こんな本を読みました

気ままで偏りのある読書忘備録。冒頭の文章は、読んだ本からの引用です。

『センセイの書斎』(内澤旬子)

2014-06-10 | ルポ・エッセイ
書斎に並んだ本の背を端から順にじっと眺めているだけで、不思議なことにじわあっと
持ち主や並べた人の個性が滲み出してくることがある。


 内澤さんの緻密なイラストルポ。取材されるセンセイは錚々たる面々。「河童の覗いたトイレ」以来の
素晴らしい切り口だ~!?もう少し文章を読みたい気もするけど、イラストとのかねあいでこのバランス
がいいのかな。取材は2000年前後で、「あとがき」の2006年時点ですでに鬼籍に入っている方が
いらっしゃる。そして現時点ではさらに…そういう切なさも含めて、なんだかいろいろ考えることの多かっ
た一冊だ。
 私自身、壁一面の本棚にずっと憧れていて、仕事部屋を持った時には即刻実行し、悦に入ったこともあ
る。10年後、退去に伴い処分した本は700冊以上あってなんともやるせない気分になったが…そんなの
甘い甘い、ここに登場するセンセイ方は万単位の蔵書である。きっと、この本が出版されたリアルタイム
で読んでいたら、さらに憧れを募らせたことだろう。しかし、震災やさまざまな喪失体験を経た今、つい
考えてしまうのは「死んだら全部ゴミになるんだな」ということなのである。実際、センセイ方の蔵書の
行方もとても気になる。すでに図書館への寄付を決め、少しずつ送り出している金田一春彦先生の覚悟と
準備は素晴らしいと思ったが、一般素人にできることではない。
 それでも、そんな先のことばかり考えて、本に囲まれる幸せを放棄してしまうのはつまらない人生だと
思わぬでもない。やっぱり、好きな本に囲まれ、思い思いの方法で分類し収納するセンセイ方の様子は楽
しそうだ。人の本棚を見るのは本当に面白い。意外な自分との共通点を発見すると、それだけで嬉しくな
るし、知らない本ばかりだと俄然興味がわく。いつか、何もかもリタイヤして過ごすことができるなら、
少なくても本当に好きな本、好きなものだけに囲まれる生活…してみたいなあ…生まれ変わっても無理か
しらん。…切ない現実。
 あと、もうひとつ切ないのは、ネットが発達し場所をとらない電子書籍なんかが流通する今、「断捨離」
などの「持たない生き方」がもてはやされる今、これほどに増殖する本自体を愛でる人も激減しているん
だろうなという実感。もちろん一定数は生き残っていくにしても。この本を見て行ってみたいと思った神
保町の地方・小出版の専門店書肆アクセスは2007年に惜しまれつつ閉店していた。

…楽しい本だったのに、書き出すとやりきれないことばっかりだなあ…



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