「浦島説話」を読み解く

「浦島説話」の時代を生きた古代人の人間観を歴史学、考古学、民俗学、国文学、思想哲学、深層心理学といった諸観点から考える。

「心理的体験の基盤」

2013-06-30 22:16:39 | インポート
「ところで一般的にいえば、心理学的視点を重んじるということは、その思想を生み出した実践的体験的基盤を重視することを意味する。これは何も中国思想の研究に限った問題ではないが、文献だけを基礎にした従来の思想史研究では、哲学的世界観の理論的分析が中心になり、それを支えた心理的体験の基盤は閑却されやすい。しかし、仏教や道教のように瞑想を主体とした修行法の体系をもっている宗教の場合には、理論的分析に先立ってそういう実践的体験の基盤について検討しておくことが必要であろう」(『黄金の華の秘密』訳者解説=湯浅泰雄)より引用転載-48

「浦島説話」は道教の影響を看取できるが、道教が「瞑想を主体とした修行法の体系をもっている」、深層心理学の観点からいえば、宗教経験とは無意識の体験にほかならない。こうした事柄は、仏教や道教に限定されるものではない。無意識の体験という意味において、すでに普遍的要素を内包しているのである。

浦島説話研究所

「人間経験としての共通な特性」

2013-06-29 00:38:00 | インポート
「瞑想における体験それ自体は、その内容をどのような概念的理論的わく組みによって解釈するかにかかわりなく、人間経験としての共通な特性を示してくるからである。精神史の知的表面流だけをみれば、儒教・道教・仏教はそれぞれ別個の流れを形成しているようにみえるが、実践的諸側面にともなう底辺の部分に注意してみると、共通した広い領域が見出される。そういう流動的底層から中国精神史を見直してみることも可能であろうと思う」(『黄金の華の秘密』訳者解説=湯浅泰雄)より引用転載-47

この記述は、「浦島説話」と向き合ううえでも豊かな示唆に富んでいる。
ユングは長期間にわたり中世ヨーロッパ錬金術を深層心理学の観点から研究した。そして、彼は、この研究を通じて「人間経験としての共通な特性」を洞察したのである。
宗教経験における「光の体験」や臨死体験時の「超感覚的知覚」といった心的現象には、普遍性を看取できることが多方面からの研究によって明らかになっている。ユングの心理学の中核には、心的現象における普遍的要素という事柄がある。例えば、睡眠時と覚醒時における心的相対時差といった問題も当然含まれる。この意味において、「浦島説話」は1300年以上の時の隔たりを超えて生き生きと今に蘇る。

浦島説話研究所

三教一致

2013-06-27 00:10:23 | インポート
「思想的にみて注意されるもう一つの特色は、本書が三教一致的立場に立っている点である。直接には、これは全真教や浄明道の考え方を継承したものであると思われる。三教一致は中国思想史の底流としてたえず見られるものであるが、朱子に代表される宋学や禅の一部にはこういう折中的風潮を嫌う態度がみられる。士大夫的知性主義ないし道徳主義的潔癖ともいえようか。心理学的にみた場合、本書のような三教一致的傾向が生じてくる理由は、それが知的思弁よりも内面的体験内容そのものに重きをおくからだといえよう」(『黄金の華の秘密』訳者解説=湯浅泰雄)より引用転載-46

浦島説話研究所

「象徴的表現」

2013-06-25 23:56:17 | インポート
「心理学的にいえば「能動的想像」active imagination のやり方をとるといってもいい。「加熱」とか「火と水」「金華」「光」といった象徴的表現は、そういう技法ないし瞑想体験の内容を示している。こういう体験記述的態度は唐代仏教の瞑想法の特徴であり、さらにさかのぼればインド的瞑想法(ヨーガ)の伝統に由来するものである。心理学的にみて興味があるのは、こういう瞑想法が、夢分析や自律訓練法のような現代の臨床的分析技法と似た特徴を示している点である。この点を手がかりにすれば、従来全く捨て去られていた道教のいわゆる「丹書」の意味と内容について、多くの新しい発見が可能になるであろうと思われる。たとえばユングが『心理学と錬金術』で試みたような研究が期待できるわけである。それによって、中国の精神史の底層にあった流れを再発見する端緒も得られるのではあるまいか」(『黄金の華の秘密』訳者解説=湯浅泰雄)より引用転載-45

浦島説話研究所

「現象学的体験記述」

2013-06-24 23:32:09 | インポート
「中国仏教史では、唐代には天台・浄土・唯識の諸派もさかんであったが、宋代以後は禅が主流を占めてゆく。このように、この書が唐代仏教の影響を保存しているという点からみると、-先にのべた文献学的見地とはやや反するがー口伝の伝承を宋代以前にさかのぼらせたい気もする程である。それはともかく、この書に示された瞑想法と禅の瞑想法の大きなちがいは、禅がいわゆる「只管打坐」ないし「無念無想」の態度をとるのに対して、本書が瞑想の過程で生じてくる幻覚や症状に注意し、いわば“現象学的体験記述”ともいうべき態度をとっている点である」(『黄金の華の秘密』訳者解説=湯浅泰雄)より引用転載-44

「浦島説話」の歴史的源流は、史料の記述に従えば「雄略朝」の時代にまで遡ることができることにはなる。5世紀中頃の成立とされる中国の神仙小説を引き合いに、説話との類似性を指摘する見解もある。(1)
一方、深層心理学の観点からみると、この説話で語られる内容を「現象学的体験記述」としてとらえることができる。その場合、現代に通じる研究課題として考察することが可能となる。このようなアプローチによって、説話は新たな意味をもって現出してくる。

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