透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

ブックレビュー 1106

2011-07-03 | A ブックレビュー



 6月の読了本はこの3冊。

『環境デザイン講義』 内籐廣/王国社 

**身体も衣服も環境のアイテムです。建築も都市も田園風景も環境のアイテムです。そうしたものすべてを、姿形のあるものとしてどのように解釈し、そしてさらに構築していくか、これが「環境」と「デザイン」を論じていく意味でもあるわけです。**40頁


『日本の建築遺産12選』 磯崎新/新潮社とんぼの本

日本建築史を「垂直の構築」と「水平の構築」という対概念であらためて読み解く、という試み。磯崎さんが取り上げているのは垂直の構築「出雲大社」と水平の構築「伊勢神宮」から水平の構築「代々木オリンピックプール」と垂直の構築「水戸芸術館アートタワー」までの6組。


三十三間堂 200801 柱の単純な反復による「水平の構築」


『天頂より少し下って』 川上弘美/小学館

表題作。 学生結婚をした真琴は三十歳になる直前に離婚した。夫に恋人ができたのが離婚の理由だった。真琴は息子・真幸をひとりで育て上げた。真琴は今四十五歳。いままで何人かの男と恋をしてきた。ある日真琴がバーのカウンターで恋人の涼と飲んでいると、若い男女が扉を開けて入ってきた。男は真幸だった・・・。

朝ごはんを必ず一緒に食べることにしている真琴と真幸。**あれは母さんの恋人なの?(中略)「それより、あの女の子の方こそ真幸の恋人なの」**(190、191頁)こんな親子関係もあり、なんだ。若い作家には書けないかもしれないな、こういう小説。

タイトルの「天頂より少し下って」というのは月の位置のことだと最後に判る。これは真琴の人生の今の位置を暗示する言葉でもあるのだろう。

「一実ちゃんのこと」。 予備校で一実ちゃんと知り合ったあたし。ある日昼食を牛丼屋ですませたあたしたち。一実ちゃんはあたしをお茶に誘う。「私、クローンの生まれだから」と一実ちゃんが話始める・・・。一美ちゃんのお父さんは遺伝子工学の学者で先端のクローン技術の研究に携わっていたのだった(今は転職しちゃったけど)。

星進一のショートSFとどことなく雰囲気が似ているような・・・。川上弘美は学生時代、SF研究会に入っていたそうだから、こんな小説を書いても不思議ではない。



7月はこの本から。