史跡訪問の日々

幕末維新に関わった有名無名の人生を追って、全国各地の史跡を訪ね歩いています。

「勝海舟関係写真集」 森重和雄 高山みな子 三澤敏博著 出版舎 風狂童子

2020年05月30日 | 書評

本書も三澤敏博氏より献本いただいたもの。写真集というと、グラビアアイドルかフリーアナウンサーのものと相場が決まっているが、この本は歴史上の人物が主役である。実は「西郷隆盛写真集」という西郷隆盛その人の写真は一枚も載っていない写真集を持っているが、こちらは勝海舟が残した写真を網羅した本格的なものである。

冒頭、勝海舟自身の肖像写真が紹介されている。いずれも「どこかで見たことがある」ものばかりであるが、感心するのは同じ写真のように見えても、写真の持ち主が違ったり(つまり現在への伝わり方が異なっていたり)、少し撮影角度が違ったりして、いくつかバージョンの違いがあるということである。本書は、一枚も漏らすまいという編者の執念が透けて見えるようなものとなっている。

勝海舟自身の肖像写真や葬儀の写真、土産写真に続いて、海舟の親族関係の写真が紹介される。勝海舟には、民子夫人のほかに梶玖磨(長崎時代の愛人、梶梅太郎の母)、増田いと、小西かね、清水とよ、森田よねという妾があり、それぞれの間に子供をもうけている。従って親族関係の写真といっても膨大な数になるが、これも丹念に追っている。

といっても写真だけでこの大部の書籍ができあがっているわけではない。第二章は勝海舟絵画集と題して海舟を描いた絵を紹介している。第三章は各地にある海舟の銅像。二年前に松代の象山神社に象山の弟子や知己ということで、海舟始め坂本龍馬らの像が建てられていたということを本書で初めて知った。

第四章では、海舟の玄孫高山(こうやま)みな子氏の手による「海舟逍遥」。高山みな子氏は、海舟と増田いととの間にできた三女逸と目賀田種太郎の娘正代(高山直純氏と結婚)の孫にあたる。ここでは伊勢松阪射和の豪商竹川竹斎のことが詳しく紹介されているのが嬉しい。竹斎は商人でありながら、海外に目を向け「海防護国論」を著わし、幕閣にも建言した。勝海舟との交わりも深く、経済的にも支援を惜しまなかった。海舟の先見性というのは、多分に竹斎の影響を受けている(極言すれば、受け売りだった)のではないか(これは私が勝手に思っているだけです)。海舟と比べれば世間的にはずっと知名度は低いが、同じくらいエライ人であった。

なお、海舟と西郷との無血開城の場に立ち会ったのを「薩摩藩士渡辺清」と書いているが、これは「大村藩士」の誤りであろう。高山みな子さんがおっしゃる「重箱の隅をつつ」くような話ですみません。

第五章は、三澤敏博氏お得意の「江戸東京に遺る勝海舟の足跡」というお題で、関連史跡を紹介している。毎度のことながら、この方の幕末に関する造詣の深さは圧倒的である。都内の史跡は行き尽くしたと思っていたが、まだ知らない史跡の存在を本書で知った。一日も早く外出自粛・在宅勤務が解除されることを待ち望むばかりである。

最後に、決して本書の価値を損なうものではないが、誤字・誤植が目立つのは残念であった。これだけ立派な装丁、充実した内容だけに校正はしっかりして欲しいものである(たとえば、象山の子息の名前恪二郎を格二郎(P360)、宮島誠一郎を宮沢誠一郎(P406)、西郷菊次郎を菊二郎(P406)、柴田衛守を柴田守衛(P413)と表記など)。

 

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「越後新潟幕末維新グルメ物... | トップ | 「徳川の幕末」 松浦玲著 ... »

コメントを投稿

書評」カテゴリの最新記事