フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 韓国映画 『ポイントブランク 標的にされた男』 をマスコミ試写会で見てきましたので、その感想を書いておきたいと思います。
            

 まず、映画の概要紹介は以下の通りです。
 
 元傭兵ヨフンは、何者かに銃撃され病院に運び込まれる。一方、治療を担当した医師のテジュンは突然妻を誘拐され、「妻を助けたければヨフンを病院から連れ出せ」という謎の電話を受け取る。テジュンは理解できぬままヨフンとともに病院を脱走するが、事件の黒幕と警察が2人を追い詰めていく。
 仏監督フレッド・カバイエの「この愛のために撃て」を、韓国のチャン監督がリメイク。カバイエ監督は、本作を「オリジナルよりもすばらしい脚色」と大絶賛している。「王になった男」のリュ・スンリョンと「怪しい彼女」のイ・ジヌクが主演し、「コードネーム:ジャッカル」のキム・ソンリョンらが共演する。
 ヨフン(リュ・スンリョン)とテジュン(イ・ジヌク)の逃亡劇が描かれている予告編は、なぜ2人は事件に巻き込まれ、誰につけねらわれるのか、謎がそこかしこにちりばめられ、激しいアクションとカーチェイスが緊迫感をあおる。女刑事ヨンジュ(キム・ソンリョン)と、犯人検挙率100%のエリート班長・ギチョル(ユ・ジュンサン)が迫る中、ヨフンとテジュンは真相に近づいていくという、迫真の仕上がりとなっている。
(「映画.com」より)


 このようなサスペンスアクション作品自体は、それほど珍しいものではありません。無実の人間、平凡な市民が何かのきっかけで事件に巻き込まれ、そこから大きな事件が展開していく……という映画作品は、これまでにも数多く作られています。しかし、この作品のスピード感は並み大抵のものではありません。50代の動体視力の衰えた私には、時にはついていけないほどの(泣)スピード感あふれる作品でした。
          
 実はそこに韓国映画やドラマの共通するコンセプトがあります。私の著書『テレビドラマを学問する』(中央大学出版部)の中でも書いたことですが、韓国映画やテレビドラマの根底にあるのは、それが現実に起こるかどうかによってリアリティを確保することではありません。それよりも、フィクションの世界に強引に見る者を引き込むことによって、それが現実に起こるかどうかという疑問すら忘れさせてしまうというフィクションの作法が韓国ドラマの根底にある思想です。
 その意味では、アクション作品もラブストーリーも、根底にあるコンセプトは同じです。ラブストーリーでは、見る者を泣かせる設定と俳優の強烈な演技によって視聴者を引き込み、もはやその世界を疑う余裕を与えません。今回の『ポイントブランク』のようなアクション作品では、目まぐるしく起こる事件とアクションシーン連続によって、視聴者を非日常の世界に連れ去って、そこから日常に戻る余裕を敢えてくれません。

 少し冷静になって考えてみると、腹部を銃で撃たれた人物が、その直後に超人的な活躍とアクションシーンを演じることや(この作品の大半は36時間内に起こったことになっています)、警察組織内にこれほどの犯罪グループがいながら、それまでまったくその痕跡が残らなかったことなど、実はおかしなことはいくつもあります。しかし、見ている間にはそんな疑問を差し挟む余地がないほど、作品のスピード感あふれる展開に引き込まれてしまうのが、この作品の最大の特徴です。
 加えて、韓国作品に特有の「貧富の差」「怨念ともいえるような復讐心」などが、サスペンスアクションというジャンルに韓国特有のフィクション色を加えています。
           
 私自身はこうしたサスペンスアクションというジャンルを普段はそれほど見ないのですが、見てみると、これほど見ている時間を忘れてしまうほど没入してしまう作品は、過去にもありませんでした。このジャンルがお好きな方であれば、なおさらおススメできる作品です。

          


この映画は、11月15日から東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で公開されます。




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