アリス マッドネス リターンズ【CEROレーティング「Z」】 | |
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エレクトロニック・アーツ |
不思議の国と鏡の国の冒険を経たアリスは、その直後、火事によって家族すべてを失い、みずからも精神を病んで精神病院に十年間閉じ込められていた。
その後、十八となったアリスは狂気の王国へと変貌したワンダーランドに迷いこみ、そこが自らの精神世界だということを悟って正気を取り戻して、無事に退院することに成功する。
だがカウンセラーのもとに通い日々を過ごすアリスは次第に火事の日のことを思い出していき、そして気がつけばふたたびワンダーランドへと迷いこんでいた……
PS3・XBOX360のアクションゲーム。
独特のビジュアルワークで一部に熱狂的な支持を得た『アリス・イン・ナイトメア』の十年ぶりの続編。
設定がまずたまらんよね、これ。原作アリスの後日談で、アリスがキチガイになってて血まみれのワンダーランドをさまようっていうだけですごいワクワクするよ。大人になったアリスの再訪という意味ではティム・バートンの映画版『アリス・イン・ワンダーランド』と似ているけど、そこで変わり果てたワンダーランドを提示しているのがビジュアルとして面白いし、その世界がただ血みどろなだけじゃなくて、原作をモチーフにした様々なギミックに満ちているのだから、ワクワクしないわけがない。
……と云っといてなんだけど、『アリス・イン・ナイトメア』はPC版のみしか発売されず、コンシューマーに移植されたこともなかったため、PCを持っていなかった自分は気になってはいたものの結局プレイすることはなかった。その後PCも手に入れ廉価版なども出回っており手に入れる環境はあったが「いまさら何年も前のポリゴンゲームはちょっと厳しいかな……」と思いプレイしていなかった。
なので最新グラフィックで表現された本作のビジュアルを目にした時「ついにきたか!」と興奮したものだった。
この美しく狂気に満ちた世界をさまようなんて、それだけでたまらなく面白いに決まってる!しかもXBOX版には前作がプレイできるダウンロードコードがついてくるのでお得!こりゃ買うしかない!
……と思ったものの、発売時に評判があまり芳しくなく、今までスルーしていた。結局、ビジュアルが良くてもゲームとして楽しめないと厳しいしね……。でも気になったので結局買ってしまった。
で、プレイした感想としては、やはりビジュアルワークが素晴らしい。
映像技術としては最先端のゲーム、例えば『アンチャーテッド』シリーズや『アサシンクリード』シリーズなどに比べると一段劣るとは思うのだが、童話のもつ不気味さを的確に演出した淀んだ陰鬱な空気感がじつによく表現できている。現実世界の街並は、リアルでいながらそこに住む人々の歪んだ心が反映されたかのような、すべてが少しだけデッサンが狂っていて、でも具体的にそれを指摘することが出来ないような絶妙な不安感をかもし出していて素晴らしい。
そしてワンダーランドのビジュアルは、そうした現実のくびきから解き放たれたようにまったくもって荒涼として血まみれで、この対比がじつによくできている。
そして話が進んでいくごとに、だんだんと現実世界とワンダーランドの境目が曖昧になっていく演出は素晴らしく、現実のロンドンがワンダーランドへと地続きになっていくシーンなどは「これたよ!こういうのが観たかったんだよ!」と感動的ですらあった。
アクションゲームとして見た時は、やはり操作キャラであるアリスがよくできているのが良い。
まず単純にモデリングがいい。洋ゲーにしては珍しく日本人好みのスラッとした骨格・輪郭になっており、それでいて日本アニメとはちがった怖さ、生理的嫌悪をどこかに感じさせる顔つきが良い。多くの場合には不自然さの残るポリゴンという技術が、西洋人形の持つ生物と非生物のはざまにあるような美しさと気持ち悪さを感じさせる結果になっており、うまく今作のアリスというキャラクターにマッチしている。
現実では貧乏くさい服を、ワンダーランドでは奇麗なドレスを着ているという変化もいいし、そのドレスが面にあわせてドンドン変化していくのもいい。基本のフォルムは同じでありながら、ゴスロリ風になったり和風ドレスになったりと視覚的に楽しませてくれるし、いずれもゲームの雰囲気にあっていて魅力的だ。
ハートの女王の城で身に付けているドレスなどは原作の世界観にもあつていてカッコカワイイ。
どの衣装も背中のリボン留めがドクロ風の不気味なデザインになっているのもオシャレ。
そのアリスがものすごいスピードと勢いで敵を倒していくのが気持ちよい。
血まみれのナイフで敵を倒していくのを基本として、人形めいた少女が各種のウェポンを使いこなしてつきすすんでいく姿はじつに見ていて気持ちいい。そしてその武器が玩具やティーポットをモチーフにしているのがアリスらしくてユニーク。特にペッパーミルがガトリング砲になっているのはやられたとしかいいようがない。仁王立ちガトリングで敵を粉砕している姿は男前すぎて濡れる。
髪を揺らしスカートをひらひらさせるのはもちろんのこと、青い蝶を飛び散らしながら回避したりジャンプしたりと、動作のいちいちがかわいくそして不吉で、製作者がアリスのキャラクター性に細部までこだわっているのがよく伝わってくる。
見て面白く、操作して楽しいという、アクションゲームの基本中の基本ができているわけだ。
じゃあアクションゲームとして面白いのかというと、それがじつはあんまり面白くはない。
敵のデザイン自体は薄気味悪くてよいのだが、敵の種類がどうにも少なく変化に乏しいのに、やたら同じ敵と戦わされるので飽きるというのが一つ。やたら回復アイテムが出るしピンチになると無敵モードが発動できるので適当にプレイしててもなんとかなるというのが一つ。武器をパワーアップさせても威力が変わるだけでアクションに変化がないというのも寂しい。
またカメラワークが近くに寄りすぎて的を見失いやすく、ターゲッティングが変更しづらいため複数の敵と戦っていると思いとおりに動かせずにイライラすることも多々ある。
戦闘以外は簡単な謎解きをしつつ、ジャンプアクションで先へ進んでいくのだが、謎解きは簡単すぎるうえに、似たような謎解きが何度も繰り返させられるので、無駄に歩かされる単調な印象ばかりが残ってしまう。
ジャンプアクションも、四段ジャンプまでできてしまうためかやたら足場が遠く、おかげで届くのかどうかわかりづらい。かつ失敗してもノーリスクでその場から再開出来るため、適当に跳んでは失敗して、という繰り返しをするばかりで、ジャンプアクション特有の「届くか?届かないのか?」というドキドキを味わうことはまるでできない。届かない場所に届くように工夫するといった場面もないため、単に適当にポンポン跳んではたまに落ちてその場からやりなおすという、これまた単調さを感じさせる出来になっている。
途中にリズムアクション風や横スクロールSTG風のミニゲームなどがはさまってくることもあるのだが、いずれも単純かつ簡単で、ゲームのアクセントとしてはあまりにも弱く、それでいていずれも二回三回とやらされるのでやはりうんざりしてしまう。
各面の背景も、それ自体は不気味で美しいのだが、攻略中にほぼ変化がなく一面につき二~三時間もかかるため、その面のなかばまで行く頃にはすでに飽きてうんざりしてしまう始末。
極めつけは面の最後にボスがいないので拍子抜けしたままクリアしたことになってしまうこと。
ただボスがいないならまだしも、ストーリー的に明らかにこいつ中ボスだろっていうまが出てくるのに、なにもせずに勝手に退場してしまう。登場シーンと退場シーンのムービーは作ったのに、実際の戦闘シーンは開発が間に合わなかったので削ったとしか思えない展開。このガッカリ感は本当にひどい。
またストーリーがわかりづらく、自分がなにを目的にどこへ向かっているのかさっぱり理解できないのもモチベーションがあがらない一因になっている。
そもそも本作のストーリーはそれ自体で難解だ。ヤク中のトリップみたいな原作二作を基礎知識で抑えたうえに、十年も前に発売された前作を踏まえなければならない時点でハードルが高い。
そして今作のストーリー展開自体も、現実で貧しい生活をしながら過去の事件の真相に近づいていくパートと、ワンダーランドでの支離滅裂な放浪と過去のフラッシュバックが入り混じっているためわかりにくい。
おまけに現実パートだけをつなげて見ても、時間はとびとびでどうつながっているのかも理解しがたく、台詞回しは原作を踏襲して諧謔とメタファーに満ちているため普通に聞いていてもなかなか理解できない。
そして極めつけが日本語のローカライズのいいかげんさだ。今作は字幕のみ日本語対応なのだが、この字幕の訳し方が直訳的で非常にもってまわった言い回しになってしまっており、単純にわかりづらく、文章としての魅力もうすい。さらに字幕が流れるのが早く、ギミックの凝ったムービーの内容を見ながらこの字幕を理解するのはほとんど不可能なんじゃないかと云うレベル。
吹き替え字幕の好き好きはあるだろうが、今作の場合はゲーム内容的に日本語吹き替えはしておかなくちゃいけなかったのではかろうか?
また、ロード時間、場面転換の多発の問題もある。
自分はXBOX版をインストールしてプレイしたのだが、ロード時間自体は短い。ないわけではないが、あまり気になるレベルではない。
が、場面転換の回数が多く、そのたびにロード画面が出てくるのは、どうにも興が削がれてしまう。そして場面転換のたびに、前のシーンからどうつながっているのかがわからなくきなってしまう。一、二、三歩と進んで次がいきなり五歩目になってしまったかのような、微妙につながっていない違和感があるのだ。
このゲームの最大の肝は、ワンダーランドに入りこんでしまう没入感にあるのではないかと思う。少なくとも自分が期待したのはそれだ。この場合、いかにスムーズに場面転換していくかが没入感の鍵になっていると思うのだが、今作はそれがあまりにも拙い。
『アンチャーテッド』シリーズや『ゴッド・オブ・ウォー』シリーズなどは、じつにそれがうまい。出てくる光景やギミックのほとんどはどこかで見覚えがあるようなものばかりであるのに、なんというか、この二作では主人公がズルをしてないのだ。いや、ズルという意味では二作とも主人公の肉体が強靭すぎて明らかに反則なのだが、あらゆるアクションの過程に省略がない。これが演出として没入感を高めている。
例えばマリオでいうと、1-1から1-2に行く時などに土管に入って即座にワープしてしまう。しかし上記二作などは土管の中を這い進んで次の地にたとじりつくのをしっかりと描写する。これによって自らの手で、足でつきすすんでいく感じを演出できているのだ。
無論、これはリアルであればいいといっているわけではなく、マリオの土管ワープはあれはあれで正解だ。リアルにするとただ時間がかかって面倒臭くなることも多々あるし、上記二作が名作足りえているのは、それでいてテンポよく話が進んでいくシーン構成によるものであって、リアルであるからではない。
しかし、今作の場合、不思議な空間に迷いこんでしまったトリップ感覚、酩酊感こそが肝であるので、はい唐突に場面転換してちがう場所にいました、というのはつまらない。前述したロンドンとワンダーランドが地続きになっていくシーンも、そのシーン自体は大変良いものであるのに、直後にロードが入って「はい、ここから先はワンダーランドです」と云わんばかりに現実の影がなくなってしまう。
今作のストーリー展開は、現実と幻想があいまいなままに混じりあっている。自分が一番みたいのは、その曖昧な状態だ。現実と幻想の境目だ。地続きに変化していくことによって正気が疑わしくなる瞬間だ。このゲームには、一番大事なその瞬間がない。アリスの不確かな現実感を共有させるような演出がまるでできていない。だからシーンごとは魅力的にできているのにどこか冷めた目で見てしまう。それが非常に残念だ。
それぞれの要素はとても魅力的にできているのに、それを最終的にどう見せたいか、という総合的な視点が欠けていたのが今作だろう。もったいないとしか云いようがない。
しかしビジュアルワークはやり他のゲームにない独特のものに仕上がっているのは確かで、一見の価値はある。
特に後半、空中に浮かび上がったトランプ橋から荒廃したトランプ女王の城へといたるシーンや、虐待された子供達のこわれた心象風景を映像にしたドールハウスなどは非常に良い。
首のないマネキンがブランコをこぎ、もがれた首がそこかしこに転がるドールハウスにてキャノン砲を構えるアリス近影
正直、中盤をプレイしている時は「なんでおれこんなゲームやってるんだろう……」と我に返ってしまうくらいに白けた気分になっていたのだが、後半のビジュアルの美しさと不気味さ、そこはかとなく漂う悲しさは、ゲーム史でも稀にみるほどユニーク。
この世界観がはまる人にはオススメできるが、合わない人はまったくオススメできないという、コンセプトの時点でわかりきっているが賛否両論なできのゲーム。
とはいえもうちょっとでアクションゲームとしてずっと面白くできたのに、もったいないなあ、というのが素直な気持ち。
変な水増し要素減らして面の長さ半分にして、気が向いたときに一日で一周できるようなボリュームにしていれば、なんだかんだで「あの景色が見たいなあ」という時に立ち上げるソフトになれただろうに、現状では二周目をする気にもなれない面倒臭さが残念。
映画が多くの人に観られるのは拘束時間が短いからであって、なんでも長くすればいいわけじゃないのに、ゲーム業界はとにかくボリュームボリュームで間違った方向に進んでいるよなあ。中古市場を考えれば仕方がないんだろうけど。
例えばバイオハザード初期作だってあのボリュームが繰り返しプレイを推奨し、一夜の悪夢としてストーリー的にもはまっていたからこその多くのユーザーに受け入れられたのだと思うんだけど、今作みたいに似たようなコンセプトのゲームでもどんどんボリュームだけ増やしていくからなあ。
そういう意味では低ボリューム低価格中古市場なしのダウンロードゲームにこそ、大人が遊べるゲーム市場が眠っていると思うんだけど、なかなかそういう流れにはならなんだよねえ。残念。
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