フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 恒例のテレビドラマ批評です。
          

 やっと4~7月期の校務は一段落しましたが、あいかわらず職務多忙につき、簡単なコメントだけで失礼します。
 いつも通り、ドラマ名の後にここまでの視聴率を示しておきます。(ビデオリサーチ社、関東地区)
          

『HERO』
(フジ、月9)  26.5%→19.0%→20.5%→18.7%→21.0%

 13年前の大ヒットドラマの第2シリーズ。間違いなく今クールの一番の話題作で、視聴率も好調です。13年前ほどではないという意見もありますが、ドラマ全体の視聴率低下傾向からすれば、これでも立派なものでしょう。
 なお、この作品については 「産経ニュースWEST」 の芸能考察から取材があり、私のコメントが載った記事がもうすぐアップされますので、よろしければそちらを御覧ください。
          

『あるなろ三三七拍子』 (フジ、火9)  7.7%→5.1%→5.3%→4.1%→5.0%

 重松清原作小説のテレビドラマ化。つぶれかけた大学応援団を立て直すために、中年サラリーマンが大学に再入学して応援団長になるというストーリー。華やかさのない題材で、残念ながら視聴率は上がりません。しかし、見てみればなかなかの作品です。
 私は前時代的な上下関係も精神論の絶対視も嫌いです。ですから、そういう考えを美化されたら拒絶したくなります。しかし、この作品は、大学応援団の前近代性を示しながらも、それを無前提に肯定するのではなく、その非効率性を前提としながら、そこに底流する無報酬の精神性を描き出しています。
  「馬鹿にしながらつい、いつの間にか共感してしまう」。そんな作品になっています。
          

『GTO』
 (フジ、火10)  9.7%→7.1%→6.2%→6.4%→7.4%→6.6%

 鬼塚先生の説教はシンプルで力強く、別の言い方をすれば説教くさい。それが特に10代を中心とした若い世代にどう響くか、が問われるところです。最初の反町版シリーズが放送された1990年代後半は、バブル景気とバブル崩壊の両方を経験して、価値観の迷いの極地にあった状況。その時代の若者たちには、鬼塚先生のシンプルだけど力強いメッセージが心に響いたのでしょう。その時代が、もっともこのドラマに適していた時期だったと思われます。
          

『ST』
(日テレ、水10)  13.6%→11.4%→13.1%→12.6%→9.8%

 「変わり者だが特殊な能力のある警察官・刑事たちを集めた警察内の部署」という設定をとるのは、もはや珍しくない近年の犯罪もの、警察もののスタイルです。その中で、どれだけオリジナリティを出せるか。
 この作品におけるそのオリジナリティは、藤原竜也演じる赤城左門の人物造形です。赤城は有能な監察医で、推理力も抜群だが、いかんせん犯罪推理・捜査にしか関心がなく、何より対人恐怖症! したがって、推理はするが聞き込みなどの実地の捜査ができない。その天才ぶりと情けなさのギャップが笑えます。
 したがって、私はこの作品を、犯罪捜査ドラマ(事件が起こってそれを解決する作品)というよりも、赤城主演コメディ作品として見ています。
          

『若者たち2014』 (フジ、水10)  12.7%→7.8%→7.8%→7.3%→6.8% 

 言わずと知れた名作ドラマ・映画のリメイク作品。それにしても、オリジナル作品の放送は1966年、映画はその翌年の1967年。これほど年月を隔てたリメイクは珍しいことです。私は学生時代(1970年代後半)に、過去の名作として、映画だけは見た思い出があります。
 これだけ年月を隔てたリメイクとなると、その時代の差異をどのように扱って描くかがリメイク制作者に問われます。今回のリメイクは、オリジナル作品をこれ以上ないというほど尊重した制作と理解しました。その分だけ、時代背景の違いが浮き彫りになってしまうという課題は残ります。つまり、今の時代の話としては、内容にかなり違和感が残ってしまう面は否定できません。
 過去の作品を学生時代に見た私としては、オリジナル作品を尊重してくれていてたいへん嬉しいのですが、若い視聴者がこの雰囲気についてきてくれるかどうか、心配されるところです。
        

『同窓生』 (TBS、木9)  10.9%→8.4%→6.3%→6.2%→7.8%→7.1% 

 今クールの作品のうち、『若者たち2014』 『同窓生』 『昼顔』の3作品は、やや復活感・懐古感のある作品です。『若者たち2014』はもちろん1960年代作品のリメイクですが、『同窓生』も1980年代後半以降の恋愛ドラマ全盛期の、『昼顔』は1980年代半ば以降の「金妻」などの不倫ブームの雰囲気が漂います。
 思えば柴門ふみ原作漫画のテレビドラマは、これまでに数多くありました。『同級生』(1988年)『東京ラブストーリー』(1990年)『あすなろ白書』(1992~93年)などなど。これらの作品は、バブル景気のいわば「恋愛至上主義」的風潮の中で、絶大な人気を博しました。
 それに比べると現在は、やや「恋愛ドラマ不遇の時代」です。やはり恋愛ドラマは景気がよくて、経済面の心配が少ない時期の方が流行るということもありますし、そもそも若者たちが「草食系」などと言われて、「恋愛に突進する」タイプがめっきり減ってしまったことも理由にあるでしょう。
 私自身は、テレビドラマの主人公が若者たちばかりではなく、こうした中年にさしかかる人たちが主人公として描かれ、ドラマの幅が広がることを歓迎したいと思います。それによって、そのような年齢層の視聴者がテレビドラマ帰ってきてくれることを願っています。
        

『昼顔』
(フジ、木10)  13.3%→13.5%→12.0%→13.1%→11.8% 

 前に書いたように不倫ブームの頃のドラマの作りを思わせますが、復古感の雰囲気の濃い3作品のうち、この『昼顔』が一番古めかしい感じがしません。主婦の不倫は一時的なブームではなく、今なおコンテンポラリーなテーマだということでしょうか。
 主演の上戸彩は、以前は健康的・優等生的なイメージの役が多かったのですが、『流れ星』(2010年)の風俗嬢役でイメージチェンジしてから、大人の色気と影のある役がはまってきています。
 ちなみにテーマ曲「他人の関係」は1973年のヒットで曲で、当時歌っていたのは金井克子。映像作品でも音楽作品でも、リメイクは常に、「なつかしさ」と「新鮮な驚き」の両方が必要です。オリジナルの金井克子の無機質的な歌い方に対して、今回のボーカル・一青顏窈のねっとりとした粘着質の歌い方がその「新鮮な驚き」に当てはまり、私はこの選曲と一青の起用がうまく機能していると感じました。
          

『家族狩り』 (TBS、金10)  10.5%→6.9%→5.6%→6.4%→8.5% 

 ホラーっぽいテイストを含んだミステリー作品ですが、私は気持ち悪いのは苦手なので、申し訳ありませんが、途中で断念いたしました。ごめんなさい。
          

『金田一少年の事件簿』
(日テレ、土9)  12.4%→7.7%→8.8%→10.2% 

 土曜日9時枠は、小中学生を中心とした少年少女たちとその親の世代が一緒に見られるドラマを放送する枠です。その意味では、「金田一少年もの」はもはや目新しさはありませんが、謎解きもあり、アイドルの出演もあり、必要なものは一応そろっています。
 安心して親子で見られる、優良コンテンツと言えるでしょう。
          

『水球ヤンキース』 (日本テレビ、木深夜)  8.8%→7.2%→5.6%→6.7% 

 「若者」「スポーツ」「エリート校に対抗する落ちこぼれ生徒たち」「エネルギッシュな主人公」という、青春ドラマの王道を行くドラマです。
 主役・稲葉尚弥を演じる中島裕翔の中途半端な金髪が気になります(ヅラ?)。つっぱる役のわりに人がよさそうなルックスなので、見た目から徹底的にヤンキーにしてほしいところです。
          

『おやじの背中』
(TBS、日9) 15.3%→9.2%→8.5%→9.4%→9.5%

 毎回、異なる脚本家による作品で、キャストも毎回異なります。こういう企画は今までなかったわけではありませんが、これだけ豪華な脚本家と俳優陣がそろうことは記憶にありません。毎回、脚本家の個性が強くにじみ出ています。
 たとえば、第1回と第2回は同じ「父と娘」を題材にしていますが、第1回の岡田惠和作品はしみじみした味わいの作品、第2回の坂元裕二作品はかなりぶっとんだ父娘を描いた作品です。その脚本家がこれまで書いてきた作品と思い比べながら、これからもこのドラマを鑑賞したいと思います。
          





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