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後期高齢者医療制度導入などで注目される医療費の負担のあり方

2008-04-23 05:34:43 | 国内政治
 ◇金のない人は医者に行くなと言うのか…

 「何や、私はどこにも入ってへんの」。兵庫県西宮市役所で今月初め、信濃純代さん(73)は職員に確認した。医療保険未加入の状態で数日過ごしていた。

 後期高齢者(長寿)医療制度は、75歳以上が対象だ。しかし社会保険に入っていた77歳の夫が新制度に移ったのに伴い、扶養家族だった信濃さんは、新たに子どもの扶養を受けるか、国民健康保険に入る手続きが必要だったのだ。

 小泉内閣の06年6月に成立した医療制度改革関連法。現役並みの所得がある70歳以上の窓口負担が3割に増えたことなどに比べ、後期高齢者医療制度創設は一般の注目を集めなかった。新保険証が届き、年金からの天引きを知ったお年寄りが役所に殺到するのは、制度が始まってからのことだ。

 信濃さんの夫の保険料は新制度で年間11万円増えた。信濃さんの国保保険料を含め夫婦の負担増は年14万円に上る。「老後の生活設計もやり直し」と言う。

 日本有数の豪雪地帯、岩手県西和賀町。佐藤ヒデさん(77)は、運送会社で働く長男正一さん(59)家族と同居する。亡夫の遺族年金が主な収入だ。

 正一さんの扶養家族のヒデさんは、保険料を払う必要がなかったが、新制度で徴収対象に。政府・与党合意で半年間は免除されるが、10月に年金からの天引きが始まる。

 正一さんは年収約350万円。妻と共働きで家計を支える。原油高の影響で運送会社の賃金も頭打ち。自宅の冬の灯油代は月4万円ほどで、この1年半で倍近くになった。

 岩手県の平均保険料は年4万7733円。ヒデさんに保険料額の通知はまだない。月1度、町の送迎バスで高血圧の薬をもらいに通院する程度だが、健康への不安はある。「昭和1けた世代は長生きするもんではないかもな。ハハハ」。笑い飛ばすヒデさんだが、その目は厳しかった。

    ◇

 同じ西和賀町の北部にあった旧沢内村は60年、全国に先駆けて65歳以上の医療費無料化を実現した。生活保護世帯が1割を超していた村。通院を我慢して重病になる人も少なくなく、結果的に医療費が増えていた。その悪循環を断ち切るための措置だった。

 73年から20年間、村長を務めた太田祖電(そでん)さん(86)は、医療費無料を守り切った。05年の町村合併で無料化の旗を降ろしたが、今も自己負担は通院月1500円、入院5000円の上限を定め、あとは町で負担する。住民税非課税世帯の65歳以上は無料のままだ。

 「国の新制度は『金がない人は医者にかかるな』と導くもの。いずれ日本は、無料化前の沢内村のようになるのでは」。太田さんは懸念する。【佐藤丈一】

    ◇ 

 とどまるところを知らない医療費の伸び。政府は、その抑制に躍起となっている。今月スタートした後期高齢者(長寿)医療制度も、抑制策の一環だ。しかし、医師不足など地域医療の崩壊が進み、「医療費抑制はもう限界」との悲鳴も聞かれる。現状を打開するのは、公的保険がカバーする範囲の見直しなのか。それとも国民が保険料や税の負担増を受け入れるべきなのか。選択が迫られている。【吉田啓志】

 ◇混合診療解禁論
 Q なぜ医療費を減らす必要があるの?

 A 医療技術が進歩し高齢化が進んだことで、医療費が増えているのはやむを得ないこと。患者の窓口負担を含めた総医療費を国民医療費=注<1>=と言うけど、そのうちどこまで税と保険料による公的医療費でカバーするかで意見が分かれている。公的医療費の伸びを抑えないと国家財政がパンクするとの危機感が、背景にあるんだ。

 Q 公的医療費でカバーしないところは?

 A 政府の規制改革会議は、民間医療保険の活用と、混合診療の解禁を主張している。

 Q 混合診療って?

 A いまの制度は「必要な医療はすべて公的保険でみる」のが基本で、保険非適用の療法や薬は「不必要で安全性を欠く」という建前なんだ。例えば保険非適用の30万円の抗がん剤を使うと、本来は保険が利く検査や入院費などの70万円も含め、100万円すべてが自己負担になる。このように保険が適用されないものと適用される療法の併用を混合診療と言うんだ。厚生労働省は「怪しい療法に公的医療費は使わせない。望むなら自己負担」というけれど、併用しても本来保険が利く部分には公的医療費を充てるのが、混合診療の解禁さ。

 ◇所得で健康格差
 Q 解禁で公的医療費は減るの?

 A 解禁されると、例えば製薬会社は時間のかかる保険適用を申請する利点が薄れて保険適用外の新薬が増え、公的にカバーする分野は縮小していく--というのが解禁に慎重な人たちの指摘だ。低所得者は十分な医療を受けられなくなり、所得による健康格差が広がると主張している。

 Q 解禁派は?

 A 財政健全化だけでなく、保険非適用の薬や療法を切望する患者の自己負担を軽減する必要を強調している。厚労省も混合診療を全面禁止はしていない。患者の要望は強いし、何でも公的保険でみるのは不可能との本音もある。専門家が安全性や有効性にお墨付きを与えたものは、将来の保険適用検討を前提に混合診療OKとする仕組みだ。解禁派は一層の拡充を求めているけどね。

 Q どうしたらいい?

 A 公的保険を縮小すると、怪しげな治療や薬が入り込む可能性はある。でも欧米の月100万円かかるような新薬まで保険適用すると、財政がもたない。GDP(国内総生産)に占める公的医療費は6%台。医療界には欧州並みに7~8%への引き上げを求める声が強いけど、保険料アップと増税で10兆円近い財源が必要。まさに政治が国民に問うべきテーマだね。

 ◇「75歳以上」切り離し
 Q 75歳以上の人の医療制度が変わったね。

 A やはり医療費抑制策なんだ。75歳以上の約1300万人は、これまで国民健康保険や企業の健保組合などに入っていたけど、全員が後期高齢者医療制度に移行。保険料が年金から天引きされ、評判の悪さに政府は長寿医療制度と愛称をつけたけどね。

 Q どうして新制度が必要なの?

 A 05年度の1人当たり医療費は、現役世代15万9200円に対し75歳以上は5倍の81万5100円。老人医療費圧縮のため、75歳以上の医療を他の世代から切り離した。日本は治療をするほど値が張る出来高制が基本。75歳以上は一部定額制を導入し、糖尿病など慢性病の人はかかりつけ医に月1度定額の「後期高齢者診療料」を払うと、多くの治療や検査は何度受けても新たな負担が不要になった。医師報酬は6000円。75歳以上の窓口負担は原則1割だから600円だね。

 ◇「みとり」院外へ
 Q 朗報じゃない?

 A 患者の負担は減る。でも定額なら、必要な治療さえしない利益優先の医師が出てくる懸念もある。患者と相談し終末期医療の方針を文書化すれば医師に2000円の報酬が出るようにもなったけど、これも高額の延命治療を減らし、病院でなく自宅などでの「みとり」を増やす方向に誘導しようというものさ。

 Q 保険料は?

 A 新制度は都道府県単位の広域連合が運営し、それぞれ値段が違う。単純平均で比べた場合、全国平均は年7万2000円だけど、最高の神奈川県は9万2750円で、最低の青森県4万6374円の約2倍。医療費を安くできれば独自に保険料を値下げでき、都道府県に医療費削減を競わせるのも狙いだ。

 Q 負担は増えるの?

 A 人それぞれだね=注<2>。厚労省は、国民年金受給者は今の国保保険料より減ると言うけど、運営が都道府県単位になるから従来の市町村の補助がなくなって負担が急増する人もいる。新制度の公的医療費の50%は税金、40%を現役の支援金で賄い、10%に75歳以上の保険料を充てる。お年寄りの負担割合は引き上げられる予定で、厚労省は15年度には10・8%になると試算している。

 ◇地方の医師不足、疲弊する勤務医…
 Q 「医師がいない」と、病院を次々に断られた揚げ句患者が亡くなる例が続いたね。医師不足と医療費抑制策は関係あるの?

 A 04年に新人医師の臨床研修制度が始まったことが大きい。従来新人は出身の大学病院で研修する例が多かったけど、新制度は自分で研修先を選べるので地方を嫌がる人が増え、地方を中心に医師が減った。ただ、根本原因は、医療費抑制を狙った医学部の定員削減にある。07年度の入学定員は約7600人で、84年度より8%少ない。

 Q 足りないの?

 A 厚労省は「総数は足りているが都市部に偏在」と言ってきたけど、今年ようやく「総数が足りない」と認めた。人口1000人当たりの医師数(04年)は2・0人。経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国中27位だ。04年時点で26万6000人必要なのに、診療に当たっている医師は25万7000人だ。

 Q 対策はないの?

 A 08年度診療報酬改定でも、不足が際立つ産科や小児科を中心に、勤務医対策に1500億円投入する。緊急搬送の妊婦を受け入れた病院に5万円の加算も設けた。

 Q それで医師が増えるの?

 A うーん……。疲れ果てて辞める勤務医を踏みとどまらせる効果はあるだろうけど。

 Q 1500億円じゃ足りない?

 A そうだね。病院の総年間収入16兆円の1%に満たない額だし、1500億円のうち400億円は開業医の収入を削って工面する形だからね。

 ◆注

 <1>国民医療費

 05年度の国民医療費は、前年度比1兆円増の33.1兆円。20年前の2倍以上に増えた。一方、厚労省は06年度に27.5兆円だった公的医療費が、15年度に37兆円、25年度は48兆円に達するとみている。医療費増は各国共通の悩みで、費用対効果で公的保険適用を判断する動きが広まっている。英国は、国立の機関がその療法を受けた場合の生存年数などを指標化。カナダなども同様で、06年には韓国も似た評価システムを取り入れた。日本はこうした点で遅れている。

 <2>後期高齢者医療の負担

 大都市を中心に独自の国民健康保険料の軽減措置がなくなり、負担が急増した人もいる。職場の健康保険に入っていた人は、保険料の事業主負担がなくなり全額自己負担となった。新制度に移った人の扶養を受けていた75歳未満の家族は国保に加入し、保険料を払う必要が生じた。また、同居する75歳以上の親の国保保険料を子どもが払っていた場合、子は確定申告時に所得から保険料を差し引くことができたが、年金から天引きされる新制度の保険料は控除対象にならない。

 ◇保険は重度医療中心に--国際基督教大教授・八代尚宏氏
 国民皆保険は守るべきだが、すべての医療を公的保険で賄うことは現実的でない。日進月歩で新しい医療が生まれてくるうえ、高齢化の進展で医療費が増えていく。かつての英国のように病院には長い行列ができ、金のある人は別途、自由診療に向かう。医療資源は無限ではないからだ。

 今はどんなにいい病院もよくない病院も、同じ治療をすれば同じ報酬が出る。一種の悪平等だと思うが、それが皆保険との認識が医療界には強い。

 しかし、医療は高度な専門サービスで、医療の質や医師の技能に応じた報酬体系が必要だ。基礎的な医療を確実に保障する公的保険の補完として、新たな保険の仕組みがあっても良い。そのための民間保険導入は長期的には必要になると思う。

 特に高度先進医療分野。先進国で使われている上位88の薬のうち、日本は保険適用が3分の1だけだ。欧米で一般的に使われる薬はほぼ自動的に混合診療の対象にし、民間保険を使う。金持ち優遇と言われるが、全く逆。混合診療を認めないと、本来保険が利く分野も含め全額自己負担できる人だけが高度な医療を受けられることになる。

 将来的には公的保険の範囲を線引きすることが必要だ。際限なく公的保険の対象にすれば医療費が膨らみ続け、結果として制度自体を壊すことになる。

 もともと今の公的保険ができた時の医療は、結核など感染症や急性症が中心。これらをすべて公的保険で賄うのは当たり前だが、今はむしろ慢性症が大部分だ。今後は重度医療こそ保険の中心になるべきだ。経済的に貧しい人は別にして数千円程度の風邪薬は自己負担でいいのではないか。

 「赤ひげ」は金持ちから取った金で、無料ないし安価で庶民に治療を施した。「全部公的保険でないと営利主義に走る」は極論。患者の平等にかこつけて、医師の平等を追求しているように見える。

 一方、公的保険の医療費には無駄が多い。一つは地域間格差。俗に「西高東低」と言われ、大阪から西と北海道は1人当たりの医療費が高い。他地域より多い病院のベッド数を埋めるため、医療費が余計にかかると言われる。

 供給が需要を作る典型で節約の余地は大きい。普及していない後発医薬品も活用できる。そうした改革なしに単に公的医療費を増やせば、高齢化社会を乗り切れない。【構成・佐藤丈一】

 ◆保険証失い「手遅れ」に--混合診療「政治決着を」--「32時間勤務も当たり前」

 ◇受診を我慢
 横浜市の60代の男性が昨年2月、直腸がんで亡くなった。男性は国民健康保険料を滞納したため、医療費をいったん全額自己負担しなければならない「資格証明書」の交付を受けていた。相談に乗っていた医療ソーシャルワーカーの女性(34)は「保険証がなかったために病院に来ることができず、手遅れになった。何かしてあげられることはなかったのか」と今も悩む。

 男性は部品加工会社を経営していた。不況で仕事が激減。従業員の給与が払えなくなり、1人で仕事をするようになった。5年前からはアパートの家賃支払いにも困り、工場2階で寝泊まりするように。月3万円の収入しかないこともあった。

 一昨年夏、体調が悪化したが夏バテと自分に言い聞かせて受診を控えた。1カ月後、体が動かなくなり入院した。末期の直腸がんだった。手術したが、がんは取りきれなかった。

 受診を控えたために死亡する例は、まれではなくなっている。男性が通った横浜市の総合病院では昨年3月にも同様の例があった。

 建設会社の寮で1人暮らしだった60代の男性。生活のため借りた金の返済を優先して保険料を払えず、資格証明書を受けていた。昨年1月、急激にやせ始め胃の痛みを感じたが、金がないため受診を我慢した。2月の給料日直後に病院に行ったが、末期の胃がんで間に合わなかった。

 「まじめに働いてきた人たちが、なぜこんなむごい死に方をしなければならないのか」。間近で向き合った医療ソーシャルワーカーの疑問は消えない。

 ◇全額自腹で
 神奈川県藤沢市の団体職員、清郷(きよさと)伸人さん(61)は00年12月、腎臓がんを告知された。左腎臓を摘出したが翌01年6月、骨転移が見つかり、保険対象のインターフェロン療法のほか、保険適用外の療法を併せて受診する「混合診療」となった。日本で混合診療は認められておらず、清郷さんは本来保険が適用される診療も含め、全額自己負担を求められた。

 「保険料をきちんと払い、保険医療も受けているのに、たった一つ適用外治療を受けるだけで全部保険が利かなくなるなんて納得できない」。清郷さんは06年3月、国を相手取り、混合診療解禁を求めて東京地裁に提訴した。薬害訴訟で著名な弁護士にも「前例がない」と弁護を断られ、書面は自分で準備した。「保険外も含めた治療のお陰で健康でいられる。人道的に許せないという憤りだけで突っ走った」と言う。

 昨年11月、地裁は、混合診療を原則禁止する国の政策を違法とする判決を出した。国が控訴し、訴訟は高裁で継続中だ。

 混合診療を巡っては、04年に当時の小泉純一郎首相が解禁を指示している。その後、一部適用対象は拡大したものの、厚生労働省などの抵抗で解禁の見通しは付いていない。「混合診療解禁には政治決着が必要だ。だけど小泉さんのあとは、自民党も民主党も、医師会を敵に回すと票にならないためか、『触らぬ神にたたりなし』の態度に見える」。清郷さんの政治に対する不信感は強い。

 ◇難病を抱え
 東京都渋谷区に住む40代の女性は12年前、突然下半身の感覚がなくなり、動けなくなった。神経系の難病、多発性硬化症だった。ステロイドの大量注入で症状は治まるが、徐々に悪化し、再発と入退院を繰り返している。

 12年前、この病気の治療は無料だった。ところが医療費抑制策のあおりで公費助成が縮小され、負担額が徐々に膨らんできた。

 今は副作用もあり、神経内科のほか眼科や整形外科など五つの医療機関に通っている。月2万円ほど必要だ。一つの医療機関で月5770円までは自己負担。症状が再発し、別の病院を受診すると新たな自己負担が必要となるため、月が替わるまで受診を我慢したこともある。女性の月給は20万円弱で、自宅マンションのローンは月5万円。節約のため、冷暖房は一切使っていない。

 女性は「お金のかかる難病治療が、医療費削減の標的にされているのではないか。保険の利かない領域が次第に増え、そのうち裕福な人しか十分な治療を受けられなくなるのではないか」と、不安を募らせている。

 ◇医師も限界
 東京都大田区にある東邦大医療センター大森病院の新生児科。医師不足のため、月8~9回の当直をこなす男性講師(48)は「32時間連続勤務も当たり前」と、疲れ切った表情を浮かべる。

 リスクの高い母体や新生児に対応する「総合周産期母子医療センター」の指定を受ける同病院。新生児集中治療室は12床で、症状が落ち着いた新生児を扱う後方病床も24床ある。重症の新生児が多く、医師の当直を外すわけにはいかない。

 4年前までは、5~6人の医師で当直を回していた。今も新生児科の医師は6人いるものの、主に3人で当直を回すしかない状況だ。1人は過労で体調を崩しており、1人はまだ経験が浅く単独では当直を任せられない。もう1人は60代の教授。その教授にも月数回、当直勤務に入ってもらってしのいでいる。

 医師不足も、医療費抑制政策が背景にある。GDP(国内総生産)に占める公的医療費の割合は、6%台後半から8%の欧米に対し、日本は6・2%。人口1000人当たりの医師数も日本は2・0人で、ドイツやフランスの3・4人に比べ見劣りする。

 産科や小児科と同様、新生児科も医師不足は深刻だ。男性講師は「医師不足で忙しさが増し、若い医師が残ってくれない。子どもの成長が間近で見られ、やりがいも大きい職場なのに」と嘆く。【高山祐、河内敏康、大場伸也】

 ◇今こそ医療立国が必要--帝京大名誉教授・大村昭人氏
 後期高齢者医療制度で、お年寄りにも負担を求め、医療費を自覚してもらう趣旨は分かる。しかし、医療保険は社会全体で支えるのが基本。75歳以上を切り離すのは間違いだ。

 83年、当時の厚生省保険局長が唱えた「医療費亡国論」が間違いのもとだ。OECD(経済協力開発機構)30カ国中、日本のGDP(国内総生産)に占める医療費の割合は22位に後退し、地域医療は崩壊しかけている。根底に「医療費は国の負債で、経済活性の足を引っ張る」という誤った考えがある。

 80年代、米国のレーガン大統領、英国のサッチャー首相は、市場原理主義を唱えて経済を立て直したとされているが、2人とも医療制度を壊した。英国は入院、手術の1年待ちが当たり前となり、数年前のインフルエンザ流行時、多くの高齢者が入院できずに死亡した。

 米国は、規制緩和で1億4000万人が民間医療保険に加入した。弱者への公的保険はあるが、中間層の4700万人は無保険だ。米国では、もう皆保険は無理だろう。英国も、ブレア政権が医療費を50%増額する政策に転じたが、一度壊すと、戻すには莫大(ばくだい)な金とエネルギーがかかる。それが今、日本で起きかけている。

 民間保険の活用と言うが、公的保険との境を誰が決めるのか。わらにもすがる患者は、治癒の可能性が10%しかない保険非適用薬でも、財力があれば自己負担するだろうし、医師も応えようとするだろう。有効な新しい治療法でも、自費や民間保険でのカバーが定着すれば公的保険は縮小し、医療格差を招く。混合診療など不要。欧米で安全、有効性が確認されている薬は自動的に保険適用すればいい。財源には、細分化している公的医療保険を統合して財力を高めたり、道路特定財源などの一般財源化が考えられる。それでもなお不足するなら消費税増税となるが、硬直化を招く目的税は反対だ。一般財源の中で何を優先すべきかを地方が決めるシステムにすべきだ。

 EU(欧州連合)で医療は、経済発展の原動力との認識が強い。EU15カ国で医療制度の経済効果はGDPの7%。日本に当てはめると年間35兆円GDPを押し上げる。今こそ「医療立国」が必要だ。福田康夫首相には、政府主導でいま大改革に乗り出さないと国家的危機に陥りますよ、と言いたい。【構成・吉田啓志】

 ◇高齢者医療政策への対応 年金からめ制度批判--民主/「応分の負担」は維持--自民

 医療費に関する自民党の考え方は、「抑制基調を強めるべきだ」と主張する財政再建派と、「これ以上の削減は限界」と考える厚生族を中心とした議員に大別される。

 医療費の財源をどう考えるかは年金改革へのスタンスとも密接にからむ。族議員らは基礎年金を全額税で賄う税方式を否定。今後の増税分を医療、介護に重点投入して公的医療保険を充実させるよう主張している。公明党も大筋そうした考えだ。これに対し、自民党の財政再建派の一部は、年金に税方式を導入したうえで、医療は民間に委ねる分野の拡大を理想に掲げている。

 後期高齢者(長寿)医療制度の保険料は、所得に応じた所得割りと一律の均等割りからなる。子どもの扶養を受けていた人は新たに保険料を負担するようになったが、その激変緩和策として2年間所得割りを免除し、均等割りを半額にすることが盛り込まれていた。

 しかし、与党は昨年の参院選惨敗にこりて、土壇場でさらにお年寄りの負担軽減策を導入。昨年末、補正予算に計上した追加軽減措置は、08年4~9月は均等割りも免除して保険料負担をゼロとし、同年10月~09年3月は本来の均等割り額の10%だけとする内容。それでも与党は「高齢者にも応分の負担を求める」という制度の根幹は維持していく考えだ。

 一方、民主党は後期高齢者医療制度に対して「75歳以上の人を切り離すうば捨て山政策だ」と厳しく批判している。保険料を年金から天引きする徴収方法についても「記録漏れ問題が解決していない年金から天引きするのはとんでもない」と訴え、国民の不信が強い年金にからめて医療制度批判を強めている。既に共産、社民、国民新党と共同で、後期高齢者医療制度の廃止法案を衆院に提出した。ただ、今後も高齢層を中心に増えていく医療費をどう賄っていくかについて、明確に示してはいない。【吉田啓志】

 ◇医療制度改革関連法で決まった主な負担の変化(06年6月成立)
 ▼06年10月~

・70歳以上の現役並み所得者の窓口負担を2割から3割に

・70歳以上の療養病床入院患者の食住費を全額自己負担化

・高額療養費の自己負担限度額アップ

 ▼08年4月~

・後期高齢者医療制度創設

・65~69歳の療養病床入院患者の食住費を全額自己負担化

・3歳~小学校就学前児童の窓口負担を3割から2割に

(出所:毎日新聞 2008年4月19日 東京朝刊)
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2 コメント

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Unknown (大宮本)
2008-04-23 20:52:07
陰茎切断肛門炸裂睾丸粉砕
大宮本さんへ。 (東西南北)
2008-04-23 22:07:38
 はじめまして。

 自分を含めて、みんなの健康を大切にしなければなりません。

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