うな風呂

やる気のない非モテの備忘録

○○○○○○○○殺人事件  早坂吝  う(゚◎゚)

2016年10月19日 | 読書感想

ネット上で集まった趣味の仲間たちが、孤島で毎年行う恒例のオフ会。
例年より不穏な空気を漂わせていたその集会で、案の定、殺人事件が起きる。
果たして犯人は誰で、この本のタイトルはなんなのか――
第五十回メフィスト賞を受賞した、前代未聞のタイトル当てミステリー。


この小説は
「来いよ、読者!深い文学性だとか美しい文賞だとか斬新な世界観だとか淡い恋物語だとかきらめく青春だとか、そんなもの捨ててかかってこい!」
というスタイルの、一発ネタの推理ゲームに特化したミステリーだ。
はっきりいって文章はペラペラで、読んた後に心に残るものもなく、キャラに好感がもてるわけでもなく、終盤の「く、くだらな……」という腰砕けな失笑、それしかない作品だ。
が、なんというか……一周してそれが良い。

そう、そうだった。九十年代初頭に自分がハマっていた新本格ミステリーって、根底にあるのはこんな感じだった。
「理屈的には可能だよね」という一点にかけて、ほかのすべてを捨て去ったものだった。
読み終わった瞬間「いや、可能かもしれないけどさあ……」と苦笑いするしかないものだった。
それが御手洗潔が無駄にキャラ立ちしてたり京極夏彦が独自の世界を展開したり清涼院流水がミステリをラノベに思いっきり転換させたり舞城王太郎が殺人を題材とした前衛文学にしてしまったりしていく内に、この、なんだろう、純ミステリとでも云おうか、「あのさあ……」感とでも云おうか、「ミステリはミステリであって小説ではない」感と云おうか、正直に云って若い頃にはその点をもって冷笑していたミステリ独特のガキっぽさ、そんな感覚を味わえなくなって久しいことに、本作を読んで気がついた。珍妙な味のジャンクフードを食べて「うわなにこれ、みんな一口食ってみ」としたくなるような感覚でひどいトリックのミステリを嗜むのは、たしかに楽しみの一つであったのだ。

ミステリーとは気軽に読めて、驚けて、そしてしょーもないものなのだ。
それを思い出させてくれた本作は、まったく全然これっぽっちも人に薦める気はしないが、変に立派になってしまったミステリを原点に立ち返らせてくれる貴重な作品だ。
その場所に立ち返る必要があるのかどうかはぼくにはちょっと判断がつかないところではあるけどな!



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