旧刊時空漂泊

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わが心のスペイン シンポジウム<スペイン戦争+一九三〇年代> 角川文庫

2011-11-17 13:14:56 | 日記
著作者 五木寛之
発行者 角川源義
昭和48年10月30日 初版発行
発行所 株式会社 角川書店

シンポジウム<一九三〇年代>   久野 収   斎藤 孝   五木寛之

            

        【一九六九年、それはスペイン戦争が幕を閉じて、ちょうど三十年たった現在である。
        その三十年前に世界に何が起こり、何が終ったかに、私は必要以上の興味を抱き
        続けてきた。歴史と呼ぶには新し過ぎ、現在と呼ぶには余りにも離れすぎている時
        代、そこにスペイン戦争がある。   ・・・(中略)・・・
        この三十年間私たちは無数の戦争を見てきた。だが、その戦争のすべて、動乱の
        すべては、どこかスペイン戦争の影をひいているような気がする。わたしがベトナム 
        とチェコ、沖縄と三十八度線、中近東とアフリカが問題にされている現在、あくまで
        スペイン戦争にこだわるのは、いささか現実逃避的な姿勢と考えられなくもない。
             ・・・(中略)・・・
        私の考えでは、スペイン戦争は、まだ終ってはいない。戦火は一九三九年の春、フ
        ランコ軍のマドリッド占拠で消えたが、それは形の上だけの終戦である。】
                                                 (9~10頁)
       
        【 その年のはじめ、私は奇妙な計画を立てていた。その事については、前にどこか
        の雑誌に書いたことがある。つまり、私は意識的に時代とずれることを考えたのだっ
        た。私は当時、金沢に住んでいた。そして北陸の地方都市に引っこんで暮すからには、 
        それなりの生き方があるように思われた。私の周囲を日々の事件が、目まぐるしく通
        過して行く。今日語られたことが、明日は忘れ去られ、色褪せてしまう。テレビが、新
        聞が、雑誌がそうだった。私はそんな時の動きに逆らって生きたいと考えた。  
         そこで私は、毎月新刊の雑誌を読むように古い三十年前の雑誌を読もうと決め、
        『改造』と『中央公論』と『文学評論』のバックナンバーを手もとに集めた。それを毎月
        拾い読みするのは、楽しい仕事だった。その年、私の手もとにあったのは、一九三六
        年の雑誌だった。作家では広津和郎、佐藤春夫、堀辰雄、高見順、丹羽文雄、村山
        知義、などという人々が作品を発表している。私はその雑誌で『風立ちぬ』や『猫と庄
        造と二人の女』を読み、近藤日出造や、清水昆や、横山隆一その他の漫画家の漫画
        を見た。その中の小さなコラムに、例えばこういう調子のものがあり、なぜか私の記憶
        に残った。
         「社員採用試験の絵にそえて、労務係長曰く<人民戦線とは何か知ってるものは手
        をあげて、よろしい。君ら全部お断わりだ>」
         それらの古雑誌の中で、私をひきつけたのは、『改造』の秋季特大号だった。『特集・
        スペインの内乱』という文字が表紙に刷りこんである号だ。】
 
 1939年から72年過ぎた現在、スペイン戦争は歴史になりました。
 経済問題でスペインが話題になっていますが、スペイン戦争以来ではないでしょうか。