こんな本を読みました

気ままで偏りのある読書忘備録。冒頭の文章は、読んだ本からの引用です。

『ことり』(小川洋子)

2016-07-10 | 現代小説
小鳥のさえずりだけをお手本に、お兄さんはただ一人、自分で自分の耳に音を響かせながら、
小島に散らばる言葉の石を、一個一個ポケットに忍ばせた。


 いつの頃からか「小鳥のおじさん」と呼ばれるようになっていた初老の男性の死から、物語は始まる。
小鳥のおじさんがそう呼ばれるようになった経緯、そこに至るきっかけをつくった兄の存在と話は紡がれ
ていき…
 幼い頃から、人とは違う言語を持つようになったお兄さん。世界で唯一、その言語を理解することので
きた弟。そのつながりは濃厚で、世界は閉じ続けている。お兄さんの言語について、さまざまに説明され
る文章が、繊細でいかにも小川洋子チック。引用から続く次のセンテンス「小鳥たちのさえずりからこぼ
れ落ちた言葉の結晶を拾い集めていった。」も捨てがたい。でも、あまりにも閉塞感があるせいか、ちょ
っと読み進むのが苦しかった。兄弟の小さなチャレンジや小父さんの恋心にも、悲しい予感しかしないの
だもの。ま、最初が小父さんの死だもんな。でも、淡々とした日々のなか、ささやかな幸せに彩られた、
ささやかな人生は、やはり美しい。「俗物」の試練がちょっときつめの、ザ・小川洋子ワールドだった。

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