草むしりしながら

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牛の競り市

2024-01-29 10:29:29 | 草むしりの幼年時代

 牛の競り市

 先日は当地で栽培している七島蘭(しちとうい)について書きました。当時この七島欄で作る畳表を買い付けに来る人のことを筵買い(むしろかい)と呼んでいました。

 久しぶりにそんな言葉を思い出したせいか、牛の買い付けに来る人のことを「ばくろう馬喰?博労?」と呼んでいたのも思い出しました。

 私が子供のころはまだどこの家でも飼っていました。牛を売るときは博労さんが直接家に来て買っていくとこもありましたが、競り市に出すこともありました。競り市には一度だけ連れていってもらったことがあります。 

 その日は土曜日だったと思います。学校に母が迎えに来て、そのまま競り市の会場に行きました。いつもの通学路の途中で横道に入り、墓地の中を通る坂道を上りきると、急に草原が広がっていました。

 いつも見ている山の上にこんな所があるなんて、思いもよりませんでした。草原は広くて牧場のようでした。けれども一番驚いたのは牛と人があふれんばかりにいたことでした。

 おそらく町内だけではなく近隣の町からも来たのでしょう。会場は牛の鳴き声と人々の話し声がごっちゃ混ぜになって、活気にあふれていました。

 大勢の人々の中に父の姿がありました。いつもと違って少し興奮気味で、顔が赤らんでいました。顔見知りなのでしょうか、誰か話をしていました。

「いい値で競ってな!」

 と言って父は牛をひいて、競りの会場の中に入って行きました。父が牛をひいて会場をぐるぐるまわると、あちこちから声があがりました。

 果たしていい値がついたのでしょうか?競り市に行ったのは、後にも先にもその時だけです。けれども人と牛がたくさんいたあの時のことは、忘れることはありませんでした。

 もしかしたらあれは幻だったのでは、と思うこともあります。今では建設会社の資材置き場になっていると聞きました。そう聞くとあれはやはり現実にあったのだと思います。



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