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K・Nの悲劇(高野和明/講談社文庫)

2006-07-12 23:43:26 | 
『13階段』『グレイヴディッガー』の高野和明第三作。
上記2作もまったく違った作品だが、この『K・Nの悲劇』もまたまったく違う趣。

夏樹果波は編集プロダクションの事務の仕事をしていてフリーのライター修平と知り合いお互いに若くて貧乏な状況ながら結婚してつつましい生活を送っていた。
ところが二年後、修平の書いた本がベストセラーとなり二人は高級マンションを購入して引っ越すこととなった。
一見前途洋々に見えるふたりだったがそんなに生活に余裕があるわけではなかった。
修平の印税もマンションの頭金程度、これから夫婦共働きでがんばらねばならない。
そんな矢先に果波の妊娠が発覚。
生活のことを考え相談の結果、今回は中絶しようという結論になる。
そして病院へ行ったあたりから果波の様子がおかしくなりはじめた。
突然別人のようになり、赤ん坊は絶対に産むと言い張る。
果波も「自分の中に誰かがいる」と怯えて言いはじめる。
修平は病院の紹介で休職中の精神科医、磯貝に会いに行く。
磯貝は不妊でノイローゼになっていた患者に目の前で飛び降り自殺を図られたショックから休職していたが、果波の症状を聞いて協力してくれることになった。
磯貝の解離性の憑依障害という診断のもとなんとか彼女の症状を治してゆこうとするのだが、元々珍しい病気である上に彼女の現実離れした症状に夫の修平はだんだん精神病ではなく本当に死人が憑依していると疑い始める。
憑依人格のあまりにもはっきりとした人格成形、憑依人格のときに変わる体臭、それに果波の知らないはずのことを言い当てる様子…。
果波のためにも子供は産んでなんとか育てようという決断をするが、その程度では彼女の様子は良くならない。
途中、憑依人格が中村久美と名乗ったことから手がかりが掴めるが、中村久美は三年前に妊娠8ヶ月の状態で胎盤剥離という病気で死んでいた。
修平は医学とオカルトの間で揺れ動きながらもなんとか妻を治そうと奔走する。
もうすぐやってくる久美の命日に果波の身にも何かが起こるのではないか?
「久美」が気にかけているおそらく久美のお腹の子の父親だと思われる「あの男」について修平は調べ始める。

本書にはかなり引き込まれて読みました。
精神病なのか、それとも超常現象なのか?というところが最後まで判らない状態で話は進んでいきます。
これもどきどきするところ。
そしてあまりあからさまではない場面の恐怖が上手いと思いました。
最初に謎の女がマンションに訪ねてくるシーン。
インターホンが押されて姿は結局見せないのですが
「わたしが誰だかわかる?」
と言って消えるところ。
私はこのシーンがいちばん怖かった。
あと恐怖シーンとかではないですが、磯貝のもうひとつのトラウマである過去の違法中絶手術の回想。
母の胎内から引きずり出されて呼吸のまだできない胎児が死んでゆくシーン。
これも怖いです。
ひきかえ、中村久美が単なる妄執だけの存在ではなく人格のある存在として描かれているのが逆に説得力がありました。
ホラーなんかだと貞子にしろなんにしろ、主人公たちが生い立ちを探ってゆくとそれなりに悲劇的な人生がわかってくるのですが、いまやもう妄執のみの存在で主人公たちが同情しようがどうしようがもう話の通じる存在ではありません。
まさにモンスターです。
久美はもっと、少し前まで生きていた若い女性であるのがある意味共感できる存在です。

文庫版のみかも知れませんけど表紙のムンクの『罪』がとってもイメージが合っています。


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