東京多摩借地借家人組合

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戦前からの貸家の立退きで立退き料はどの程度要求できるか

2006年06月08日 | 明渡しと地上げ問題
(A)戦前より1階店舗、2階住居の一戸建の貸家を借りています。家主からこの付近を一括して建替えたいので立退き料を出すから明渡すようにといわれました。家も古くなったので明渡しに協力しようかと思いますが、立退き料としてはどの程度要求できますか。

(Q)建物の賃貸借は、借地借家法によりその存続が保障されています。契約期間が定まっている場合には、借家人に家賃不払いなどの債務不履行がない限り、家主側の事情によって解約されることはありません。家主が借家契約を解約するには、期間の定めがあるときは、期間満了の6ヶ月ないし1年前までに、借家人に対し解約の申入れをしなければなりません。また、期間の定めがないときは、解約申入れから6ヶ月経過したときに規約の効力が生ずることとされています。そして、この家主からの解約の申入れには正当事由が必要で、家主側によほどの事情がないかぎり、かつ借家人側の使用の必要性が少ない場合でないかぎり、裁判所はなかなか無条件(立退き料の提供なし)の明渡しを認めません。
 そこで、家主としては、裁判をしても無条件の明渡しが認められないなら、裁判に要する費用や時間、さらに精神的な負担を考えて、先に立退き料を提供しても明渡してもらった方がメリットがあると考えるようになるのが通常でしょう。このように、立退き料は、旧借家法による借家権の存続保障と裁判慣行などにより、自然に発生してきた慣行ともいえます。

 裁判所は、立退き料については、正当事由を補強するものと考えていました。補強という意味は、他に正当事由がある程度あるけれども、それのみでは明渡しを認めるわけにはいかない、ある程度の立退き料を支払うことによって、明渡しにより被る借家人の損失を少しでも補うことができるのであれば、立退き料の提供により正当事由ありとして明渡しを認めるといものです。したがって、立退き料さえ支払えば明渡しが認められるものではありません。
 このような考え方を前提にして、借地借家法は、立退き料の提供の申し出も正当事由の一事由となる旨明文化しました(28条)。

 前に述べたように、立退き料は借家の明渡しにより被る借家人の損失の全部または一部を填補するものです。したがって、その内容としては、①移転実費、②借家権価格相当額、③営業上の損失、④生活上の利益ないし精神的損失、⑤再開発利益の配分などが考えられます。
①移転実費とは、引越しに要する費用、移転通知費用などの実費です。
②借家権価格相当額とは、アパートなど比較的短期間の居住を目的とした借家は別として、本問のように数十年にわたり借家をしていた場合、契約当初と比べ家主の資産価値(土地価格)はきわめて高くなっているのが通常です。しかし、この地価の高騰は家主側の努力のみによるものではなく、経済の発展に伴う一般的な地価の上昇、さらにはその場所に長期間居住し営業を続けてきた借家人の貢献も少なくないものと思われます。借家関係の終了にあたっては、この資産価値の増分について、家主と借家人とで適正に配分するのが合理的です。この借家人に配分されるべきものが、いわゆる借家権価格相当額といわれるものです。
③営業上の損失とは、借家の明渡しにより、営業を廃止せざるを得なくなったり、一時休業をしなければならないとき、また、他に移転することにより営業規模を縮小したり、顧客が失われる場合など、当該借家人に生ずる営業上の利益の損失をいいます。
 正当事由に基づく解約の場合、借家人にはとくに落度はないわけでから、明渡しにより利益を受ける家主が借家人のこれらの損失をある程度補償するのが相当ではないかという理論に基づいています。
④生活上の利益ないし精神的損失とは、借家人はその地域で長期間生活し、地縁的なつながりも深くなっており、また生活上の利便も高くなっていると思われますが、借家の明渡しによって、これらの利便等が失われることによる損失をいいます。
なお、⑤再開発利益の配分は、明渡しによる借家人の損失そのものではありませんが、家主とすれば借家人の明渡しにより土地を有効利用することができ開発利益が発生するのが通常ですから、明渡しに協力した借家人に対し、その利益のいく分かを配分したらどうかというものです。

借家の明渡しに際してどれだけの立退き料を支払うべきかについては法律上の定めはなく、当事者が納得できる合意が成立すればよいことです。しかし、実際には立退き料について両当事者が納得できる合意が成立することはまれでしょう。とくに、家主側にある程度の正当事由が認められる場合には、先に述べた立退き料の内容のうち、どの費用をどれだけ立退き料として支払うべきかは困難な問題です。
一つの目安として、家主側の正当事由と借家人側の必要性の程度を、それぞれ①死活の状態、
②切実な状態、③望ましい状態、④わがままな状態に分けて考えることができます。

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