東京多摩借地借家人組合

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裁判事例補修を怠った家主に対する敷金返還請求

2008年09月29日 | 最高裁と判例集
東京簡裁判決 平成16年7月5日
(判例集未登載)

《要旨》
 貸主が約定の補修義務を果たさず、賃借人から契約を手付放棄により解除した際の敷金等返還請求が認められた事例


(1) 事案の概要
 賃借人Xは、平成15年6月28日、貸主Yとの間でアパートの一室の賃貸借契約を締結した。Xは当該契約に先行して6月18日に手付金5万円を支払ったほか、敷金等21万円余を支払った。上記契約に際して、Xは、畳の交換などの補修を求めたが、Yは畳の交換費用の半分はXが負担するように言ったが、むしろXはYから現状のままで本件アパートに入居してほしいと言われていた。Xは、本件契約後も現状のまま入居するか迷っていたところ、Yから契約をやめてもよいと言われたので本件契約を解除し、上記預入金26万円余の返還を求めた。
 これに対してYは、アパートの襖については、同年7月10日ころに張り替えることを予定しており、畳については交換することにしていたと主張。さらに、本件契約において、賃借人の都合により本件契約を解約するときは、解約日の3カ月前に書面により賃貸人に提出しなければならず、これに従った解約をしない場合には、賃借人は賃貸人に対し、賃料と共益費の合計額の6カ月分を保証する旨の合意がなされており、Xはこれに沿った解約をしていないので、本件契約解除の効果は認められないこと、賃借人が賃貸人に一旦払った礼金や家賃または共益費は一切返還しないとする合意があるので、Yにこれらを返還する義務はない等として、争った。

(2) 判決の要旨
 ①YはXの入居までに風呂場の壁修理その他を補修すべき義務を負ったとはいえない。
 ②Yは事業者として、Xは消費者として本件契約を締結しているが、本件契約の解約にあたり賃料と共益費の合計額の6か月分を保証する旨の合意等は、著しくXの権利を制限し、又はXの義務を加重するので、消費者契約法10条に照らして無効である。
 ③Yは、Xに対し解約権を付与したものと解され、本件手付は民法557条に定める解約手付の性質も有していると解すべきである。本件契約の賃貸借期間は平成15年7月1日からであるが、Yは少なくとも襖の張替えや畳の交換などの義務は負っており、貸主としての履行着手しない段階である平成15年7月8日には、Xは、Yに対し本件契約の解約申入れをしていることが認められる。
 ④以上によれば、Xは、Yに対し、平成15年7月8日に、本件手付を放棄して契約を解約したことが認められるから、XのYに対する21万円余の請求を認容する。


(3) まとめ
 契約に先立って借主が媒介業者に支払う金銭で、順位確保の性格を持つ預り金についてのトラブルは多い。本件は直接契約当事者である家主に支払っていること等から、「手付金」として認定された。

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