アパートの貸主の妨害によって借主が部屋を使用することができなくなったことにつき、貸主に損害賠償責任が認められた事例 (東京地裁平成3年6月24日判決。判例時報1412号121頁)
(事案)
Xはアパートの一室を賃借していたが、このアパートを取得して貸主となったYは、アパートの改修工事を行う必要があるとして、電気・水道の供給を停止し、共用のトイレを破壊する等の行為をした。その結果、Xは貸室に居住し続けることができず、荷物を貸室に置いたまま、友人宅などに宿泊せざるをえなくなった。
またXは、Yに対し電気、水道の供給の停止その他のXの貸室使用を妨害する一切の行為を禁止し電気等の供給を命ずる仮処分の申請を裁判所に行い、その決定が出されたがYはこれに一切従わなかった。そこで、XはYに対して、貸室の賃借権の確認と損害の賠償を求めて、裁判を提起した。
(判決)
判決は、「本件建物の改修工事を行う場合、それが、貸主としての修理義務の履行としての工事の範囲である場合は格別、本件工事のごとく、賃貸借の対象物件の現状を大きく変更し、また、工事期間中貸室の使用が事実上不可能になるようなときは、借主の意向を無視して一方的に行うことが許されるものではない。
このような工事を行うことは、本件賃貸借契約の内容の変更を生じさせ、契約上の目的物を使用させるという貸主の債務の不履行を含むことになるため、賃借人の同意・承諾が不可欠である。‥‥‥(本件建物の改修工事をおこなう)必要性がある場合、借家法の適用のある本件賃貸借契約について、解約申入れを行う等の手順が必要とさせるところである」として、事実経過やYの妨害行為を認定した上で、
「Yの本件妨害行為により、Xは本件貸室を退去するの止むなきに至ったのであり、しかもこの行為は、法により保護されているXの賃借権を違法に侵害するものである」と判示し、Xに貸室の賃借権が存在することを認め、Yに対してXがこうむった損害を支払うよう命じた。
なお、損害として判決は、和解による訴訟の早期決着の見込みがなくなった時点後は別の賃貸物件を物色してそこへ移るべきだとして、①右時点後1か月間(別の賃借物件を物色する期間)のホテル等の宿泊等の実費②その後の家賃相当金及び別の賃貸物件の敷金・権利金・仲介手数料(いずれも裁判所が独自に認定)を認定し、これに③慰謝料20万円を加えた金額を支払うようYに命じている。
(寸評)
家主が土地建物の有効利用を図ろうとして借家法や賃貸借契約を無視して、強硬に実力行使をしあるいは嫌がらせをして借家の使用を妨害する事例が増えている。本判決は、その違法性を正面から認め家主に損害賠償を命じたもので、同じ境遇におかれている借家人にとって1つの大きな支えとなる者である。また、損害の算定方法についても参考になると思われる。 1992.08.
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
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