フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 







 今クールのテレビドラマの中で、マスコミやネット上の書き込みでは、『義母と娘のブルース』(火曜22時、TBS系)と『高嶺の花』(水曜22時、日本テレビ系)を対比的に取り上げていることが多いようです。

 そこで、2作品のここまでの視聴率(ビデオリサーチ社、関東地区)をまず見てみましょう。

『義母と娘のブルース』
 11.5%→ 11.3%→ 12.4%→ 12.2%→ 13.1%→ 13.9% →15.1%
『高嶺の花』
 11.1%→ 9.6%→ 8.2%→ 9.2%→ 8.2%→ 7.8% →9.9%

 視聴率だけを見る限り、『義母と娘のブルース』が次第に支持を集めていることが明らかです。初回視聴率はほとんど変わらないのに、『義母と娘のブルース』は視聴率を大きく上げていき、『高嶺の花』は逆に下げてしまっています。
 こうした差が生じたことについて、マスコミやネット上でこの2作品を比較する場合は、主演女優である「綾瀬はるか vs 石原さとみ」といった興味から書かれていることが多いようです。しかし、2作品の視聴率の推移の差はけっして主演女優の魅力の差というわけではないというのが私の考えです。2作品の違いは、「誰にでもある気持ちを描こうとしている作品」と「誰も見たことのない世界を描こうとしている作品」の違いだと、私は考えています。

 『義母と娘のブルース』で描かれている「余命宣告」とか「偽装結婚」とか、そういうことは世の中にそんなにしばしばあることではありません。個別にでもしばしばあることではないのに、しかも、「余命宣告」されたから、周囲にいる中でもっとも信頼できる女性に「偽装結婚」を依頼し、それを受け入れてもらうという組み合わせとなると、これはもうあり得ないといってもいいくらい非現実的な話です。
 しかし、そこで描こうとしているのは、「親が後に残る子どものことを心配する」とか、「働くだけでは何か自分の人生に寂しさを感じる」とか、「自分が愛する人の子どもの成長を助けたい」と願うこととか、そういう気持ちは、多かれ少なかれ、人間の心のどこかにはあるはずの感情です。視聴者は、『義母と娘のブルース』に描かれた「起こり得ない」話を見ながら、「誰にでもある感情」を呼び起こされ、共感し、感情移入し、そして涙することになります。
 もちろん、そんな話を重くなりすぎないように、随所に笑いの要素をちりばめ、それを綾瀬はるかという天才的なコメディエンヌが演じています。綾瀬はるかは、視聴者を笑わせるコメディエンヌであるのと同時に、視聴者を泣かせることにも長けた希有な女優さんです。良一の葬儀で亜希子が気持ちを外に見せた場面や、高校生になったみゆきが亜希子に気持ちをぶつける場面では、私も泣きました! このくらい泣かされるテレビドラマ作品も珍しいと思いました。さんざん笑わせておいて、そして要所では泣かせる…。そんな王道の世界にこの作品は視聴者を引き込んでいきます。

 一方で、『高嶺の花』が描いているのは「誰も見たことのない世界」です。この作品で描かれる人物たちの「愛」は通常の人間には理解できないようなものです。華道家としての道を極めるために、あえて常人の世界に背を向ける人びとや、自分の愛する人のためにすべてを投げうってしまう人が描かれています。というのは、たとえば、結婚式場で自分を置いて去って行く相手を、その人の幸せのために喜んで見送る男性です。たとえば、芸術家として成功するために、自ら結婚を壊してその罪悪感を背負い込もうとする女性です。まさに常識では考えられない人たちを描こうとするのが、この『高嶺の花』という作品です。
 それは脚本家・野島伸司が一貫して描こうとしてきたものです。もっと端的にいえば、野島伸司が描きそうとしているものは「究極の愛」です。野島伸司を、人間の醜い面とかスキャンダラスな面を描く脚本家とする批評もありますが、私はそうは思いません。野島伸司が描こうとしているのは、日常の世界にはない「愛」、まだ誰も見たことのないような「愛」です。それは、いわば「実験室の中にしかないような愛の世界」です。醜さやスキャンダラスの出来事は目的ではなく、「究極の愛」を作り出すために装置に過ぎません。

 誰の心の中にもある感情を引き出そうとする作品(『義母と娘のブルース』)と誰も見たことのない世界を描き出そうとする作品(『高嶺の花』)であれば、前者の方が多くの人びとに支持されることは明らかです。しかし、それがそのまま作品の評価、良し悪しとなるわけではありません。『義母と娘のブルース』を評価するのは当然ですが、一方で野島伸司的世界がどこまで「究極の愛」を追究していくのか、その面から
『高嶺の花』にも注目していきたいと思っています。


※このブログはできるだけ週1回(なるべく土日)の更新を心がけています。



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