
わたしが親しくさせてもらっている本部のお父さんの同級生に、アグーを育てて循環型農業というのに取り組んでいる方がいる。その農業をアピールすべく、今年の一月中旬、アグーのしゃぶしゃぶ&炭火焼を提供するお店をオープンさせたとかで、友人を誘って早速出かけた。
いただいたのはしゃぶしゃぶ。自前のアグー肉と野菜を出汁でしゃぶしゃぶして、ショウガとポン酢でいただく。薄くスライスされた様々な部位の肉はとてもやわらかく、さっぱりした味で、いくらでも食べられそうだった。シンプルな食べ方だからこそ、肉の旨味をしっかりと感じることができる。一緒に出された野菜もほとんどが自家製で、そのおいしさに感動した友人は、生のままムシャムシャと食べていたっけ。
おなかいっぱいアグー肉と野菜を食べた後、ご主人も交えての会話がはずむ。その時に、アグー飼育と野菜栽培のしくみについて、とても興味深い話を聞いた。循環型農業について。

サラリーマン生活の傍ら、長年豚の飼育をしてきたご主人は、15年ほど前に会社を退職して農業と豚の飼育に専念したという。豚の糞尿から発生するメタンガスや液肥に注目して、これを野菜の栽培などに活用する方法を試行錯誤で実践してきたそうだ。
豚の糞尿やトイレの汚物・残飯などが溜まって発酵すると、メタンガスが発生し、上澄みは液肥、残った個体は汚泥になる。ゴミ処理施設などではこのメタンガスを発電に使っていたりする。
ご主人は、自らメタン発酵浄化槽を作り、発生したメタンガスを利用して畑で育てた月桃(沖縄ではサンニンという)の葉を炊き、その蒸留水を野菜畑で害虫の忌避剤に使う。月桃のこうした利用方法は、沖縄県内で注目されて様々な研究がなされている。一方液肥は、パイプを伝ってホースから出せるようにして、野菜畑の肥料として直接まく。汚泥も液体と撹拌して、肥料として利用。
つまり、「豚の糞尿・食堂の残飯→メタンガスと液肥・汚泥→月桃を炊いて畑の害虫忌避剤、野菜畑への肥料→野菜・豚を食堂で利用→豚の糞尿・食堂の残飯」という見事なサイクルができあがっているのだ。さらに、太陽光発電システムを利用して、食堂の光熱もまかなえているというから驚いた。
長きにわたってご主人が循環型農業に取り組んできたのには理由がある。一つ目にメタンガスが発生するための温度条件に沖縄がとても適していること、二つ目に、通常メタンガスの発生時、分解されずに溜まるカスの撹拌を、浄化槽の作りを工夫して自動で行えるようにしたことだ。


そのシステムを目で見て確かめたくて、後日、改めてお店にお邪魔した。同じ敷地内に40頭余りのアグー豚、大きく育った葉野菜の畑、月桃畑。豚舎には産まれて3ヵ月ほどの子豚ちゃんもいた。自然の恵みが生き生きとそこにある。浄化槽は3段階を経たのち、メタンガスは月桃蒸留装置へ、液肥・汚泥は畑のあちらこちらに巡らされたホースから調整しながら出せるようになっていた。
豚舎に近づいても家畜独特の臭いがしないので、不思議に思って尋ねると、完全に発酵した液肥を混ぜた水で豚舎の洗浄をしているからだという。液肥や汚泥を直接畑にまくことができると、肥料を作ったり買ったりするよりコストも省けるそうだ。
沖縄の農業がもっと元気になるように、こうしたシステムをもっと多くの農業従事者に知ってもらいたいというのが、ご主人の一番の願い。おいしいアグーと野菜を通して、この思いが島中に広がるといいな。(続く)