自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

殺処分を前提にしたリングワクチンは「考えられない」

2010-10-18 15:22:15 | 牛豚と鬼

 今回、リングワクチンと称して、ワクチン接種後に全殺処分しました。2001年のオランダの事例がその根拠によく引用されますが、当時のOIE規則では、ワクチンを接種した家畜を殺処分しなければ清浄国に復帰できませんでした。しかし、マーカーワクチンが実用化され、2003年にOIE規則が改正されてからは、ワクチン接種群に感染畜がいないことを、NSP抗体検査で確認できれば清浄国回復ができるようになりました。この時点からは、殺処分を前提にしたワクチン接種は考えられないことで、現在、オランダが殺処分の方針を転換しているのもこのためです。殺処分を前提にしたワクチン接種は世界中のどの分野にもないと思いますが、殺処分を前提にしたためにワクチン接種の時期を遅らせてしまいました。



 今回使用されたワクチンはマーカーワクチンでしたが、OIE規則の改正に無頓着であったか、NSP抗体検査の準備をしていなかったか、口蹄疫はワクチン予防ができないと、よほど全殺処分を信頼していたためでしょうか。



 リングワクチンは家畜を殺さないで防火帯をつくるために、移動禁止区域の周縁から口蹄疫発生源に向けてリング状にワクチンを接種することです。発生を確認した段階で範囲等は判断しますが、今回は遅くとも豚の感染が確認された4月28日の時点でワクチン接種を始めるべきでした。



 今回、ワクチンの効果が論議されるのは、リングワクチンとリングカリング(ring-culling)を混同して、リングワクチンの名の下に両者を同時に実施したからでしょう。今回の口蹄疫ウイルスはO型であり、O型のワクチンが効かないはずはありません。O型のウイルスにO型のワクチンが効かないとすれば、どんなワクチンなら効くのでしょうか。



 韓国で実施しているリングカリング(ring-culling)は、発生源から一定の半径以内で感染か健康か関係なく殺処分します。半径500m以内を基本にしていますが、今回は4月9日の口蹄疫発生の公表直後の10日にさらに4件の発生が確認されたため、それぞれの発生源から半径3km以内の全偶蹄類の全殺処分を実施し、4月18日に殺処分を終了しています。しかし、翌日19日にはその範囲を越えた発生が確認されたために、最終的には11回のリングカリングと2回の農場全殺処分をし、395農場で約5万頭の牛、豚、ヤギ、鹿を殺処分しています。



 日本は疑似患畜が確認された農場の全殺処分をしていますが、すべての家畜を疑似患畜と認定すれば健康な家畜を殺処分出来ますから、農場という範囲を指定したリングカリングであり、リングワクチンと言われたのも実質的には地域を指定したリングカリングであったと言えましょう。



 OIE基準の摘発・淘汰(スタンピングアウト)は感染と健康を検査で見分けて、感染畜の殺処分を求めていますが、健康なものまでを殺処分することは求めていません。感染防止のため、すなわち健康な家畜を守るためのOIE基準ですから当然のことです。



 殺処分をして牛を埋却しても、ウイルスは糞尿で汚染された敷料等に生き残ります。防疫のためと言いながら、全殺処分によって被害を確実に大きくし、その上、感染を拡大させた可能性も高いのではないでしょうか。



 今回は日本も韓国も、届け出の時点で感染が拡大していましたが、本来の防疫方針は感染が拡大するまでに終息させ、殺処分を最小にするものでなければなりません。



 最近のワクチンや遺伝子検査は目覚ましい技術革新をしていますので、感染と健康を見分けて殺処分を最小にすることができるようになりました。殺処分を畜舎単位、畜房単位、個体単位のいずれにするかは、遺伝子検査の結果で状況判断をすれば良く、恐怖心から法を根拠に全殺処分するのは本末転倒です。



 口蹄疫に対する理解を共有して、防疫方針を改正して、世界に範たる防疫体制を構築していきたいものですが、このネットによる建設的な意見交換はそのさきがけだと思っています。



初稿 2010.10.18