日伊相互文化普及協会

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【アグリトゥリズモ・貴族の奥方】

2006-11-20 12:42:59 | Weblog
10年前にウンブリア州のトーディの郊外にVilla La Palazzettaというステキなアグリがあった。貴族の農場別荘をアグリにしたのだった。
主人のアントニオは元貴族で農業が大好き、いつも毛玉の付いた赤いセーター、夏は茶の麻のシャツ、そして長靴を履いて畑を飛び回っていた。
私は日本から大根やシソ、サトイモなどをアントニオと一緒に植えた。
夏に行くと春にまいたニガウリが育って、私流の料理を作った。シソの入ったパスタやサラダ、葉の天麩羅は人気があったが、ニガウリ炒めは「よく、こんなもの食うなあ」とアントニオやアグリのみんなに笑われた。
世界中の客たちでいつもにぎわい、夏は庭園で、冬は暖炉の前で遅くまで歌ったり踊ったりしていた。料理講習や、陶器講習、美術指導などがあり、夜行性野生動物の観察はアントニオの案内とレクチャーだった。
そのアグリを閉めると言う。
奥方が庶民と一緒に騒ぐ主人を咎め、離婚騒ぎになったのだ。
そして、いくらアグリトゥリズモを政府が推奨していても、自分の美しい農場別荘を、ドイツやフランス、アメリカ、日本などから来る庶民に貸し与えることは、たまらないことだったらしい。
奥方はトーディの町の館に住んでいて、めったにアグリに顔を見せなかった。たまに来ると客も従業員も一切存在していないようにふるまう。決して主人意外と視線を合わせることもなかった。着ている服は中世を思わせ、レースも時代がかっていて、白だったと思われるグレーの手袋は所々生地が薄くなっていた。彼女の中ではイタリアの貴族制度は終焉していないのだった。
今頃はどうしているのだろう。天然記念物を思わせるあの姿は、今もどこかで存在していてほしい。
                                 Emi

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