フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 大学の後期授業開始時期で忙しく、ブログを更新していませんでした。久しぶりです。
 そういう時期ではありますが、気分転換にテレビドラマ『すいか』 (2003年放送、日本テレビ系)をDVDで見直しました。
            
 先月、『テレビドラマを学問する』(中央大学出版部)という本を出しましたし、この10年以上の間、連続ドラマの少なくとも最初の1回は、すべて見ているつもりでした。しかし、この『すいか』の記憶があまりなかったのです。この『すいか』というドラマは評価も高く、このままにしておいてはいけないかと思い、DVDで見直すことにしました。
             
 「研究する」ことと「好き」であることは異なりますが、私はテレビドラマ研究者であると同時にテレビドラマ大好き人間でもあります。その私でも、実はこの頃あまり面白いと思うテレビドラマにあたりません。それで、ゴールデンタイムのテレビドラマではなく、昼ドラ『赤い糸の女』(フジテレビ系、月曜~金曜、13時30分)などに手を出していました。
 この『赤い糸の女』はなかなかすごいドラマです。中学校時代の同級生が美容整形手術でまったく別人のようになってあらわれるとか、1人の男性と3人のルームメイト女性全員が関係を持つとか、考えられない展開の連続です。さらには、3人の女性の1人が事故死したり、主人公の女性が買い物依存症から借金苦に陥ったりと、次々と思いもよらない展開になります。もうこのくらい刺激の強いドラマでないとつまらないくらい、私はテレビドラマに飽きてしまったのかと思っていました。
            
 ところが、DVDで『すいか』を見直したところ、『赤い糸の女』とは対照的に何も特別なことが起こらないこのドラマを、私はすっかり好きになってしまいました。『すいか』の主要な人物は次の通りです。

 早川基子(小林聡美)
   信用金庫職員。34歳まで真面目に勤めてきた自分に疑問を感じている。
 亀山絆(ともさかりえ)
   貧乏漫画家。実は金持ちの娘。双子の姉を事故で亡くしている。 
 芝本ゆか(市川実日子)
   大学生をしながら下宿「ハピネス三茶」の家主もしている。
 崎谷夏子(浅丘ルリ子)
   大学教授。学生時代からずっと「ハピネス三茶」に住んでいる。

 基子が家を出て、今どき珍しい食事つきの下宿「ハピネス三茶」に住む所から物語は始まります。しかし、上記の主要な4人に特別な出来事は何も起こりません。基子の友人の馬場万里子(小泉今日子)が3億円を横領して逃亡するという事件はありますが、4人にはそんなことはありません。基子は毎日平凡な信用金庫職員として働き、絆は書きたくもないエロ漫画を生活のために書き、ゆかは大学生をしながら、下宿人のために賄いの食事を作り続けます。
 では、何も大きな事件が起こらないからつまらないかと言うと、そうではないのがこのドラマの特筆すべき点です。なぜ大きな事件が起こらなくても面白いのか。それは「①小さな出来事もみな毎回のテーマにしたがって関連してくること」 「②出てくる人みんながたいへん魅力的に描かれていること」の2点が理由としてあげられます。
            
 ①の点。全10回のこのドラマは、毎回なんらかのテーマが設定されています。
 たとえば第9回のテーマは「別れ」。絆が飼っていた猫が出ていってしまう、基子の母親が癌の手術をする、絆に好意を寄せる青年に「好意に応えられない」と告げる…、といったさまざまな出来事がすべて、視聴者に「別れ」について考えさせるように作られています。しかも、基子は街で「あなたは20年後に何をしていますか?」というインタビューを受けます。そこでまた、「その20年間にどんな別れがあるのか、変わらないものは何か」と考えることにつながります。
 ②の点、「魅力的」というのは感覚的な表現ですが、言いかえれば、それぞれの俳優の特徴が十分に引き出されています。

 このドラマの主要な人物を演じるのは、いずれも他作品で主役を務める俳優ではありません。しかし、それぞれの俳優の特徴を最大限に活かす性格が与えられています。小林聡美は平凡だが真面目で心やさしい30代女性を、ともさかりえは自由に生きているようで心に傷を持つ女性を、市川実日子は下宿を父親から押しつけられたにもかかわらず明るく家主業を勤める大学生を演じて、このドラマを好ましいものにしています。
 さらに特筆すべきは、大学教授を演じる浅丘ルリ子。もちろんかつての美人主演女優ですが、『すいか』のときに63歳のこの女優は、かつてのようにひんぱんにテレビや映画で見ることはありません。しかし、大学生時代からずっと同じ下宿に住み続ける大学教授という「浮世離れ」した人物設定と、かつての大女優として庶民的とは正反対の存在である浅丘ルリ子のイメージが重なって、「この人をおいて他にない」と思わせるほど適役になっています。
            
 視聴率的には『すいか』はふるいませんでした。しかし、評価はその当時から高かったのです。
 ストーリー中心のドラマは一度見たら終わりです。ですが、この『すいか』のようなドラマは、何度でも見直したくなります。
 その後、『野ブタ。をプロデュース』(2005年)、『セクシーボイスアンドロボ』(2007年)、『Q10』(2010年)と続く木皿泉脚本の独特の世界の原点がこの『すいか』にあると再認識しました。
           



コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
すいか (コトノハ)
2012-11-08 18:52:16
懐かしいですね~!大好きなドラマです。
 
 
 
Unknown (Unknown)
2013-03-19 02:16:30
本当によいドラマでしたね。懐かしさが込み上げます。
このあいだふっと思い出して、大塚愛さんのエンディングと一緒に・・。木皿泉さんにはもう書いていただけないんのでしょうか。私は野ブタをプロジュースも大好きです!
 
 
 
Unknown (ひな)
2013-07-15 23:59:34
小林さとみのファンで何気にレンタルした「すいか」はまりましたね~!!
アラフォーでトレンディドラマ最盛期で、いろいろみましたが、人生ナンバー1ドラマになりました。
深いです。
”悩んでも、焦っても”一寸先はなにが起こるかわからない”何度も何度も繰り返し見るほ味わい深いドラマです。
 
 
 
コメントありがとうございます (宇佐美毅)
2013-07-17 02:10:34
皆さん、コメントありがとうございます。
『すいか』の良さを書き示すのは難しいのですが、この作品に愛着のある方が多いのは嬉しいことです。
木皿泉の作品は、病気の後に減っていますが、これからもいい作品を書いてほしいですね。
 
 
 
すいかは大好きなドラマです (yumeka)
2014-01-13 21:03:11
こんにちは
すいかは大好きなドラマでした。最終回は仕事の為、予約ビデオにしていたのですが、野球中継延長の為、ビデオが途中で切れていたので、最終回がずっと気になっていました。この度やっとDVD・BOXを購入しました。1話から見ましたが、やはり楽しくそして色々と考えてしまうドラマですね。何気ない毎日がどんなに大切であるかを教えてくれるドラマですね。
 
 
 
Unknown (いっこしゃん)
2020-05-26 21:54:03
大好きでしたこのドラマ。本当にこんな賄い付きの下宿が有ったら住みたいと切実に思いました。下宿前の畑やら、古すぎて教授の部屋の床が抜けちゃったり。まだ若かった市川実日子さんが住民や食材を届ける御用聞きと、実に生き生きと交わす言葉の何と自然な演技かと。
いま、もう一度見たいドラマNO.1です。
 
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