フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 新型コロナウィルスへの対応のため、自分のことにはほとんど手をつけられない状況になってしまい、このブログの更新も滞ってしまっています。しかし、世の中の多くの人がこの病で苦しんでいますし、外出自粛のために仕事を失うなどの大きな影響も出ています。私の場合は、忙しく働く仕事と働ける身体があるだけ幸せです。多忙ではあっても、PCに向かいながら何とか見ているドラマのことを、今回は何とか書こうと思います。
 多くのテレビドラマの撮影が新型コロナウィルスの影響で滞り、放送枠が空いて再放送ばかりになっています。そんな中で、スター俳優のスケジュールに左右されにくく、早くに撮影が終わっている深夜ドラマなどがなんとか放送されている現状です。今回は、深夜というほど遅い時間ではありませんが、プライムタイムではない作品のうちの注目すべき2作品について、その感想を書いてみたいと思います。

 いいね!光源氏くん (NHK、土曜23時半)
 偶然ではありますが、今クールでは土曜23時台の2作品に注目しています。その一つがこの『いいね!光源氏くん』です。平安時代の人物、それも物語内の架空の人物が現代に迷い込んでしまうというお話。不思議な設定とはいえますが、過去の人物が現代にタイムスリップするコメディ調作品といえば、韓国ドラマ『屋根部屋のプリンス』などにも共通するので、そこまで目新しいというほど奇抜ではありません。とはいえ、優雅な平安貴族と現代OLの奇妙な同居生活には、毎回けっこう笑わせてもらっています。
 光源氏はたしかに優雅で好色なな平安貴族ではありますが、実はたいへんな切れ者で権謀家でもあります。この作品では優雅さばかりが強調され、人物造形としてはおっとりしすぎていて少し物足りません。しかし、光源氏を演じる千葉雄大と現代OLを演じる伊藤沙莉のかけあいが実に上手く、1回30分という短いコメディ作品としては十分な完成度を持っています。
 それにしても伊藤沙莉は今や貴重な若手女優です。『ひよっこ』の米屋の一人娘、『この世界の片隅に』の近所の若奥さん、『これは経費で落ちません』の同僚経理課員など、印象的な脇役をこれまで多く演じてきています。こうした光る脇役を重ねて、今作では準主役、いや千葉雄大をしのぐ主役級の存在感を放っています。時代外れの千葉雄大のおっとり具合と、いかにも現代風の伊藤沙莉のちゃかちゃか感の落差を、おおいに楽しんでいます。

 M 愛すべき人がいて (テレビ朝日系、土曜23時台)
 浜崎あゆみへの取材をもとにした小松茂美の同名書籍をテレビドラマ化しています。ノンフィクション作品は、書き手の方が対象を選んで取材をし、それを文章化するのが通常です。しかし、この書籍は、普通は対象となる側が書籍化を構想して書き手を指名する、という手順をとりました。しかも、ノンフィクション作品ではなく、事実に基づいたフィクションとして規定されていることからも、一般のノンフィクション作品とは大きく性格が異なります。
 そういう性格を持つテレビドラマ作品ですが、『いいね!光源氏くん』とは異なる意味でおおいに笑えます。コメディとして笑えるのではなく、おおげさで極端な表現に笑えるのです。既に指摘が出ているように、1980年代に一世を風靡した大映ドラマ(『スチュワーデス物語』や『不良少女とよばれて』など)を思わせる作風がここに見られます。
 なぜ80年代に喜ばれた作風が現代に復活したのか。これはたいへん興味深い論じるべきテーマです。これは、近年話題になった『あなたの番です』や『3年A組』のように、作品としての完成度よりも、毎回の話題性を重視する作品が視聴者に支持される傾向と関係がある、と考えています。これがテレビドラマにとって望ましいことであるかどうかは一概にいえませんが、現代視聴者の傾向を示していることは間違いありません。たいへん興味深い課題なので、この件はまたあらためて、別の機会に論じてみたいと思っています。


※このブログはできるだけ週1回(なるべく土日)の更新を心がけています。




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