typeKIDS Report

活字書体を使う人のための勉強会

電算写植システムと書体のこと

2019年10月08日 | Type&Typography
電算とは電子計算機の略で、コンピューターのことである。電算写植システムは、入力・編集・組版処理を行う装置と、自動電算写真植字機(出力装置)で構成される。
※筆者は技術的なことは全くわからないので、活字書体の記憶媒体を中心に記すことにする。また写研の電算写植システムについて(他社のことはよく知らないので)のみを記している。

光学式電算写真植字機(SAPTON)はガラス文字円盤に書体を収録して回転させて選字、露光する方式で、アナログタイプであるということでは手動写植機の文字盤と同じである。光学式写真植字機用として開発されたのが本蘭細明朝体である。手動写植機でのバックアップも必要とされていたので、同じ原字を用いて手動写植機用文字盤も製作された。
CRT式電算写真植字機(SAPTRON)はCRT(ブラウン管)からレンズ系を経て露光する方式である。書体はデジタルデータになり、その形式はランレングスフォント、ベクトルアウトラインフォント、曲線アウトラインフォントと変化していった。曲線アウトラインフォントということでは現在のDTPと変わらない。CRT式電算写真植字機用として本蘭明朝ファミリーが制作され、同じ原字を用いて手動写植機用文字盤も製作された。この時に本蘭細明朝体は少し調整して本蘭明朝Lとなった。
さらにレーザー式電算写真植字機(SAPLS)が開発された。レーザーの走査によって印字するもので、画像や写真の出力もできるようになった。


●レーザー式電算写真植字機および入力・編集・組版処理を行う各装置のカタログ


●レーザー式電算写真植字機SAPLSシリーズ

入力・編集・組版処理装置も、SABEBEに始まり、SAMITH、SAZANNA、SAIVERTを経て、GRAF、SAMPRAS-C、Singisなどの機器が開発された。
組処理プログラムとしてはSAPCOLが搭載されている。SAPCOLの用語や処理機能は、日本工業規格JIS X 4051「日本語文書の組版方法」にも組み込まれている。
ほかに組処理装置のRETTON、普通紙出力装置のSAGOMESなどがある。


●入力校正機GRAF-ET2N


●ページ編集機SAIVERT-H202-BN

文字入力装置では、フルキー式からシフトキー式、ペンタッチ式へと変化し、漢字かな・ローマ字変換方式へと展開した。また編集・レイアウト装置では、鑽孔テープに記録する方式から始まり、高度なバッチ処理方式になり、WYSIWYGレイアウト機能付きの編集機が開発されると複雑なフルページ組版が行えるようになった。


●電算写真植字機用書体見本帳(第1版)

手動写真植字機用文字盤用に制作されていたほとんどの書体がデジタル化され電算写植機でも使えるようになった。さらにニモニック・コードによって多書体が同時に使用できるようになった。


●本蘭ゴシック・ファミリー(電算写真植字機用書体見本帳・第5版より)

本蘭ゴシック・ファミリーはレーザー式電算写真植字機専用として制作され、もはや手動写植機用文字盤は製作されなかった。本蘭ゴシック・ファミリーとともに試作していた本蘭アンチック・ファミリーは制作されなかった。元写研大阪営業所のビルディングの「定礎」の文字にその名残をとどめているのみである。


文・今田欣一

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株式会社文字道写植工房見学記

2019年10月07日 | Type&Typography
東京都東村山市にある株式会社文字道写植工房にあった手動写植機用書体見本帳。この写真は第46版だ。





写真植字機の初期に制作された石井中明朝体、石井太ゴシック体は、東京築地活版製造所の活字書体を復刻することから始められている。



市販されているほぼすべての写植文字盤も保有されており、文字盤専用の「サガサーヌ」というロッカーに収められている。





株式会社文字道は、現在でも稼働する万能手動写植機PAVO–KY、小型手動写植機SPICA–AHをはじめ、数台の手動写植機を保有されている。





写研の手動写植機カタログ。





typeKIDSで、その写植工房を見学する機会を得た。当日は、株式会社文字道の伊藤義博さんに実演をまじえて、「いまりゅうD」と「今宋M」を題材にして写植機の機能を中心に説明していただいた。





横組用日本語書体「いまりゅうD」のメインプレート。この書体は14/16em(28/32em)で設計されている。縦組み用の音引きや約物は収録していない。



「いまりゅうD」の漢字文字盤(汎用外字)。14/16em(28/32em)で使う。



「いまりゅうD」のTかな文字盤(プロポーショナル)。16ユニットシステムで設計されており、和字書体の場合は、8ユニット(8/16em)から16ユニット(16/16em)の範囲で自動送りができる。右端の赤くなっている数字がユニット数を表している。



「いまりゅうD」のE欧文文字盤(プロポーショナル)。欧字の場合は、4ユニット(4/16em)から16ユニット(16/16em)の範囲で自動送りができる。右端の赤くなっている数字がユニット数を表している。左側にある右肩にSがついた文字がカーンドレター。合字なども収録されている。



※書体によって、2ユニット(2/16em)から14ユニット(14/16em)の範囲で自動送りができる文字盤もある。

縦組用日本語書体「今宋M」のメインプレート。基本的には長体2で使用する設計になっている。



横組み用の音引きや約物は収録していない。欧字書体は記号用として、漢字、和字と同じく右上がりに設計されている。E欧文文字盤は制作していない。


このほかにも多くの特殊文字盤や貴重な資料を次から次へと見せていただき、充実した時間を過ごすことができた。


文・今田欣一


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謄写版印刷と和文タイプライター

2019年09月27日 | Type&Typography
謄写版印刷のうち、鉄筆法(ガリ版)のほかに、和文タイプライターを使ったタイプライター法(タイプ孔版)があった。
金属活字のような凸版印刷や、タイプライターの印字物や写植の印字物を版下にしたオフセット印刷に比べれば、印刷物としての品質は高くなかったが、ガリ版とはレベルが違うものだった。高校時代の筆者にとっては、もっとも身近で安価なタイポグラフィだった。



高校の『文化祭パンフレット』(1972年)は、A5判、26ページの、タイプ孔版で印刷したものだ。高校の前にあった印刷屋さんにお願いして作ってもらった。表紙だけはオフセット印刷にした。本文もタイプオフで作りたかったのだが、予算の関係であきらめた。このパンフレットも想定外のページ数になったので、地元の商店をまわって、寄付金を集めたものだった。



当時、高校の部活のひとつに「タイプ部」があった。文化祭では、詩を組んで展示していた。英文、和文タイプライターの体験もあり、時間内に決められた文字数を打つ競技会(イベント)も行われていた。



『自画像』(1973年)は、B6判、40ページの冊子であるが、これもタイプ孔版による印刷である。『文化祭パンフレット』と同じく高校前の印刷屋さんにお願いした。

文・今田欣一
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櫻井印刷所活版工場見学記

2019年09月21日 | Type&Typography
川越にある櫻井印刷所の活版工場に無造作に置かれていた錦精社の活字書体見本帳。多彩な書体が掲載されている。





岩田母型の常用漢字表。




2019年1月26日に櫻井印刷所が約30年ぶりに活版印刷工場を復活させた。typeKIDSでも、4月6日、休日にもかかわらず、その活版印刷工場を見学させていただくことになった。工場の外観は、ほしおさなえさんの小説『活版印刷三日月堂』に出てくる印刷所「三日月堂」を思わせる懐かしさあふれる佇まいだ。
櫻井印刷所の松崎さんに案内していただきながら、活字を中心に見学させてもらった。櫻井理恵社長も駆けつけてくれた。



活字。これでも往時の半分ぐらいだとか。どういう活字書体があって、どういうタイプサイズがあって、どういう字種で揃えられているのか、伺った時点では詳しいことはわからなかった。
だが、活字メーカーで多彩な活字書体が用意されていても、小さな活版印刷工場では、活字を置くスペースも限られており、活字を購入する費用もかかるので、当面の仕事に必要なだけの活字書体、タイプサイズ、字種に限定されることは容易に想像できる。

木製の植字台には、罫線の種類もたくさん置かれていた。活字は文選・植字をして、印刷されることで、役割を果たすことになる。



SWAN75という全自動の印刷機。半自動の手フートもあった。他にも、込物選別機や樹脂板を作る機械、罫線を必要に応じて切る機械も。いろいろ興味をそそられる。

櫻井印刷所では、名刺やハガキの受注をはじめている。

文・今田欣一

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謄写版印刷のこと

2019年09月15日 | Type&Typography
櫻井印刷所活版工場には一台の謄写版印刷機があった。
……
印刷の4大方式とは、凸版、凹版、平版、孔版である。孔版印刷の一種に謄写版印刷がある。
謄写版印刷は、蝋引きの原紙に孔(あな)をあけ、そこから印刷インキを滲み出させて印刷するという仕組みだ。文章の場合には文字が孔になるのだが、鉄筆で蝋を削り取る方法(ガリ版ともいう)、和文タイプライターで打ち込む方法がある。謄写ファックス、プリントゴッコなども謄写版印刷の仲間である。
ここで取り上げるのは鉄筆法である。タイプライター法であればタイポグラフィといえるが、鉄筆法はタイポグラフィではない。レタリングである。それでも、タイポグラフィとの関係を考えるために、ここで取り上げることにした。



筆者の手元には謄写版印刷による一冊の本がある。『戯曲 分水嶺』(諸井條次著、劇生活社、1953年)だ。劇生活文庫第3集とあるので、文庫シリーズの中の一冊として出版されたようだ。





ガリ版印刷は、1970年代まで活字版印刷の代用として学校でも広く用いられていた。教師が作るテストはたいていガリ版印刷だったし、文集など児童・生徒によるものもガリ版印刷だった。演劇、映画、テレビの台本も鉄筆法による謄写版印刷だった。

筆者も自分用に阪田商会製の謄写版印刷機を購入した。同人雑誌のようなものを作りたかったのである。



さらに文部省認定社会通信教育「近代孔版技術講座」基礎科を受講した。この講座で孔版文字の書き方を習ったのだ。楷書体、ゴシック体、宋朝体などがあるが、書字というよりは活字書体を真似たものだった。活字版印刷の代用なのである。



ガリ版に使う鉄筆にもいろいろ種類がある。文字用のほか、罫線用(歯車のようなものもある)・絵画用などがある。文字用でも、書体によって使い分けるようになっている。



原紙をのせるヤスリ(鑢)も書体によって使い分ける。楷書体には斜目ヤスリ、ゴシック体には方眼ヤスリを使う。宋朝体には(持っていなかったが)宋朝ヤスリというのもあったらしい。



活字のように描く——謄写版印刷はあくまで活字版印刷の代用だった。代用ではあったが、改めて見直してみると、そこから生み出された孔版文字には独特の味わいも醸し出されているように思える。

文・今田欣一

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