行きかふ年もまた旅人なり

日本の歴史や文学(主に近代)について、感想等を紹介しますが、毎日はできません。
ふぅ、徒然なるままに日暮したい・・・。

夏の読書

2008-08-03 15:53:26 | Weblog
 角川、集英社、新潮が夏の読書として紹介した小冊子を目にした。高校生くらいまでをターゲットにしているのだろうが、各作品の紹介は、今でも楽しめる。星新一氏の作品が目に留まり、作品紹介を読んでいたが、いつ読んでも不思議な世界だなあ、と感じてしまう。読み直しも含めて、この夏に文庫を手にしようか、と考えている。
 そういえば、南極からタロとジロが生還した時、日本中が感動したというが、氏は「何が感動だ、彼らに食い殺されたアザラシやペンギンをどう思っているのか!」と怒ったという。元を正せば、人間が自分達の都合で南極にいるはずの無い生物を置いていったから起こった出来事であって、1年後に回収できたから良かったものの、生態系そのものを破壊する危険を考えたら、素直に喜べないだろう。しかも、タロとジロは名前を呼ばれても逃げ回っていたのが事実だ。感動的にするために捏造した。今なら環境破壊として、越冬隊も国も非難の的になったろう。
 それはともかく、こうした文学作品の紹介を読むと、その作品に始めて出合った頃の気持ちを思い出すことがあり、青臭い自分を思い出し、少し気恥ずかしい。

読書記40 『銀河鉄道の夜』

2008-08-03 11:31:56 | Weblog
   『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治 著)
 1924年頃に初稿の執筆が確認され、作者の晩年であった1933年まで推敲が繰り返された作品である。この作品を基にアニメ、ミュージカル、プラネタリウムなどが作成され、1世紀近く経った今日でもその影響の大きさがうかがえる。アニメ版では登場人物が猫になっているが、原作の登場人物は人間である。
 主人公はジョバンニという少年。病に臥せっている母、親友カンパネルラ、クラスメイトでジョバンニをからかうザネリらが登場する。ジョバンニの父は北方へ漁業に出たまま帰りが遅れている。
 ある日の午後の授業で、銀河の事を質問された。以前、カンパネルラの家で銀河の地図やら、カンパネルラの父から多くの事を教えてもらっていたため、分かっているにもかかわらず、ジョバンニもカンパネルラもどうした訳か答えられなかった。ジョバンニは家の手伝いもあるので学校が終わると急いで仕事に行き、その日は家に牛乳が届いていなかったため、牛乳も取りに行った。丁度町では夏祭りが催され、川に烏瓜を流す習慣があり、子供達は急いで夏祭りに出かけて行った。しかし、ジョバンニは家の事もあるので夏祭りどころではなく、活版所で仕事をし、牛乳屋に向かう途中、カンパネルラを含めたクラスメイトと擦れ違う。その際にザネリにからかわれ、悔しくて、情けなくなり走ってその場を去った。親友のカンパネルラはジョバンニがからかわれるのを見ると、いつも悲しそうな顔をしジョバンニを心配していた。今夜も同じような顔をしていたが、言葉は交わさなかった。
 原稿がこの間5枚程散逸してる事もあってか、次の展開まで詳細が分からないが、ジョバンニが気付くと、汽車の座席に座っている場面になる。向かいには親友のカンパネルラが座っている。最初は青白い元気の無さそうな顔をしていたが徐々にいつもの顔色に戻っていた。外には天の川が流れ、北十字(白鳥座)から南十字、マゼラン大星雲を目指す銀河鉄道で不思議な経験をする。鳥を捕まえて狩りをしている人が乗車してきた。車掌が切符を確認しに鳥捕りと2人の前に来ると、それぞれ切符を出したが、ジョバンニは切符なんてあったのかも分からず、胸ポケットをゴソゴソ探すと大きな紙切れが出てきて、それを車掌に見せた。車掌は、この切符なら、どこへでも行けるよ、と確認した後、ジョバンニに返した。鳥捕りはジョバンニの切符に感心し、いつまでも感心していた。鳥捕りは、2人に鳥をご馳走するが、鳥はお菓子のようであった。外へ捕りに行ったと思うといつの間にか戻っており、カンパネルラがお菓子ではないのか?と質問すると、慌てて汽車から降りてどこかへ行ってしまった。
 その後、青年と少女、その弟の少年が乗車してきた。他の車両にもたくさん乗車した様子だった。彼らは海難事故に遭った人たちであった。青年はこの子達の家庭教師で、南十字でこの子達の母親が待っているので連れて行く道中であった。ジョバンニ、カンパネルラはこの2人がそれぞれ隣に座り、いろいろと話していくうちに打ち解け、やがて南十字に到着した時、別れが本当に辛く、今にも泣き出しそうだった。他の車両の乗客も大勢降り、再びジョバンニとカンパネルラの2人きりになった。ジョバンニは親友に、これからも一緒にどこまでも行こう、本当の幸福を探しに行こう、と話しかけると、そこにはカンパネルラの姿は見えなかった。ジョバンニは悲しくなって泣き出した。
 ジョバンニが目を覚ますと、草むらに横たわっていたおり、夢だったようで夢のようではなかった。不思議な気分だった。急いで自宅に戻ろうとしたジョバンニは、途中でカンパネルラが川に落ちたことを知らされた。川に落ちたザネリを救い、そのまま姿が見えなくなったという。川の下流は川幅いっぱいに銀河が大きく映り、ジョバンニはカンパネルラは遠くの銀河の彼方に行ってしまった事を確信した。いろいろな事で胸が詰まり、母の待つ自宅に走って行った。

 幻想的な物語である一方、幻想的であるが故、読み終わった時の切なさをより強く感じてしまう。

 物語の背景には作者最愛の妹・とし子の死が大きく影響している。また、物語の途中、海難事故で多くの乗客が乗車する場面は、1912年のタイタニック号沈没事件に影響を受けている。当時、世界最悪の海難事故と言われた。
 作品には、天の川の南下を扱っているので、星図を確認した。白鳥座→さそり座→ケンタウルス座→南十字座、天の川上にない大マゼラン星雲の配置を見て、旅の行程が確認できた。作者の死の直前まで推敲が重ねられた代表作品。本当の完成は、まだまだ先だったのかも知れないが、生と死を深く考える契機になる作品だった。