三浦和義事件 / 島田 荘司

900ページを超える文庫本。
ものすごい分量なのだけど、文章がうまくてぐいぐい読めてしまう。
ぐいぐい読めても、当然900ページ分の読書時間は必要なのだけど、とにかく飽きないし、そんなに長くも感じないで最後まで行けた。

前半はマスコミ視点(というか文春視点)で話が進む。もう一度、あの頃の熱狂をおさらい。ふむふむたしかにこんな感じだった。テレビをつければいつでも「三浦和義」「ロス疑惑」だった。

で、面白いのは次の「三浦和義の視界」だ。
彼が、金もコネも何も無いところから、文字通り身を粉にして働きまくって、成功をおさめていくストーリーは、ここだけ読んだら素晴らしい立身出世のお話だ。そして、彼の視点で見れば、本当に突然に文春による「告発」があって、あっという間にこの熱狂の中に放り込まれるのだ。

この本は、公平というよりは「三浦は無罪」でこの事件は「冤罪」というスタンスで書かれているので、もちろんフェアではないのだけど、当時の文春を含む日本中のマスコミの暴挙を考えれば、これぐらいの「調整」が無ければむしろアンフェアだろう。

とにかく、「百人の犯罪者が罪を逃れても、一人の冤罪者を出すまい」という、本来ならば最も基本的な司法ルールがこの日本という国では全く認識されていないし、警察も検察も、そして裁判官達も、おそらく日本では「とにかくちょっとでもあやしい奴らは全員犯罪者にしちまえ! それで少しばかり無実の野郎が刑務所に入ったって別にいいんじゃね。」と思っているのだ。
映画「それでも僕はやっていない」を見れば、この状況は今現在も全く変わっていないというのがよくわかる。

これはもう、本当にどうにか出来ないのだろうか?
小学校ぐらいから、「黒という証拠が無い限りは無罪」という精神、そして、逮捕されたからといって別に有罪と決まったわけじゃなく、有罪かどうかは裁判で決まるという当たり前のことを、もう少し国民に教えるべきじゃないのかなぁ。
逮捕されただけで、う完全に犯罪者あつかいというのは、本当にひどい話だ。

彼が完全に白だという証拠がこの本で示されているわけじゃない、けど、今までに集まった「証拠」を集めたところで、彼はせいぜい「うすい灰色」ぐらいなものだろう。
こんなんで有罪にされてしまうのでは、こわくて生活できないではないか。
「それでも僕はやっていない」を見てから、電車にこわくて乗れなくなってしまったけど、この本を読むと、こわくて生活できなくなるなぁ、ほんとに。

要するに、背が高くて色男で女にもてて会社社長で1億円の家に住んでてベンツに乗ってる奴は、もうそれだけで許せない、そいつを逮捕して有罪にしちまおう、というそういうヒステリーが日本中に蔓延したということだ。

興味深くそしておそろしい。

作者があとがきで書いているけど、これは「虐め」なのだ。そして学校ではなくむしろ大人社会でのそれのほうが陰惨でひどい日本での虐めというのは、国全体が護送船団方式で世界の中で浮上していくためには、軍隊式の規律が必要であり、その中で必然的に生まれてしまったものなのだろうけど、もうそろそろそういう軍隊式の雰囲気から脱却できてもよいのじゃないのかなぁ。

とはいえ、堀江貴文という人物がああいう形で表社会からひきずり下ろされたりしたのを目の当たりしてきたわけだし、あいかわらずこの国ではまだまだ無理なのかもしれないなぁ。

あやしいと目をつけられたら証拠を作り上げてでも有罪にしてしまうということをもう僕らは知ってしまったのだから、とにかくもうあやしいと思われないように、目をつけられないように、身を低くして、目立たないように、ひっそりと生きる以外には、ずっと安全に暮らす方法はなさそうだ。

おそらくこの現状を個人が変えるのは無理でしょう。
おそらく。

民主党は取り調べ室を24時間カメラで撮影して残すということを政策の一つとして謳っているらしいのだけど、それが今回の小沢さんの秘書の逮捕につながっているとすれば、本当にもうだめなのかもしれない。今度政権をとりそうな政党が自分達に不利な政策をかかげたら、そいつらを逮捕してしまうということならば、もう本当にこの国のこの間違ったシステムは変わることができないのかもしれない。

がんばってほしいなぁ。民主党。
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コメント
 
 
 
同感です (ビアンコ)
2009-03-31 09:18:44
冤罪に関しては、私よりもダーリンが以前からそういう本を読み漁っていて、今は『冤罪ファイル』とかいう雑誌を熱心に読んでいます。
「疑わしきは被告の有利に」という理念がただの言葉になってしまっている現状を知るにつれ、結局自分にできることは自分が冤罪被害者にならないように祈ることだけ...みたいなことを言っています。

それで、やっぱり、電車に乗るのは怖いそうです。
秋田じゃそんな心配は無用ですけど(笑)

5月から裁判員制度が始まりますね。
これを機会に、まず国民が裁判や司法に興味を持ち始めれば変化が起こっていくのかもしれません。
気の遠くなる話ですが。
 
 
 
冤罪 (uenooo)
2009-04-01 08:26:49
実際、自分が冤罪の被害者にならないために出来ることって、電車に乗ったら必ず文庫本を両手で持って、「自分は両手で文庫本を持っていますよ~」とこれ見よがしに周囲にアピールするとか、エスカレーターではミニスカートの女性のすぐ後ろに並ばないようにするとか、それぐらいのことしか出来ないですよね。あとは祈るのみ。

いや、秋田でもわかりませんよ~。
がらんとした車内だって、女子高生が大きな声で「ちょっと何するんですか~。この人、痴漢です!」って叫べば終わりって気がします。
あー、こわいこわい。

 
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