「ライン宛(1953年2月17日)の手紙では、患者にしばしばESP体験が観察されることをのべ、ESPは無意識の元型的本能的位相からのはたらきを喚起するのだろう、と言っている。さらに1954年8月9日の文(同じくライン宛て)には、共時性やESPの体験は情動的知覚をともなう主観的な出来事であるが、その体験から生まれるイメージは客観的事実についてのイメージである、とのべている。またイメージの主観性と客観性の関係は(ライプニッツの)予定調和の原理、つまり主観的作用と客観的作用の並行的対応関係から理解すべきであろう、と言っている。情動の発生根拠は無意識の深い根底にあって、そこに主観的なものと客観的なもの、心理的なものと物理的なものをつなぐ場が見出される、という考え方である。
1960年2月9日のコーネル宛の書簡には情動の問題についての意見がくわしくのべられているので、引用しておこう。「実験室の外でも共時的な現象は起りますが、それはたいていの場合、情緒的な状況下で起ります。例えば、人が死んだとか、病気だとか、事故が起ったとかいうようなシリアスな状況です。それは、神経症とか精神病の治療をしている最中、情緒的緊張が極度に高まった時に比較的頻繁に観察されます。・・・感情は典型的なパターン(恐怖、怒り、悲しみ、憎しみ等)をそれぞれ持っています。つまりそれらの感情は普遍人間的な生得の元型であり、誰の心の中にも同じ観念と感情を喚起するものなのです。これらのパターンは元型的モチーフとして、主に夢の中に現われます。かくして共時的現象の大部分は、危難、危険、絶体絶命の状況といった元型的状況において発生し、それはテレパシー、透視、予知といった形をとって現われるのです。」
さらにユングはこうつづける。特定の場合であれば、元型について実験的に研究することも可能で、占いはその例である。ただし「この場合は、死者とか重病人とか大事故の患者とかいった個々の症例を観察すると同時に、それに随伴している心理的状況を注意深く分析することが必要となります。・・・超常的な心理現象は、生涯を通じて私の関心をひいてきました。通例それは、既にのべたように危急の心理状態(感情の昂揚、意気阻喪、ショック等)において起りますが、独特な、あるいは病的な人格構造をもった個人の場合には、もっと頻繁に起ります。そういった人物においては集合的無意識への識閾(しきいき)は生来、通常人より低いのです。創造的天才もこのタイプに属します」(湯浅泰雄監訳 ユング超心理学書簡 pp203~205 白亜書房 1999年)
湯浅氏はこの項について「超常現象の自然発生には情動的要素が伴うこと」という題を付している。テレパシー、透視、予知といったESP(超感覚的知覚)や共時的現象の発生と情動的要素との関係性は、心理学的に大変意味深いテーマを含んでいる。
「浦島説話」を深層心理学の観点から詳細に分析すると、ここに語られた記述には明らかに無意識の体験が描写されていることがわかる。この説話は1300年余り遡る悠久の歴史の中に封印された単なる物語などではなく、「たましい(Psyche)」に関与する事柄という意味で、今日的な課題を含む非常に貴重な資料となるのである。
「浦島説話研究所」
1960年2月9日のコーネル宛の書簡には情動の問題についての意見がくわしくのべられているので、引用しておこう。「実験室の外でも共時的な現象は起りますが、それはたいていの場合、情緒的な状況下で起ります。例えば、人が死んだとか、病気だとか、事故が起ったとかいうようなシリアスな状況です。それは、神経症とか精神病の治療をしている最中、情緒的緊張が極度に高まった時に比較的頻繁に観察されます。・・・感情は典型的なパターン(恐怖、怒り、悲しみ、憎しみ等)をそれぞれ持っています。つまりそれらの感情は普遍人間的な生得の元型であり、誰の心の中にも同じ観念と感情を喚起するものなのです。これらのパターンは元型的モチーフとして、主に夢の中に現われます。かくして共時的現象の大部分は、危難、危険、絶体絶命の状況といった元型的状況において発生し、それはテレパシー、透視、予知といった形をとって現われるのです。」
さらにユングはこうつづける。特定の場合であれば、元型について実験的に研究することも可能で、占いはその例である。ただし「この場合は、死者とか重病人とか大事故の患者とかいった個々の症例を観察すると同時に、それに随伴している心理的状況を注意深く分析することが必要となります。・・・超常的な心理現象は、生涯を通じて私の関心をひいてきました。通例それは、既にのべたように危急の心理状態(感情の昂揚、意気阻喪、ショック等)において起りますが、独特な、あるいは病的な人格構造をもった個人の場合には、もっと頻繁に起ります。そういった人物においては集合的無意識への識閾(しきいき)は生来、通常人より低いのです。創造的天才もこのタイプに属します」(湯浅泰雄監訳 ユング超心理学書簡 pp203~205 白亜書房 1999年)
湯浅氏はこの項について「超常現象の自然発生には情動的要素が伴うこと」という題を付している。テレパシー、透視、予知といったESP(超感覚的知覚)や共時的現象の発生と情動的要素との関係性は、心理学的に大変意味深いテーマを含んでいる。
「浦島説話」を深層心理学の観点から詳細に分析すると、ここに語られた記述には明らかに無意識の体験が描写されていることがわかる。この説話は1300年余り遡る悠久の歴史の中に封印された単なる物語などではなく、「たましい(Psyche)」に関与する事柄という意味で、今日的な課題を含む非常に貴重な資料となるのである。
「浦島説話研究所」