れた里山管理に活かして欲しい。

 それには牛の導入から出荷までを指導できるシステムが必要である。エサは自給自足で、管理は地域の人が協力することが大切だ。1頭1haを原則にすると、広い里山をどう管理するか。空き家の管理と同じで財産権を重視するとしても、所有することは管理する義務がある。管理されていない荒れた空き家や里山の税金を高くして管理費に回すか、管理されている場合は安くする方法を考える必要があろう。地方行政とコンビニ方式をミックスしたシステムが考えられないか? モノやお金では幸福になれない。生産と消費を分断するのではなく、「農協」と「生協」が協力し、「地域社会と一緒に歩み、新たな地域循環をつくっていく」ことで、「日本人が見失っている」強い農村を再生させる。それこそが企業優先型の「地方創生」ではなくて住民優先型の「地方再生」ではないか。

参考:牛の放牧によるイノベーションとソーシャルビジネスの提案
牛は資源を循環し、人をつなぐ
「自然とデザイン研究所」を設立しよう~マイナスの考え方をしないために
発想の転換~砂漠化を防止し、気候変動を抑える反芻動物
講演資料「競争から共創へ」、「部分から全体へ」
自然とデザイン -自然と人、人と人をつなぐ新しい時代の共創-
牛が拓く未来 ― 牛の放牧で自然と人、人と人を結ぶ
自然とお金と個人と組織~何を基準に考えるか


初稿 2016.5.18