フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



   


 放送されているテレビドラマへの感想を、そのクール(3か月間)ごとに書くようにしています。ただ、そのクールのドラマ全部への感想を一度に書くのはたいへんな時間がかかります。そこで、何回かに分けて書くことにします。今回はその1回目です。

 まず今回は、これまで3回以上放送された 次の作品についてです。すなわち、『偽装の夫婦』、『無痛』、『掟上今日子の備忘録』、『エンジェルハート』、『破裂』、そして、10月から来年3月まで放送する朝ドラ『あさが来た』です。まず朝ドラからいきましょう。


『あさが来た』 (月曜~土曜、NHK) 

 朝ドラ初の江戸時代スタートという時代設定の作品です。それはともかくとして、ここ数年の朝ドラの中でもかなり面白い作品になっています。
 主人公のあさの状況は、実はかなりよくないものです。結婚相手はまったく働かずに毎晩三味線の師匠の家に入り浸り、時代が変わって嫁ぎ先の両替商の商売は危機的な状況、姉は嫁ぎ先の家でひどい仕打ちを受けて妹に会わせてももらえない…となると、これは客観的に見れば、かなり深刻な状況です。
 それなのに主人公のあさは明るい。そして前向き。しかもまるっきりの天然!
 毎朝明るい気持ちになれ、元気をもらえる作品になっています。

 ちなみに姉の結婚相手である山王寺屋の眉山惣兵衛とそれを演じる柄本佑の評判がよいようです。この点に関して週刊誌の取材がありましたので、そちらにも私のコメントが掲載されています。⇒『週刊文春』(2015年10月19日号)



『偽装の夫婦』 (水曜22時、日本テレビ系) 14.7%→10.3%→11.3%

 『家政婦のミタ』、『女王の教室』などを書いた遊川和彦の脚本作品。遊川は、最近も『○○妻』などの謎めいた作品を書いています。
 ただし、この作品はかなり違います。謎が少しずつ明らかになっていくという展開ではなく、初回にすべて状況がわかります。その状況とは、図書館勤務の独身女性(天海祐希)の前に、25年前に突然自分を置いて去った恋人(沢村一樹)があらわれる。その彼は実はゲイだったために、自分と別れたことが明らかになり、さらに彼とは偽装結婚をすることになる…というのが初回の展開です。
 「ゲイの男性との偽装結婚」という突飛な設定ですが、遊川脚本にしては笑いの要素が多く、楽しめる内容です。さらに、ときおり主人公の心の中が字幕で示されることと、天海の演技力とによって、元恋人に振り回されながらも彼を受け入れていく、主人公の気持ちがうまく描かれていきます。ゲイの男性で主人公を振り回す男性役の沢村一樹も適役です。
 衝撃力のあった『家政婦のミタ』のような高視聴率にはなっていませんが、高く評価される作品になっていると思われます。


『無痛』
(水曜22時、フジテレビ系) 11.6
%→7.1%→8.4%

 原作は久坂部羊の小説『無痛』。
 医療・病院もののテレビドラマは数多くありますが、その中で、この作品の特徴は主人公の特殊な能力です。
 町で診療所をしている医師・為瀬英介(西島秀俊)は、人を見ただけでその病気がわかる特殊な能力を持っています。そればかりか、「犯因症」と呼ぶ、犯罪者に特有の特徴をも見出すことができます。その能力によって、犯罪者を見分けたり、これから犯罪を犯す可能性の高い人も察知することができます。
 正義感が強いが、熱くなりすぎる警察官(伊藤淳史)が英介の能力を知り、犯罪捜査に協力を求めることから、英介は事件や犯罪にもかかわっていきます。
 そのような特殊な能力をめぐる物語の展開には興味をひかれますが、何しろ『偽装の夫婦』と同じ放送時間。視聴率を分け合ってしまうのが残念です。



『掟上今日子の備忘録』 (土曜21時、日本テレビ系) 12.9%→10.3%→10.9%

 原作は西尾維新のライトノベル。ガッキー(新垣結衣)が、一度眠ると記憶を失ってしまう探偵を演じています。原作小説をドラマ化する場合、俳優や制作の都合で、原作のイメージと大きく異なる主人公像になることがあります。しかし今回は、白髪に大きなメガネという原作そのままの主人公像をガッキーが可愛らしく演じています。異常に運の悪い男・隠館厄介(岡田将生)とともに、キャスティングはキャラクターにぴったりの選び方がなされているという印象です。
 謎解きとしての特徴は、主人公が記憶が継続されている間という制約があること。つまり、その日のうちに事件を解決しないといけないという点です。謎解きの部分は必ずしも本格的・必然的とは言えませんが、それだけに話の展開が早く、楽しめる作品になっています。
 また、一日で記憶を失ってしまうというのは、どこかはかなく、悲しい設定でもあります。さらに、毎回起こる事件も、単なる謎解きというよりは、人間の心の断面を描き出すようなところがあります。基本的には明るくて軽いミステリー作品ではありますが、そこには少し物悲しいトーンも含まれています。
 毎回同じ趣向だと少し飽きてくる気もしますが、土曜日21時は、小中学生と親が一緒に見ることの多い、1週間の中の貴重な時間帯。そのような視聴者には適した、見やすい作品になっています。


『破裂』 (土曜22時、NHK) 4.2%→3.2%→2.5%

 『無痛』と同じ久坂部羊の原作小説のテレビドラマ化。近年は池井戸潤原作小説のテレビドラマ化が大流行。一時は東野圭吾原作小説のテレビドラマ化も多くありましたが、今回は偶然か、久坂部羊原作小説が別の局で同時にテレビドラマ化されました。
 原作小説は5人の主要人物を重視して描いていきますが、テレビドラマはそのうちの一人、香村鷹一郎(椎名桔平)をメインに据えています。その上で、画期的な心臓治療法の開発とその副作用、大学内の教授昇進争い、厚生労働省職員の思惑、医療事故に関する訴訟などを絡めて描いていきます。
 けっして華やかさのある題材ではないので、この作品のテレビドラマ化はNHKならではと言えるかもしれません。そう言えば、近年はNHK制作のテレビドラマが多く、それぞれに特色のある作りがなされています。私はテレビドラマ研究者として、このようなテレビドラマ制作の多い状況は基本的に歓迎なのですが、その一方で、民業が圧迫されるほどNHKドラマが活発になるとなると、それには複雑な思いがあります。視聴率やスポンサーへの配慮をそれほど気にしなくてよいNHKには、NHKならではの質の高い作品を数を絞って制作してほしいと思っています。
 なお、この作品『破裂』は全7回の予定。原作の複雑な内容からすると、NHKならもう少し長く制作・放送してほしい気もしますが、後半の展開はおおいに楽しみです。


※このブログはできるだけ週1回(なるべく土日)の更新を心がけています。




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