幻想の青空

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第三章「罰」

2017-11-01 10:15:00 | 企画作品:学生戦争

噴水で遊ぶ子どもたちを横目に見ながら絵凜は歩みを進めていた。
手には数輪のひまわりの花。

子どもたちの遊ぶ公園の奥に、彼女の目指す墓地はあった。

お盆にはまだ早いが、何組かの家族が墓参りをしている。
墓地は小さな丘に沿うように作られている・
絵凜はとある墓の前でその足を止め、手に持っていたひまわりの花をその墓にお供えする。
「…遅くなったね」
墓標には「桜葉家」の文字。
絵凜はしゃがみこんでそっと手を合わせた。
そして手を合わせ終えると、墓に小さな声で語りかける。
「また、ひまわりの時期が来たんだ。だから、持ってきたよ」
じりじりとした暑さの中、遠くからセミの鳴き声が聞こえる。
絵凜はしばらく何も言わずじっとしていたが、立ち上がった。
「じゃあまた来るから」
絵凜がその墓に背を向け、帰ろうとした時だった。
「…絵凜ちゃん?」
下の方からかけられた声の主を絵凜は知っていた。
彼女が今一番会いたくない人物――、桜葉 美香と言うその人は絵凜に向かってにこりと微笑みかけた。


・・・・・・


正直家に招かれたところで気まずいだけであり、どうしようもないのだが、「せめてケーキの一つでも」と誘われれば仕方ない。
絵凜は約一年ぶりに訪れた桜葉家の、自分の家とくらべればこじんまりとしたリビングでなくなった親友の母のテーブルを挟んで正面に座っていた。

「最近見かけなかったから、心配だったのよ。ほら、あなたのお母様も体が弱かったでしょう?だから…」
「…申し訳ないです」
「いいのよ、ただ勝手に心配してただけだから…」
気まずい沈黙。
絵凜はケーキにフォークをたてて一口分崩す。
「そっか…絵凜ちゃんは高校2年生か…」
意味有りげな一言に危うくケーキを喉につまらせかけた。
絵凜は返す言葉も見つからず、右手に持ったフォークを指先で小さく弄った。
「絵凜ちゃん。たしかに、勇輝のことは…あなたが最後に一緒にいたから気にしてるのかもしれない。でも、ここに来ることを遠慮しないで。あの子のためにも。…私と希望(ひかる)のためにも。私はあなたの事を責めてはいないのよ……」
「…」
「ゆっくりでいいの。時々でいいから、遊びに来てね」
「…はい」
形式的な返事をして、絵凜はバランスを崩して倒れたケーキを口に運んだ。


・・・・・・


絵凜はケーキを食べ終わるとすぐに家を出た。
(あの人が自分を許せるわけはない…)
かかとを踏んだまま道を急ぐ。
ここから離れなければ。
ふと視線を感じて振り返ると見覚えのある男子高校生がこちらをじっと見ていた。
絵凜は慌てて、でもそれを表に見せないように帰るべき道を進む。
風に乗って背後から小さく聞こえた「人殺し」の声。

そうだ、自分は人殺しだ。
親友の勇輝を殺したのは――自分だ。

絵凜は握った拳にぐっと力を込めた。


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