フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 放送されているテレビドラマへの感想を、そのクール(3か月間)ごとに書くようにしています。ただ、そのクールのドラマ全部への感想を一度に書くのはあまりにも時間がかかってたいへんです。今回は、何回かに分けて書こうと思います。

 まず書きたいのは次の3作品です。いずれも視聴率は上がっていませんが、私の中では高く評価したいと思える作品です。

『リスクの神様』 (水曜22時、フジテレビ系) 7.0%→6.0%→5.7%
 数字を見ればわかるように、視聴率は低迷しています。しかし、内容は実に面白い。
 アメリカの企業や政府関連の危機管理をおこなってきた西行寺智(堤真一)が、その手腕をかわれて、日本のサンライズ物産の危機管理室長に迎えられ、さまざまな問題に対処する、という設定です。他のドラマのように、主人公が見事に解決してめでたしめでたし…ではありません。西行寺らは、トラブルを最小限に食い止めるのが彼らの役割です。「危機に直面した以上、無傷ではいられません」。これが西行寺のよく発する言葉。つまり、何かを守るために何かを捨てる。その取捨選択の決断を迫られるところがきわめて現実的で、このドラマが真に迫っているところです。
 それでも視聴率が低迷するのは、このドラマが「経営者側」からの視点で作られているからでしょう。危機に直面した組織が何を守って何を捨てるのか。それは高度な経営判断を必要とする問題です。他のドラマのように、主人公という一個人の側から描かれているわけではないので、このドラマに共感や親近感を持てる人は、そう多くはないでしょう。
 せっかくよく出来た面白いドラマなので、この作品はNHKで視聴率を気にしないで作られたらよかったのに。そう思わせられたドラマでした。


『恋仲』 (月曜21時、フジテレビ系) 9.8%
 フジテレビの看板ドラマ枠である月曜9時のドラマが、初めて1ケタ台の視聴率から発進したということで、大きな衝撃を与えているようです。恋愛ドラマは現在は視聴者に支持されない、という定評がここでもその通りになってしまったようです。ただ、実際にドラマを見て、私はこのドラマにけっこうはまりました。

 ドラマは3人の高校生の話から始まります。三浦葵(福士蒼汰)と芹沢あかり(本田翼)は、同じ学校に通うおさななじみ同士の高校3年生。二人はお互いを男女として意識しながら、おさななじみの関係から踏み出しかねています。そこへ転校生の蒼井翔太(野村周平)が加わり、さらにはあかりの家庭に大きな問題が起こる…という話です。
 おさななじみの恋愛。スポーツに打ち込む男性と応援する女性。友情と三角関係。花火の日のキス。恋愛をさまたげる障害…等々。
 少女マンガにあるような定番の展開で、どの場面にも既視感があることは否めません。それでも、富山県の風景や街並みを舞台に、葵とあかりの高校時代のようすがとても美しく描かれています。私自身は、次に北陸地方から講演などの依頼があったら、ロケ地になった滑川市あたりをぜひ訪れてみたいという気持ちになりました。
 それでも視聴率が低かったのは、現代が恋愛ドラマの難しい時代であることにもよると思います。
 現代においても、たとえば少女マンガや映画などの分野では、恋愛ものは一定の支持者を集めています。ですから、恋愛ものを求める人がいなくなったわけではありません。しかし、マンガや映画は、それを強く支持して、お金を払ってそれを享受してくれる人が一定数いれば、それはマーケットとして成り立ちます。しかし、テレビドラマの場合は、数万人の強い支持者だけで成り立っているわけではなく、ただリモコンのスイッチを入れるだけでもいいから、その放送時間に見てくれる視聴者が、マンガや映画よりもはるかに多くの人を必要とするメディアです。
 その点を考えるならば、恋愛像の多様化している現代において、浅く広くの支持者を集めなければならないテレビドラマが恋愛を描くのは、過去のどの時代に比べても困難だと言えるでしょう。(恋愛像の多様化についてはまたあらためて別の機会に書きます。) しかし、視聴率は高くないけれども、一部の視聴者には強く支持される作品になると私は考えています。


『表参道高校合唱部』 (土曜21時、TBS系)
 香川県から上京し、表参道高校の合唱部に入ることを楽しみしていた主人公・香川真琴(芳根京子)。しかし、その合唱部は部員もわずかで、顧問もやる気がなく、廃部寸前。そこから真琴が部員を集め、合唱部を立て直していきます。
 と書くと、ストーリーはあまりにも定番。何のひねりもない、ありがちの設定と言ってもいいでしょう。しかし、私はこの作品に制作者の志を感じます。キャストにばかり注目が集まり、このドラマには誰が主演する、あのドラマには誰と誰が顔を合わせる、といった話題で視聴者を引き付けようとすることの多い昨今のドラマ。それに対して、この作品の中心となる8人の合唱部員は、中には実績ある若手俳優もいるものの、一般にはまだ知名度の低い若手ばかり。主役の芳根京子もオーディションで選ばれたそうです。かつて名作『ふぞろいの林檎たち』(1983年~)の中心になった7人が、その後みな俳優として実績をあげていったように、何年かしたら、この作品にはなんと豪華な俳優たちが集まっていたのだろうと、振り替えられることになるかもしれません。
 もう一つ私が注目しているのは、青春学園ドラマの歴史に対する位置づけ。私の大学での講義の内容にもあるのですが、青春学園ドラマはいつの時代にもあるものの、背景となる時代の要素が必ず反映しています。ただ、今年放送された『学校のカイダン』もそうだったように、もはや学園青春ドラマの主役は先生ではないという変化が、やってきているのかもしれません。学園青春ドラマは、強いリーダーシップで生徒をひっぱる先生から、生徒視点で共感的に生徒にかかわる先生へと変化し、さらには先生ではなく生徒自身が学校や生徒を変えるようになっていく。そう仮定して学園青春ドラマを考えてみると、この作品が学園青春ドラマの現代性をあらわしているとも考えられます。この点に関しては、ドラマ研究者の立場から、今後も注視していきたいと思います。


※このブログはできるだけ週1回(なるべく土日)の更新を心がけています。





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