フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



            (真田幸村ゆかりの上田城)


 テレビドラマへの感想を書く恒例の回です。
 とはいうものの、あいかわらずの校務多忙で書くのが遅れ、1~3月期のテレビドラマ作品ももう中盤に近くなってしまいました。また、すべて一度に書けないので、「その1」として感想を書いておきます。かなり何年も前から推理もの・警察ものが多くなっていますので、そのジャンルの作品は後日にして、今日はそれ以外の作品について書きたいと思います。

『真田丸』 (日曜20時、NHK) 19.1%→20.1%→18.3%→17.8%

 1~3月期の作品ではありませんが、まずは今年最大の注目作品である大河ドラマから。
 開始まだ2回目の時点ですでに週刊誌からの取材もあり(『週刊現代』1月25日発売号)、注目もされ、評判もよいことがわかります。
 一言でいえば実に面白いです。開始そうそうの内容は、真田家の主君の武田家が織田信長に屈して滅ぼされ、真田家も存亡の危機を迎えるというもの。もう生きるか死ぬかの瀬戸際の状況です。それなのに、各所にコントのような笑いをちりばめた脚本は、三谷幸喜ならではです。しかも、歴史の細部にはかなりのこだわりが見られます。
 大河ドラマと三谷幸喜ということでいえば、2004年の『新選組』がありました。見どころはさまざまありましたが、主人公の近藤勇というのはいわば馬鹿真面目な人間。三谷幸喜の持ち味との相性はあまりよくなくて、脚本家の特徴が出しにくかったように感じました。その点で、今回は三谷幸喜らしさが実によく出ています。
 これまでの大河ドラマとは雰囲気がかなり違うので、戸惑う大河ファンもいると思いいますが、ここに書いたような意味で、おおいに期待できる滑り出しになっています。
 

『この恋を思い出してきっと泣いてしまう』
(月曜21時、フジテレビ系) 11.6
%→9.6%→10.0%

 今は流行らないと言われる王道のラブ・ストーリー。いいじゃないですか。私は古い世代の人間のせいか、こういうのは大好きです。
 事件や出来事を見せるのもテレビドラマを含めたフィクションの役割です。しかし、特にテレビドラマの場合、そこに描かれる人物に好感を持てるかどうか、という基準で考えることも可能です。それによって、毎週毎週その時間にその人物に会おうという気持ちになれるからです。
 この作品に出てくる人物は、今の時代においてはやや非現実的かもしれません。あまりにも人のよい青年、絵に描いたような不幸な若い女性、屈折した思いを抱える女性…。その人たちの気持ちが交錯し、揺れ動きます。できすぎていると言えば、できすぎています。しかし、だからこそ、そこに感情移入したり、人物を応援したくなります。
 脚本は、今もっとも活躍していると言ってよい坂元裕二の担当。近年も、『Mother』『Woman』のようなシリアスなドラマから、『最高の離婚』のようなラブコメまで、多彩な作品を書いています。この人の脚本で作られたドラマは細部まで見過ごせません。
 たとえば、初回のファミレスで曽田練(高良健吾)と杉原
音(有村架純)が食事する場面。少ないセリフのひとつひとつに深い意味がこめられています。また、セリフがない場面にも、人物の感情があらわれるように構成されています。つまり、セリフがあってもなくても視聴者をひきつける、そういう力が脚本にはあります。
 もっと軽く見られて痛快な作品の方が視聴率的には有利ですが、この作品はもっとじっくり見たくなる作品に仕上がっています。

※余談ですが、第2回以降のロケ地には私のよく知っている地域が多く、「あ、ここだ!」と楽しみながら見せてもらっています。

『私を離さないで』 (金曜22時、TBS系) 6.2%→6.2%→7.7%
 イギリスで活躍する日系人作家・カズオイシグロの原作小説を、綾瀬はるからのキャストで映像化。となれば、おおいに興味はひかれると思うのですが、視聴率は初回からふるいません。
 しかし、最初は視聴率が高くても徐々に下げていく作品も多いなかで、初回から視聴率を下げたことがありません。つまり、この作品を一度でも見た人は、この作品の今後に期待しながら見続けているということです。逆に言えば、第1回から見ようと思った人が少なかったということ。いくらカズオイシグロの問題作といっても、この深刻で衝撃的な題材のドラマを見るのは、少し心の負担が重すぎるのかもしれません。
 脚本は、『JIN―仁―』『ごちそうさん』などで、人間味豊かな題材を描くことに定評のある森下佳子。しかし、過去の作品は深刻な題材を扱っても、そこにある種の希望も見出せた作品でした。それに比べて今回は、そのような希望が見つけにくい題材で、そこに違いがあるように感じられます。視聴率はふるいませんが、原作の世界をどのように映像化していくか、私は注目していきたいと思っています。


『ダメな私に恋してください』 (火曜22時、TBS系) 9.0%→9.3%→8.2%→9.8%

 「職なし、金なし、彼氏なし」の30歳女性ミチコに深キョン(深田恭子)、元上司の35歳ドSキャラ男性に今話題のディーン・フジオカ。ミチコに好意を持つ26歳のさわやか男性に三浦翔平。「ダメダメの女性主人公とキャラクターが正反対の2人の男性」というのは、少女マンガ定番の設定です。
 ただ、それを演じるのが深キョンと、『あさが来た』で大ブレークしたディーン・フジオカというところがミソ。初回を見たとき、深キョンも実年齢33歳とはいえこういう役が似合うかなあ(もう深キョンじゃないか)とか、なんでディーン様がドSキャラなのかとか、そのあたりがもうひとつピンときませんでした。とはいえ、ディーン・フジオカ演じる黒澤歩のやさしい面もあらわれ、いわば男ツンデレぶりが見えてきました。ミチコ演じる深キョンの永遠のフシギちゃんぶりによって、「職なし、金なし、彼氏なし」の30歳女性も見慣れてきましたので、ここからに期待したいと思います。


 「お義父さんと呼ばせて」 (火曜22時、フジテレビ系) 9.6%→6.2%→5.5%

 28歳年上の男性を好きになった23歳のOL花澤美蘭(蓮佛美沙子)、美蘭の恋人で昔タイプの営業マン大道寺保(遠藤憲一)、美蘭の父親でやり手の商社マン(渡部篤郎)の3人が主要な人物。ちなみに父親と正反対な男性を好きになってしまうというのは昔から実によくある話。たとえば、夏目漱石の小説にも、自分の父親と夫を比べてその違いを痛感する女性がよく出てきます。明治の時代には広く男女交際できたわけではないので、比べられる対象が自分の身内くらいしかいなかったという面はあります。それが現代になっても、やはり自分の身内と比べて、「そういう人がいい」「そういう人でない人がいい」という結婚相手への基準になっているのかもしれません。
 ところで、私が注目したいのは配役。父親と同年齢51歳の男性を好きになって困ってしまう主人公には、若手幸薄顔(さちうすがお)女優NO.1の蓮佛美沙子。その恋人には芸能界きっての強面(こわもて)にもかかわらず、近年すっかりお笑い俳優に定着した遠藤憲一。アントニオ花澤と呼ばれるちょい悪おやじには、「ちょい悪」から「極悪」まで癖のある役なら何でもこなす渡部篤郎。いずれもはまり役で、このキャスティングは見事です。
 特別なところはありませんが、ちょっと笑ってちょっとほのぼのできる安定作品になっています。

他の作品についてはまた後日書きたいと思います。


※このブログはできるだけ週1回(なるべく土日)の更新を心がけています。 

 



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