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書評:「長編詩 ピコ・デ・ヨーロッパの雪」響文社刊 天童大人著

2015年04月28日 23時59分59秒 | 書評(文学)
『長編詩 ピコ・デ・ヨーロッパの雪』 天童大人著 響文社刊


 作者の天童大人は詩人だ。「詩人の聲」のプロジェクトのプロデューサーをしている。それと共に朗唱家、字家でもある。(朗読家、書家と天童は呼ばない)その天童が最新詩集を刊行した。『長編詩 ピコ・デ・ヨーロッパの雪』である。

 新書本一冊分の長編詩だ。天童が朗唱家を名乗るには理由がある。「詩人の聲」のプロジェクトもそうだが、ノーマイクで長時間、自作の詩を聲に出す。これは日本で例を見ないものだ。多くの詩人が参加し、9年半で1240回に及ぼうとしている。世界にも例がない。「詩人の聲」の副題に「目の言葉から耳の言葉へ」と書かれている。作品を聲に出すと、作品の善し悪しが分かる。作品の練り直しが出来る。これが「聲の力」だ。聲は声帯から出る。声帯は筋肉だ。鍛えれば聲が変わる。発声する人間も変わる。

 その天童が、1972年29歳の時に単身ヨーロッパに渡り、聲の修行をした。それはまた言葉の修行、自分を無にする修行でもあった。

 その修行を叙事詩として作品化したのが、この詩集だ。

 スペイン山中で過ごした期間を中心に、その前後と、スペインへ向かう途中の船旅の部分で構成されている。様々な場面がモンタージュ式に入れ替わるが、言葉にリズムがあり、全く違和感がなく独特な世界がひらける。文体の特徴は、体言止めと動詞の言い切り、助詞や動詞の省略された中止法。これらリズム感を醸し出している。

 作者の言葉と聲とへの目が開かれてゆく過程が作品化されている。作者にとっては発見の連続だったろう。それが読者に伝わって、読む方も心がたかぶる臨場感があるのだ。

 それはまた作者の世界観が形成される過程でもあったことだろう。

 かなりの長編で今までなかった詩のフォルムだ。その中で詩人の心や言葉、感じ方が鍛えられてゆくさまが、切実に表現される。このコンテキストも、かつてなかったものだ。


 最後は、かつての修行で作者が、自己の表現の基本を形成したことが暗示される。

 この物語的な長編詩を読むと、先程の「聲の力」が実感出来る。作者が次々に新しいものを獲得し、脱皮して行く様子がありありと表現されているからだ。

 巻末に「詩人の聲叢書」の「創刊の辞」が挟まっている。

 「新たな言語表現の在り処を探る『詩人の聲叢書』。
                   今、ここに出航の 銅鑼を打ち鳴らします。」

 「詩人の聲叢書」はこれから続々と刊行されるとだろう。「出航の銅鑼」。この詩集の船旅がそれに照応しているようだ。

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