旧刊時空漂泊

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歴史の暮方

2011-07-12 09:59:31 | 日記
林 達夫 著
昭和21年9月30日 発行

筑摩書房 刊



              



本書の「鶏を飼ふ」という文章の次の一節が非常に印象に残っています。


     「去年の秋、わが国の養鶏界では二羽の白色レグホーンと同じく二羽の横斑プリマス・ロ
     ックが一年三百六十五日を一日も休まずに卵を産みつづけてつひに世界待望の輝かしい記

     録をつくった。丁度それを合圖のように、日本養鶏の全面的崩壊がはじまったのである。
     たった三四ヶ月のうちに、忽ちにして五千萬羽もゐた鶏が最小限に見積もってもその二三割
     を失った。愛知縣では四五割だと云われてゐる。しかも農林省は有名な増産五ヶ年計畫な
     るものを發表して、その努力に乗り出した第一年目なのである。満洲からは苞米(唐もろ
     こし)も高粱も大豆粕もろくろく来ない。しかも大豆粕たるや魚粉と共に無機質肥料の逼
     迫のため慌てて作られた有機質肥料會社との争奪の的である。佛領印度支那や爪哇や南米
     の苞米、カナダの小麥屑が殆ど輸入できなくなった故にこその飼料難だから、そこから

     何かを期待することもできない。」     (163~164頁)

                                              

「鶏を飼ふ」は岩波書店『思想』214号、1940年3月号初出。

  (『林達夫著作集4 批評の弁証法』平凡社 412頁 解題による)       

満洲の苞米、高粱、大豆粕はなぜ来ないのか。

「満洲は日本の生命線」というスローガンは何だったのでしょう。

林達夫は昭和研究会に参加していたようですから、満州の事情も知っていたかもしれません。