無意識日記
宇多田光 word:i_
 



ライブ・バージョンの例としていちばんに取り上げたいのは『Passion』だ。スタジオ・バージョンを聴いた時点で既にどこか遙か遠くまで運んでくれるような神秘的な歌だが、これを生で体験するともっと凄いことになる。


『Passion』はスタジオ・バージョンのバリエーションが多彩だ。ヒカルの歌が入っているのは

『Passion (Single Version)』
『Passion (opening version)』
『Passion - after the battle -』

の3つ。Single Version と after the battleの初出は2005年12月発売の『Passion』のシングル盤だ。opening versionは「キングダムハーツ」のサントラに収録されているゲームのオープニング用の音源である。

Single Versionの特徴は最後に『ずっと前に好きだった人〜』以下の所謂『年賀状パート』がある所。

opening versionの特徴は中間部にセルフ逆回転呪文詠唱パートがある所。『I need more affection than you know』を逆から歌っているそうな。

after the battleの特徴は、歌唱のみを楽曲前半に、演奏のみを後半にそれぞれ抽出しているところ。バラードパートからインストパートに推移する構成となっている。


この3つの音源を様々に駆使して、『Passion』のライブ・バージョンは構成されている。


『Passion』が初めてライブ・コンサートで演奏されたのは『UTADA UNITED 2006』だ。一曲目にヒカルが奈落からせり上がってきて朗々と歌い始める場面は非常に感動的だった。最初ワンコーラスをバラードとして歌ってそこからリズムインして最後は『ずっと前に好きだった人〜』のパートも歌うので、いわばこれは『after the battle』と『Single Version』が“United”したバージョンとなっている。

次にヒカルが日本で『Passion』を披露したのは2010年の『WILD LIFE』だ。『ULTRA BLUE』の曲順そのままに『Eclipse (Interlude)』から雪崩込む流れも圧巻だったが、本編では中間部に『I need more affection than you know』の逆回転呪文詠唱パートをフィーチャーし、ラストを年賀状パートで〆ていることからこちらは『opening version』+『Single Version』ということになるか。

国内のコンサートではこの2つなのだが、私が真に度肝を抜かれたのは2010年1月〜2月に開催された全米&英国ツアー『In The Flesh 2010』でのバージョンだ。もう思い出すだけで震え上がりそう。そもそも、アメリカ&イギリス・ツアーということで、最初Utadaの曲ばかり即ち英語の歌ばかり歌っていたから日本語の歌が歌われるなんてつゆぞ思ってなかった所で「日本語の歌も歌うよ」とヒカルがMCで言って始まったのが『Passion』のあの神秘的なイントロダクションだった時点で既にノックアウトだったのに、そこから初体験となる『I need more affection than you know』逆回転詠唱パート(『WILD LIFE』より11ヶ月早かったのだ)を経て二番の歌詞が英語!『Sanctuary』!もうビックリ!─で、そのまま一頻り英語で『Sanctuary』を歌った挙句すかさず『ずっと前に好きだった人〜』と年賀状パートまで歌うもんだからまるで竜巻に巻き込まれたかのように翻弄されてしまったですよ。本当に凄かったなあれは……驚きの連続だった。ということで『In The Flesh 2010』は『Passion + Sanctuary』×『opening version』&『Single Version』という感じだ。どないなっとんねん。


まとめるとこう。


『UTADA UNITED 2006』:『after the battle』+『Single Version』

『WILD LIFE』:『opening version』+『Single Version』

『In The Flesh 2010』:『Passion + Sanctuary』×『opening version』&『Single Version』


……凄いな…。つまり、『Passion』はライブごとに何度も姿を変えて私の前に舞い降りてくれたのだ。本当にスペシャルな曲である。


斯様に、スタジオ・バージョンが多種存在する楽曲をヒカルはライブごとに様々な組み合わせ方を施しながら歌ってきている訳である。これを踏まえれば、現在三種類のバージョンがある『Beautiful World』がライブで一体どんなメタモルフォーゼを成し遂げるのか、、、想像もつかないよね。でもそれを敢えて考えてみるのもありかな? てことでなんか思いついたら次回書いてみようかなっと。

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.という風に『Beautiful World (Da Capo Version)』の全容をみてきた訳だが、新劇版のオーラスという点を考慮に入れなければこれはこれで非常に興味深く聴き応えのあるバージョンであった事が(そして私がそれをそう捉えている事が)わかったかと思われる。


これで『Beautiful World』には三つのバージョンが出揃った事になるな。

『Beautiful World』(オリジナル・バージョン)
『Beautiful World (PLANiTb Acoustica Mix)』
『Beautiful World (Da Capo Version)』

こうなってくると、(毎度ながら)いつになるやらだが、この曲をライブコンサートで演奏する時には一体どんなアレンジで来るのかというのが気になってくる。(毎度毎度ながら)気が早すぎるが。

『Beautiful World』は2010年の『WILD LIFE』で生初披露されていて、ライブで歌ったのはこの一回きり(二公演)のみだ。この時はバンドアレンジで、オリジナルでもアコースティカでもないリズムセクションを従えて楽曲終盤にはロックコンサートのような掛け合いを果たしてからの『It's Only Love』〆で痺れさせられたのが記憶に新しい。(歳をとると11年前なんてつい先日なのだ。まぁそれ以上にDVD&BluRayで何度も観返し聴き返ししてるのが大きいんだろうけど印象が鮮烈なのは。)

その時は曲構成自体はオリジナルに沿ったものだったが、Da Capoが顕現した今そこをどう捉えるのかが難しい。というのも、映画の観客動員からも配信の好調さからも、かなりの人々にとってDa Capoが大きな位置を占める事になったからだ。ライブコンサートの開催時期にも左右されるが、それがあと二、三年のスパンで実現するとすればこの大きな流れは無視出来ない。

また、『One Last Kiss』との絡みもある。EPで同曲に慣れ親しんだ向きにとっては『眩しい午後』のあとにあのギターが鳴ってくれないと落ち着かないというのもあるのではないか。ライブで『One Last Kiss』が歌われた際(凄まじく盛り上がるだろーなー)、そのままメドレーでDa Capoが始まってくれないとどうにもこうにも、ということにもなりかねない。もっとも、相変わらず次のライブコンサートも抽選販売になればライトファンも沢山押し寄せてきてくれる訳で、そういう人達は多くがYouTubeで楽曲に親しんでいるだろうから『One Last Kiss』はMVで聴けるそのままフェイドアウトするバージョンとして認識しているかもしれないから、そうなればまた話は別になってくるのだけれどもね。

そんなこんなを考えていくと、『Beautiful World』をライブで歌うのはかなり重要で難解な課題になりそうでな。前から言ってる通り『桜流し』からの『Beautiful World』の流れも間違いなく感動的だし、一方で次のライブで『One Last Kiss』を歌わないという手もまた無いだろう。これも、次のコンサートまであと10年掛かってその間にまた特大ヒット曲が更に増えてたらこの限りではないのだけれど、現状『Automatic』と『First Love』に次ぐ「多くの人が待ち望んでいる」カテゴリーに分類されているとみていいだろうから、そうなると『Beautiful World』はDa Capoで行くべきかなーともなる。嗚呼、悩ましい。


この課題解決の為にはどうすればいいか。似たようなケースでヒカルが過去どんなライブ・バージョンを披露してきたのか、次回はそこらへんを参照してみたいかなと思います。

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