フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 まだ新ドラマはこれから始まるところですが、まとめてたくさん書くのもたいへんなので、まずは昨日始まったいだてん (NHK、日曜20時)についてだけ、簡単な感想を書いておきたいと思います。

 来年の東京オリンピックを見据え、NHK大河ドラマには本当に珍しい現代ものとなりました。脚本は宮藤官九郎。音楽担当、出演する俳優など、NHK朝ドラ『あまちゃん』を思わせる布陣となっています。
 作品の中身は、いわゆる「クドカンワールド」。従来の大河ドラマのお約束とは大きく異なっています。従来の大河ドラマであれば、後に歴史に名を残す幼少の主人公が最初に登場し、その成長を少しずつ描いていくのが常道。ところが、『いだてん』初回では、次々に人物が登場し、主人公の金栗四三は最後にやっと出てきます。さらには1909年(明治42年)と1959年(昭和34年)とが交錯しながら、50年の時を隔てて展開するという凝り方。また、物語の語り手的な存在はできるだけ目立たせないようにするのも常識。ところが、『いだてん』では、ナレーションがあるにもかかわらず、物語の中に古今亭志ん生という大落語家を、語り手として頻繁に登場させます。
 これは文学理論で言えば「showing」と「telling」の対比にあたります。「showing」とは物語を語っている存在をできるだけ見えないようにする技法。「telling」とは物語を語っている存在を意識的に見えるようにする技法です。『いだてん』は明確に「telling」の技法をとります。この技法は、作り手の作為を明確に享受者に見せるので、ときには実在のリアリティを疑わせるデメリットがあるものの、次はどんな語り方、どんな工夫を見せてくれるのか、といった期待につながるメリットがあります。
 他に考えたいこととして、ドラマにはその放送時間枠についた視聴者というものがあります。たとえていえば、新宿と渋谷ではショップに集まる客層や年齢層が違う、上野だったらもっと違う、というようなものです。大河ドラマには従来から長くこの大河ドラマ枠を見てきた視聴者層というものがあります。その人たちにとっては、この「telling」を駆使したクドカンワールドはかなり異質なものに見えることでしょう。私は初回をおおいに楽しんだものの、そのような客層との差異を克服するかどうかが、今後の見どころになると感じます。
 また、『いだてん』のそのような印象は『あまちゃん』と共通する面があります。『あまちゃん』は近年のNHK朝ドラの中で最大の話題作でした。しかし、その視聴率は、その前後の朝ドラ作品と比べてけっして高いわけではありません。その理由は、『あまちゃん』の実験性によって初めて朝ドラを見始めた視聴者と、同じ理由で朝ドラから離れた視聴者がいたからです。しかし、『あまちゃん』で新しい視聴者を開拓した朝ドラは、その後の『ごちそうさん』『朝がきた』で視聴率を上げていきます。すなわち、一度離れた視聴者が戻り、『あまちゃん』で新たに獲得した視聴者と相乗効果を発揮したのです。
 この『いだてん』で同様のことが起きるかどうか。その点に注目して、今後もこの『いだてん』という実験的作品を見続けていきたいと思っています。


※このブログはできるだけ週1回(なるべく土日)の更新を心がけています。



コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
Unknown (じゃいたん)
2019-01-08 19:34:36
ブログ更新ありがとうございます。
「あまちゃん」といえば、「いだてん」に能年さんは出演されるのか気になります。
 
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