つつじの書・・

霧島つつじが好きです。
のんびりと過ごしています。
日々の暮らしを、少しずつ書いています。

エッセイ 火鉢

2021-12-29 16:19:04 | 楽しい仲間
                       先生の講評…朴訥な若者と民具との出会い。
                                                  そういう美を愛する筆者の気持ちが、ひたすら具体描写に浮かび上がる。
                                                  一つの文体がある。


                      エッセイ 火鉢 課題【光・風・空気・水】 2016.3.11

            十年程前、駅前の空き地で地方の物産展があった。
            瀬戸物や民具などの小物の前には人だかりがあったが、家具を売っている所は閑散としていた。
            何となく、見ていたら、朴訥そうな若い青年と目が合った。
            黙っているので、私も並べられた家具を見て回った。
            合成材にはない、銘木の、木目のしっかりした造りに心が惹かれた。

            小さな抽斗が沢山並んだ隅に、木製の四角い火鉢が目についた。
            欅の木目がきれいに出て、漆も立派だったが我が家には向きそうにもなかった。

            一回りした後、もう一度見に行った。
            先程の青年がニコッと笑い、産地の事などをゆっくりと話した。
            火鉢を買うなど思ってもいなかったのに、赤々と炭火が熾り、鉄瓶から湯気が出ている風景が見えた。
            「お餅を焼く」、「干物を焙って」、「焼き芋ができる」と想像が膨らむ。

            青年は、鉄瓶と火箸、コテを付けてくれると言う。
            炭は燃料店で買えたが、灰が売っていないので困った。
            結局実家の弟に宅配便で送って貰った。
            茶道の先生をしている友人に灰の話をしたら、火鉢の底に皿を埋めた方がいいと言う。
            如何してかは聞かなかったが、火を使う、何か作法がありそうで面白かった。
 
            おまけの鉄瓶は、夜、水を捨てて乾かさないと茶色の錆が出る。
            次の年、錆び止めをした新しい鉄瓶を買った。

            今、火鉢は小さな座敷に置かれている。
            干物は何度か焙ったが、煙が出るからあまりしない。
            お餅は網焼きだと焦がすのでホットプレートを使う。

            赤々と熾る炭火の匂い、鉄瓶からはかすかな音をたてて湯気があがる。
            灰に埋めたジャガイモが焼ける。
            冬の暮らしに澄んだ空気が流れる。


コメント
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