身分証明できない女

あろ日フツーのオバサンが、身分証の提示を求められたら、さてそのオバサンはどうする？

免許証やパスポートを持っているひとはいいが、公的証明書を持っていないオバサンは、健康保険証や年金手帳で事足りると差し出すが、それでは顔写真がないので本人確認にならないと突っ返される。

困った彼女は財布の中をまさぐり、浅草の「まつり湯」の会員カードなんぞを引っ張り出して、相手の失笑をかう。

それじゃこれならどう？ とばかりに、遥か昔に期限が切れたパスポートを発掘するが、そこに写っているのは、髪型もメイクもまるっきり時代遅れな、北朝鮮の脱北者みたいな顔があるばかりで、またまた失笑をかうだけであった。


さあ困った、かあちゃん。

来るべき「大阪マラソン」や「東京マラソン」のような大きなマラソン大会では、顔写真付きの身分証の提示を求められる。

まあ大阪は、「まつり湯」の会員カードでも「まあ、ええでしょ」なんて言ってくれそうな気がするが、万が一のことを考えると、きちんとした身分証が早急に必要だ。

それに加えて来年早々、日本の中のアメリカ、フェンスの向こうの治外法権地帯へ入ることになったので、是が非でもちゃんとした身分証が必要になったのだ。

米軍・横田基地へ入るのに、「まつり湯」の会員カードでは許されるハズがない。

ヘタなおちゃらけなんぞかましたら、GIのM16でこずきまわされてしまうかもしれない。

悪くしたら、MPに連行されて独房にぶち込まれて拷問を受けるやもしれず、さすがに「ランボー」を繰り返し見ているオヤジでも逆らえない。


困ったあげくに、数年ぶりに足立区役所の窓口にかあちゃんを連れて行った。

身分証を持たない庶民のために、顔写真付きの住民基本台帳カードというものがある。

いっとき曰く付きだった「住基ネット」のことで、今まで避けていたが、こうなりゃ仕方がない。

顔写真付きの身分証がないから(フン、おかしな話だぜ。だからお役所仕事はイヤなんだ)、即日交付はできないが、手続きをして、最短で大至急交付できるよう頼んできた。


うーん、間際にもほどがある。

もし間に合わなきゃ、取りあえず大阪は、ノリと 勢いでなんとかするっきゃない。

ああ人生はスリルとサスペンス、打たれなきゃわからん愚か者がゆく