桜陰堂書店2

ここは「超時空要塞マクロス」(初代)の二次小説コーナーです
左、カテゴリー内の「店舗ご案内」に掲載リストがあります

(5)

2010-05-02 19:57:35 | サンセット・スーパー・ストーリー
 (どうして、いつも、こうなのかなあ)
 柿崎と別れ、エスカレーターで2階へ上がってみると、そこはランジェリー・コーナ
ー。
 (ヤバイ、ヤバイ、こんな所で又、あの三人に見付かったら何を言われるか)
 逃げるように足早で通り過ぎる輝、ようやく抜け出ると、ドラック・コーナーに立って
いた。
 (ふう、見付からずに済んだようだな、あ、そうだ、歯磨き粉、切れかかってたっけ、
歯ブラシもそろそろ替え時だし)
 立ち止まって輝は辺りを見回す、
 「えっと、歯ブラシ、歯ブラシ・・・、ん、「二人の夜に・・・」?」
 「輝!お前、何やってんだ、そんな所で」
 「あ、先輩・・・」
 フォッカーが近づいて来る、
 「一人で買物か、早瀬はどうした、一緒じゃないのか?」
 「何で、俺が少佐と・・・、歯ブラシ探してるんです。先輩こそ、一人で何やってん
ですか、クローディアさんは?」
 「ああ、あいつは今、下の食品売り場さ、どうも二人で食品売り場をウロウロする
ってのはな・・・、まあ何だ、そんな訳で、ぶらぶら時間潰してんだ」
 「やっぱり一緒なんだ、相変わらず仲いいですね」
 「ま、腐れ縁てやつよ、それより、お前、歯ブラシなら向こうだぞ・・・、ん、「二人
の夜に・・・明るい家族計画ゥ」!フッ、ふぁっはっはは、お前、とんだ所、俺に見ら
れたな」
 「え!「明るい家族計画」!?」
 思わず1,2歩、後ずさりする、やっと、何処に立っているのか気付く輝。
 「お前、その袋、何だ?見せてみろ」
 慌てて、輝がまたクリーニング袋を抱きかかえた。
 「いや、これは」
 「チラッと見たんだが、それ、オペレーターの制服だろ、それも女物の」
 「何でもないです!」
 フォッカーがニヤニヤしてる、
 「随分と計画的だな、お前も大人になったって事か、家族計画に歯ブラシ、見直
したぜ」
 「誤解ですよ!先輩!!偶々、歯ブラシ探してる時に先輩に声を掛けられたん
です、この制服だって少佐に頼まれただけです」
 「なあ輝、これから長いんだ、こんな小箱より、こっちの大箱の方がずっと得だぞ、
いきなり腹膨らませたって、詰まらんぞ、こっちにしとけ」
 棚から徳用箱を取り出すと、フォッカーが輝の目の前に差し出した。
 「違いますって、怒りますよ先輩!それより、歯ブラシは何処に有るんですか、教
えて下さい」
 「ああ、歯ブラシね、あっちの棚だ」
 「ありがとうございます、先輩、じゃ、これで!」
 あたふたと立ち去る輝、その足が急に止まり振り返る、
 「先輩!先輩こそ、そんなもん、いい加減にやめて、別の家族計画立てた方がい
いんじゃないですか、そろそろ観念しないとクローディアさんが泣きますよ」
 「ば、馬鹿!そんな事、でっかい声で言う奴があるか」
 うろたえるフォッカーを尻目に輝が角を曲がっていく。
 フォッカーが、手で弄んでた大きな箱に目を落とす、
 「ふん、あいつも言うようになったな・・・、クローディアが泣いてるか・・・」
 手にした大箱を、フォッカーがスッと元の場所へ戻した。
 

(6)

2010-05-02 19:57:20 | サンセット・スーパー・ストーリー
 (疲れた・・・)
 ようやく、マックスの講釈から解放された未沙がエスカレーターに乗ってる。
 (輝、何処へ行っちゃったんだろ)
 そのまま、ランジェリー売り場をキョロキョロしながら歩いていくと、ピタッと視線が
止まった。
 「ま!?」
 赤や黒のどぎつい色をした極小の下着が並んでる、生地が極めて薄いものやガ
ータベルトをした下半身だけのマネキンが、これ見よがしに立ってた。
 (こういう所で、こんなの買う人いるのかしら)
 「未沙」
 「え!?」
 (嘘、また・・)
 声を聞いただけで、誰かは解ってる、
 「クローディア」
 振り返る、未沙。
 「どうしたの、未沙、疲れた顔して。お買物?」
 「え、ええ、晩ご飯のね」
 「ここ、食べるもの無いわよ」
 「久し振りに早く帰れたから、ちょっと他のも」
 すっと未沙の肩を抱くクローディア、耳元で囁く、
 「ねえ、未沙、あまり最初から、そういうのは止した方がいいわよ」
 「な、何の事」
 「やっぱり、最初はおとなしめの方がいいんじゃない、色も白が好きよ、男って。
どうしてもって言うんなら、止めやしないけど、せいぜい、ヒモくらいにしときなさい
な」
 「ヒモ!?」
 「男はね、外したり解いたりするのが好きなのよ」
 未沙がクローディアの腕を振りほどいて、正面に立つ。
 「ねぇ、何の事?おとなしめとか白とかヒモとか」
 未沙に構わず、クローディアが指をさした、
 「未沙、未沙はあんなのがいいの?あれ、倦怠期用よ」
 クローディアの指の先を目で追う、
 「ク、クローディア、貴方、何、勘違いしてるの、私はね、あんまり凄いんで、こ
んなの、ここで売れるのかなって考えてただけよ!」
 「ねえ、これなんかどう?ちょっと、清潔すぎて女高生向きかしら」
 未沙に構わず、真っ白なヒモパンを持って来るクローディア。
 「クローディア!何、考えてんのよ!!」
 「あら、私の勘、外れてるの?」
 「あなたの勘が、何だか知らないけど、私がランジェリー見てちゃいけないの?」
 「まさかァ、そんな事あるわけないじゃない。どうぞ、どうぞ、ゆっくりご覧になっ
てって下さいな、ちょっとね、あなたにしては刺激的な所に突っ立ってたもんだか
ら、そうなのかなって思っただけよ」
 それだけ言うと、クローディアが別の売り場へ歩いて行く。
 「ねえ!クローディア、あなた、変な事考えてない?全然、違うわよ、勘違いし
てるわよ!」
 未沙の声に、背を向けたまま歩いてくクローディア、笑いを堪えるのに懸命で、
その肩が少し震えているのだが、勿論、未沙に、それが解るはずは無かった。

(7)

2010-05-02 19:57:03 | サンセット・スーパー・ストーリー
 「おい、クローディア!」
 「あら、あなた」
 ランジェリ・コーナーを抜けた所で出会うフォッカーとクローディア。
 「今、そこで、輝と会ったぞ、早瀬も来てるらしいな」
 「居るわよ。たった今、別れたばかりだわ、私」
 クローディアが、買物カゴをフォッカーに渡すと、
 「ねえ、ロイ。実はね」
 「クローディア少佐!」
 思わず二人が声の方を見た、三人娘がそれぞれカゴを一杯にして、こちらに近づ
いて来る。
 「あら、貴方達も来てたの」
 「大佐、フォッカー大佐!」
 今度は、マックス夫婦と柿崎。
 「何だ、何だ、今日は。よくもまあ揃ったもんだ・・・、ちょっと、これじゃ、他のお客
さんの迷惑になる、みんな、レジを済ませて入口の横へ集合でどうだ?」
 フォッカーの提案に、皆が一斉に答える、
 「了解!!」

 その頃、輝と未沙も、やっとお互いを探し当てていた。
 「探したわよ、輝」
 「俺もさ」
 僅かの間、離れてただけなのに妙にホッとした不思議な気分。
 「マックスとクローディアに会っちゃった」
 「俺は三人組と先輩」
 「変な日だわ、ねえ、私達、食事するのバレちゃったかしら」
 「俺の方は、上手く誤魔化した積りだけど」
 「私も、大丈夫だとは思うんだけど」
 「はい、これ制服。それとそのカゴ、俺が持つよ」
 輝から制服を受け取る未沙。
 「ありがとう。いいわよ、これ位、持てるわ」
 「何言ってんだよ」
 未沙の手から、カゴをむしり取る輝。
 「あ、ありがとう」
 「もう、買うものは無いの?」
 「それが、いろいろあったから、野菜がまだなの、もう少し待ってくれる?」
 「ああ、いいよ、俺、付き合おうか?」
 並んで歩き出す二人。
 「輝、みんなが居るんなら、少し離れて歩いたほうがいいかしら?」
 「いいよ、俺が周りを見てるから、それに、また探すの大変だしね」
 「私も注意してる、誰か見かけたら、すっと離れましょう」
 「ああ」
 2階と1階を結ぶ階段の踊り場で、輝と未沙が注意深く1階の様子を探ってる。
 「大丈夫みたい」
 「ここから見える範囲には居ないな」
 「今の内ね、私、手早く済ますから」
 トントントンと未沙が急ぎ足で階段を降り出した。

 「ステーキ、2人分買ってましたよ」
 「私達、少佐の制服持ってるのを見ました」
 「僕は少佐にワイン選びました」
 「俺は、「明るい家族計画」に歯ブラシだ」
 「私、下着売り場」
 スーパーの入口脇に屯してる8人。
 「ちょっと、それって!」
 シャミーの甲高い声、
 「決まりじゃない!」
 被さるようにヴァネッサが声を上げる、フォッカーが弾けるように笑い出すと、笑
いの渦があっと云う間に拡がった。
 「しかし、何て間の悪い奴らだ」
 それだけ言うと、フォッカーが又、腹を押さえる。
 涙を拭きながらクローディア、
 「ねえ、でも、こんな所、見られたら、纏まる話も纏まらなくなるわよ」
 こみ上げる笑いを、フォッカーは必死に抑え付けて相槌を打つ、
 「確かにクローディアの言うとおりだな、せっかくの細い糸が切れちまうか」
 皆が、それぞれ顔を見交わす。
 フォッカーが続けた、
 「俺は輝とは長い付き合いだ、アイツの事なら大概の事は解る・・・。だからな・・
・、まァ、今日のは多分、殆ど誤解だ、とことん間の悪い厄日ってやつさ。アイツに
そんなシャレたマネが出来るはずがねえ」
 「でも、状況証拠は真っ黒じゃないっすか」
 柿崎がまぜっ返す。
 「だから、間が悪いってんだよ。なあ、お前達なら、もっと堂々としてるだろ、違う
か?ま、俺が見たとこ、今日のは、せいぜい「一緒に飯でも食おうや」って所さ、
それをコソコソするからロクでもない事になる。クローディア、お前は早瀬の事、良
く知ってるから聞くが、どう思う、今日の事」
 ちょっと考えてから、クローディアが答える、
 「そうね、ロイの言う通りかも、でも、あの二人・・・、そろそろ、何とかしなくちゃ」
 「そうだな、そろそろカタを付けさせないとな、お前達も迷惑だろ」
 「私が一番の被害者です!大佐、何か、いいお考え有りませんか」
 口を尖がらせるヴァネッサ。
 「こいつばかりはな・・・、本当に手間の掛かる奴らだぜ。だが、まあ何とか、俺
とクローディアでやってみるか・・・、その為には、お前達、悪いが素早く解散して
くれるか?大勢居るとな、むこうも、きっと頑なになる」
 「大佐、宜しくお願いします」
 マックスが進み出ると、ミリアも合わせる、
 「私は、あの二人を見てるとイライラするのだ、私からも、お願いする」
 「解った。まったく、お前達の素早さを見習って欲しいもんだぜ・・・、さあ、みん
な、解散してくれ、ぐずぐずしてると、これからもアイツらの喧嘩を見続ける事にな
るぞ」
 マックス、ミリア、柿崎、ヴァネッサ、キム、シャミー全員が姿勢を正す、
 「了解しました!では、おまかせします!!」
 敬礼を済ますと、6人が蜘蛛の子を散らすように、あたふたと散って行った。

(8)

2010-05-02 16:52:25 | サンセット・スーパー・ストーリー
 そわそわ落ち着かずレジを済ます輝と未沙。
 「みんな、帰ったのかしら」
 「うん、でも、油断は出来ない」
 輝が未沙の手を取った。
 「一刻も早く、ここを出よう」
 「そ、そうね」
 未沙を引っ張るようにして輝が歩き出す、握られた手に力を込める未沙、輝がそ
の手を又、強く握り返す。
 次第に足早になっていく二人、最後は駆けるようにして表へ飛び出した。
 「おい!輝」
 二人の足がピタッと止まる、万事休す。
 「先輩・・・」 
 「クローディア」
 「未沙、私達の分のステーキ、忘れてるわよ」
 「・・・」
 諦めたように、二人がフォッカーとクローディアの元へ近づく。
 「今日は散々だったな、折角、二人で食事しようってのに」
 「誤解です、私達、別に一緒に食事なんて」
 「そうですよ、先輩、僕達、偶々」
 それでも、最後の抵抗を試みる未沙と輝。
 「おい、ネタは上がってるんだ、二人分の肉にワイン、家族計画に歯ブラシ、新
しい下着、それにな、このシャミーからの預かり物」
 ティッシュ・ボックスを輝に放り投げながら、フォッカーが止めを刺す、
 「いい加減に観念しろ!」  
 「そうよ、すべてマルっとお見通しよ、二人共」
 クローディアも笑いながらダメを押す。
 輝が、少し憤然となる、
 「どうして、そんな変な誤解をするんです。今日は、どう言う訳か、みんなとおか
しな所でばかり出くわして・・・、そりゃ、そうやって並べれば変かもしれませんが、
全部、誤解です!俺も少佐も」
 「馬鹿野郎!!」
 フォッカーのカミナリが落ちた。
 「輝!お前、いつから、そんな誤魔化しをするような男になったんだ、コソコソす
るな!一人前の男だろ、お前」
 「・・・」
 「お前達が偶々、そこいらで会って「飯でも喰おう」って話になったくらい、こっち
は解ってんだよ、お前らの事だ、どうせ、それ以上でも、それ以下でもないんだろ
う、どうして隠す、何でコソコソする」
 「そ、それは」
 「貴方達が特別に仲がいいなんて、みんな知ってる事よ」
 「クローディア、私は別に」
 「未沙!あなた、もっと自分の心に素直になりなさい、今晩、一緒に食事をする
のがマックス君達や柿崎君でも良かったの?一条君と一緒に食べたかったんで
しょ、その気持ちに素直になりなさいよ」
 「輝!お前もだ。ちっちゃな子供が女の子へ突っ掛かるようなマネをいつまでし
てんだ、見っともないぞ!お前だって、今晩、早瀬と食事が出来て嬉しいんだろ、
どうだ、ちゃんと素直に言ってみろ」
 「・・それは、勿論」
 「なら、何で、その気持ちに素直にならない、何か都合の悪い事でもあるのか、
ないんなら、もっと堂々としてろ」
 「でも・・・、みんな、冷やかすから、未沙が可哀そうで」
 フォッカーが呆れる、
 「お前、何、勘違いしてんだ。そんなの始めの内だけだ、税金だと思ってろ、自
分に度胸のないのを他人のセイにするな、お前がしっかりしないから早瀬が可哀
そうなんじゃないか、話が逆だ」
 「・・・」
 「大佐、輝をそんなに責めないで下さい・・・。言い合いだって私がいつも、命令
調になるから」
 「未沙は悪くないです、俺が、いつも口答えするから」
 束の間、沈黙が流れる。
 突然、フォッカーの笑い声が響く、
 「ばァははははっ、お前らがな、それで遊んでるなんて、今じゃ、軍の常識だよ!
ヴァネッサが零してたぞ、「愛のささやき」は他所でやってくれって」
 「ヴァネッサが」
 「早瀬、ヴァネッサを怒るなよ、半分は冗談なんだからな」
 「そ、それは解ってます・・・」
 クローディアが優しく声を掛ける、
 「さあ、二人共、もういいから早く行きなさいな、ロイの説教なんか、いつまでも
聞いてると、美味しい食事が台無しになるわよ」
 「ああ、クローディアの言う通りだ、俺達に構わず、さっさと行け」
 「先輩・・・」
 「クローディア」
 「さあ、行った行った!敬礼なんぞ忘れちまえ」
 輝と未沙がクルッと向きを変え歩き出した。
 クローディアが叫ぶ、
 「二人共、腕くらい組みなさいよ!」
 背中を向けながら輝が軽く腕を上げると、未沙の手がそっと絡まる。
 「輝!お前の言ったとおり、俺もな、クローディアを泣かさんように考えてみるぜ」
 フォッカーの声に不審顔になるクローディア、
 「何の事?私が泣くって」
 「いいや、別に・・・ま、こういう事さ」
 いきなりクローディアを抱き締め、フォッカーが唇を重ねた。

 キキキキキィー!!突然、急ブレーキの音がして、車のドアが開く。
 ♪~二人の仲は永遠だもの ジューク・ボックス鳴り続けてる だから彼氏に
   伝えて口づけだけを待っている~♪
 カーステレオの大きな音と共に男が降りてくる、
 「早瀬君、一条君、いい所で会った、どうだね、今晩、一緒に食事をせんかね、い
つも一人じゃ侘しいんでな」
 立ち竦む輝と未沙を通り過ぎ、グローバル総司令のいつもの声が夕暮れの街角
に美しくエコーしていった。

                                          (終)


(エンディング、別バージョン有り)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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 「早瀬君、一条君、いい所で会った、どうだね、今晩、一緒に食事をせんかね、い
つも一人じゃ侘しいんでな」
 グローバル総司令の声に立ち竦む輝と未沙。
 「総司令、早瀬と一条は今晩、特別な任務が有りますので、宜しかったら私共が
ご相伴に預かりたいと思いますが、いけませんか?」
 駆け寄ったフォッカーが総司令の肩を抱くようにして言う。
 「何だね、君たちも居たのか」
 「居たのかって、総司令、それは、いささか失礼ではございませんこと」
 クローディアがズンと総司令の前に立ちはだかった、フォッカーが頻りに手を振っ
て二人に立ち去るようにサインを送ってる。
 「失、失礼します!!」
 逃げるように去って行く二人。
 「う、うん、そりゃ、まあ、構わんのだが・・・」
 渋々答えるグローバル、その声がまるで聞こえないかのように、フォッカーとクロ
ーディアが輝と未沙に大きく声を掛けた。
 「頑張れよ!」
 「我慢するのよ!」
 「何だね、その「我慢する」と云うのは」
 グローバルの声にフォッカーがすかさず答える、
 「それはですね、折角の総司令のご馳走を食べられないんで「我慢しろ」って事
ですよ、さあさあ、総司令、早く車に乗って下さい、僕達も乗りますから。あ、総司
令、出来れば、帰りも車を出して頂くと、非常に有り難いのですが・・・」

 輝と腕を組みながら歩く未沙。
 「何なのかしら「頑張れよ」って、私の料理の腕の事かしら、輝に「我慢しろ」って、
クローディア、いつも美味しいって言いながら食べてるのに、失礼しちゃうわ」
 「大丈夫だよ、未沙。俺、君の作るものなら、何だって平気さ」
 「輝、それ、酷い言い方よ」
 「ゴメン」
 キャンドル・ライトのような街灯に包まれ、肩を寄せ合う二人が静かに街角を曲が
って行った。


                                            (終)

                                        H.22.5.2


 ※♪ 桑田佳祐 作詞・作曲 1983年 歌 高田みづえ/原 由子


 

HOLIDAY   

2009-07-04 21:25:48 | HOLIDAY
「冒険者たち」
ロベール・アンリコetフランソワ・ド・ルーべ
作品と監督、音楽家に感謝を込めて。

僕達の世代の男は、皆、レティシアが眩しかった。
そして、ローランとマヌーの男の友情に憧れていた。

                          桜陰堂

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  (1)

 晴れた空の下、長い髪をなびかせて、未沙がジープを走らせている。
 初夏のマクロスシティ、郊外へ向かう長い直線道路を、未沙の運転するジ
ープが140kmの猛スピードで突っ走ってる。
 行先は遠くに見える黒い森の向こう、スワン飛行場。
 (まったく・・・、飛行機の事になると、まるで子供なんだから、輝は)
 そんな事を思いながらも、未沙の顔は微笑んでいる。
 隣の助手席には、輝の代わりに二人分の昼食と飲み物が入ったバスケット。
 遥か彼方の森まで続く緑の平原を、カーキ色のジープが只一台駆けて行く。

 「輝、どうしたの・・・」
 ベッドを出る気配を感じて、未沙が目を開けた。
 「うん、ちょっとね・・・、俺、先に行っててもいいかな」
 「先って、今、何時?」
 「5時を回ったところ」
 「ねえ、輝、私も少し早く起きるから・・・一緒に行きましょ」
 「未沙はゆっくり寝てて、お弁当作って予定通りでいいから。未沙を乗っける
前に、ちゃんと自分で整備したいんだ」
 「私、どうやって行くのよ、車、一台しか借りてないのよ」
 「俺、自転車で行くから」
 「スワンまで30キロ以上有るわ」
 「平気だよ、30キロなんて」
 そう言うと、輝は未沙を置いて、そそくさと部屋を出て行った。

 彼方の黒い森の上を、小さな飛行機が飛び越えて来た。
 飛行機はそのまま地上近くまで降下すると、一直線に未沙の車へ向かって
来る。
 まるで絵本の中に出てくるような、古めかしい銀色の複葉機。
 未沙がクスッと笑った。

 「今日さ、訓練飛行の帰りに複葉機、見かけたんだ」
 勤務から帰ってきた輝が、開口一番、未沙へ言った、
 「複葉機?今時、そんなの有るの?」
 「俺も吃驚してさ、帰ってから調べたんだ」
 「それで、遅かったのね、輝」
 「スワンに有る教習所の持ち物だった、教習所の所長が練習用にって趣味
で作ったんだって」
 「まあ、電話までしたの?」
 「ああ、ちょっと懐かしくてね」
 「呆れた!」
 あれから一ヶ月。
 輝が所長と掛け合い、一日だけ借りられる事になった。
 「ピクニックがてら、お弁当持って二人で空を飛ぼうよ」
 「未沙の操縦訓練にもなるしさ、もう、随分、操縦桿握ってないだろ」
 「何とか晴れてくれないかな、二人でノンビリ空を飛ぶなんて、初めてだよ
ね」
 この所、ずっと輝は子供のようにはしゃいでいる。
 楽しそうにしてる輝を見て、未沙は嬉しくもあり、呆れもしながら、少しだけ
淋しい気もしてる。
 「私より、飛行機なの・・・?」

 ブォーン!!
 未沙のジープのすぐ横を、輝の複葉機が超低空で飛び抜けて行く。
 機首を上げ、宙返りをするように高度を上げるとクルッと半捻りして、今度は
未沙の車を追い駆ける。
 疾走する未沙のジープの後ろへ、輝が近付いてくる。
 少しスピードを緩めながら、振り返る未沙。
 操縦席には、いつもと違う皮ジャンと飛行帽を被り、白いマフラーとゴーグル
を着けた輝が、こちらへ向かって手を振っていた、口元が笑っている。
 未沙も笑いながら、手を振り返す。
 軽く敬礼しながら、輝が未沙の横をすり抜けて行く。
 その輝に、未沙は可笑しそうに敬礼を返した。
 じゃれ合うように輝の複葉機と未沙のジープが、緑の平原を駆けている。
 未沙の右を、次には左を、未沙の上を跳び越えて行く複葉機の車輪は、未
沙が立ち上がれば手が届く程だった。
 再び、未沙の左傍を飛び抜ける時、輝は一杯まで速度を落としながら大声
で叫んだ、
 「飛行場で待ってる!!」
 勿論、聞こえはしないが、未沙には「待ってる」という口の動きが解った。
 大きく頷く、未沙。
 それを見ると、複葉機は高度を上げ、森の向こうへ遠去かって行く。
 未沙の目の前には、いつの間にか大きな森が迫っていた。

 「また、危ない事を」
 「脇見運転だって、危ないと思うよ」
 「誰がさせたの?」
 何も言わず、輝が笑う。
 そんな輝に、バスケットを差し出す未沙。
 「はい、お弁当」
 「ありがとう」
 バスケットを受け取ると、輝は未沙の腕を取り、滑走路脇の駐機場へ引っ張
って行く。
 そこには、つい先っきまで空を駆けていた証のように、熱気を含んだ二枚羽
根の複葉機が腰を下ろしていた。
 「本物、初めて見たわ」
 未沙が思わず呟く、
 「ここの人達が総出で作ったんだって、心がこもってるのかな、すごく素直で
癖の無い飛行機だよ」
 「輝、昔、こういうのに乗ってたんだ」 
 「俺が初めて乗った飛行機さ、オヤジや先輩に乗せられて、これで操縦を覚
えたんだ」
 「ふふ、目に浮ぶわ、子供の頃の輝が・・・、あ、ゴメン、辛い事、思い出させ
て」
 「今じゃ、みんな、掛け替えのない思い出だよ、未沙」
 そっと、未沙が翼に触れる、
 「バルキリーに較べて、柔らかい感じがする」
 「そうだろ、やっぱ、飛行機はこうでなくちゃ。さ、早く未沙も着替えて、二人
でこれを飛ばそう」
 再び、輝が未沙の手を引くと、小さな飛行場の小さな建物へ向かって歩き出
した。

(2)

2009-07-04 21:24:36 | HOLIDAY
 未沙の着替えを待つ間、再び飛行機へ戻りチェックに余念のない輝。
 そんな輝の前に、未沙はヘルメットを持ち、軍のパイロット・スーツを着て
現れた。
 直ぐに輝は、操縦席のドアを開け、用意の物を引っ張り出す、
 「そのヘルメットは止めよう、こっちの飛行帽を被って、この方が楽だよ」
 「でも」
 「あのさ、未沙、今日はデートなんだよ、軍のメットにパイロット・スーツじ
ゃ、仕事みたいじゃないか」
 輝が笑う。
 「あ、ゴ、ゴメン。これなら汚れてもいいと思って・・・」
 「ふふ、未沙らしいけどね・・・、それから、昔の飛行機は風防が無いか
ら、これを着て、このマフラーも」
 そう言いながら、輝は未沙の後ろに回り茶色のジャンバーを着せ掛ける、
袖が通ると前に回り、ファスナーを引き上げた。
 「似合うよ、未沙・・・、上だけはね」
 少し可笑しそうに言うと、ライトベージュのマフラーを未沙の首に巻き付
ける。
 「お~い、一条大尉!」
 駐在所のような小さな建物から、小太りの所長が走って来る、息を切ら
しながら二人の前まで来ると、
 「気の早い人達だな、まったく。上に上がる前に、みんなでお茶でも飲も
うと思って、用意してたんですよ」
 「す、すいません、何か、これ見てると、離れられなくなっちゃって」
 「これは、あなた達の貸切、どこへも逃げないんだから、奥さんだって、
着いて直ぐじゃ可哀そうってもんですよ」
 「それも、そうかな」
 未沙を見ると、彼女が笑った。
 三人がちっちゃな管制所へ歩き出す、所長が未沙へ声を掛けた、
 「少佐って聞いてたんで、どんな、怖い人かと思ってました」
 「私、怖く見えます?」
 「全然!みんなで驚いていたんですよ」
 「あのう、本当は怖いんですよ、こう見えて」
 輝が、混ぜ返す。
 すかさず、未沙の肘打ちが見舞われた。
 「イテテッ、ほらね!」
 所長が笑い出す、
 「大尉、そう云うのは世間じゃ、「じゃれてる」って言うんですよ」
 「・・・所長、今日はプライベートなんだから、その階級で呼ぶの止めて下
さいよ」
 「あ・・、そうでした、野暮はいかんですね、失礼しました。でも、一条さん、
朝の6時過ぎに叩き起こされたんですから、これで、オアイコですよ」
 「えっ、輝が叩き起こしたんですか・・・、済いません、この人、飛行機の
事になると子供みたいで」
 思わず、未沙が申し訳なさそうになる、
 「いいんですよ、起きようと思ってた所なんですから。私も、三度の飯より
飛行機いじってる方が、好きな性分ですから、こんなに、飛行機が好きな
人と知り合えて嬉しいですよ」
 「そんな事言って頂いて・・・本当に済いませんでした」
 「気にしない、気にしない。奥さん、それより上がる前に、お二人の写真
を撮りましょう、今日の記念に」
 「所長、その時は、ここから上で撮って下さいよ」
 輝の手が、未沙の腰の辺りを行き来する。
 二度目の肘打ちが、輝の脇腹に喰い込んだ。
 「痛いってば!」
 「あはは、本当に仲がいいんですね、お二人は。これからも、ちょくちょく
遊びに来て下さいよ、待ってますから」
 所長が、にこやかに事務室のドアを開け、二人を招き入れた。


 

(3)

2009-07-04 21:24:23 | HOLIDAY
 僅かな風除けを乗り越えて、六月の風が未沙の頬に吹き付ける。
 二人を乗せた銀色の複葉機が、滑走路を加速していた。
 未沙にとって、それは初めての経験だった。軍の訓練で使用した飛行機は、
当然の事ながらフルカバーの風防が付いている、外気を直に感じる事は無い。
 輝が操縦桿を引くと、フワッと身体が浮いた。
 風を感じながら昇って行く青空を見ていると、未沙は鳥にでもなったような気が
した。
 「どう、気分は?」
 「素敵!」
 「良かった」
 マイクを通して、輝の声が聞こえる。
 大きく旋回しながら、どんどん高度を上げていく二枚翼の飛行機。
 ひっそりと佇む滑走路、黒く拡がる針葉樹林、その先には所々、荒地を見せな
がら緑の大地が続き、流れる川面がキラキラ光っている、遠くには小さくマクロス
シティが見えた。
 高度800mまで上がると水平飛行に変わった。
 「イースト・ピークの方へ行ってみようか、森や湖が有って綺麗なんだ」
 「おまかせするわ」
 未沙が、マイクを手に取って答える。
 輝は機首を東へ向けた。

 眼下には、深い緑と所々に水面を光らせている池や湖が見える。
 やがて二人は、湖沼地帯へやって来た。
 すぐ傍には荒々しい岩肌を見せ、白い雪を載せた山々が屹立している。
 「本当に綺麗ね、この辺り・・・、こんなに自然が戻ってる」
 「いつか、未沙を連れて来たかったんだ」
 輝がグッと操縦桿を引きながらスロットルを上げた、
 「きゃっ!」
 たちまち景色が逆さまになる。
 大きく弧を描きながら、機体が宙返りをした。
 「輝!驚かさないでよ」
 未沙が後ろを振り返りながら、マイクに叫ぶ、
 「ははは、驚いた?、ちょっと悪戯・・・、ほら、もう一度いくよ!」
 再び、風景が引っくり返る、森が頭の上に、足元に青空が拡がる。
 マフラーを靡かせながら、マイクを握り合う輝と未沙、
 「怖い?」
 「残念でした、平気ですよ。私だって操縦出来るんだから」
 「久し振りに、操縦してみる?」
 「いいの?」
 「勿論!・・・未沙、操縦、そちらへ渡すよ」
 「じゃあ」
 未沙が操縦桿を握る、手に軽い重みを感じる、久し振りの感触だった。
 「未沙、ちょっと右へ旋回してみて!」
 ペダルを踏み、バランスを取りながら操縦桿を右に倒す、機体が傾き、機首が
回り出す。
 「スロットルを、もう少し上げて!」
 未沙の手が、スロットルを少し押し上げる、
 「はい、戻して!」
 「次は、左旋回!」
 「未沙、ペダルの踏み込みが甘いよ、機体が揺れてる」
 「レバーもスロットルも、もう少し優しく動かして!少し乱暴だよ」
 「はい、今度は宙返り!」
 「そんな一遍に引っ張らない!もっと優しく!!」
 宙返りを終えると、未沙はマイクを取った、
 「ねえ、輝、私、教習に来たんじゃないのよ!デートでしょ、そんなに文句言う
んなら、輝が操縦しなさいよ」
 「ゴメン!未沙。つい、いつもの癖で・・・」
 「おとなしく、私の操縦に任せる?」
 「どうぞ、どうぞ!俺だってノンビリ飛んでみたいんだから」
 「私の操縦じゃ、ノンビリ出来ないんでしょ?」
 「そんな事ないさ、覚悟は出来てる」
 「言ったわね、輝!」
 操縦桿を押し下げ、急降下する機体。
 銀色の複葉機が、陽を受けて輝く湖面の上を滑るように駆けて行った。

 やがて、再び操縦桿を握った輝が、未沙を真っ白な雪に覆われた山へ連れて
行く。
 尾根を飛び越え、向きを変えると、大きく拡がる白い雪渓をスレスレに駆け下り
て行く。遥か前方の地上には、もうすぐ夏を迎える緑の大地が、何処までも続い
ていた。

(4)

2009-07-04 21:23:35 | HOLIDAY
 「午後は、海の方へ行ってみようか、未沙」
 広げたシートの上で、バケットをかじりながら輝が聞く、
 「いいわね、もう何年も、ゆっくりと海を見た事なんてないから」
 コーンスープをカップに注ぎながら、未沙が答える。
 教習所のスタッフ達が「一緒に」と言うのを、「天気がいいから」と言い訳
しながら、バスケットをぶら下げ近くの草地へ来た二人。
 何機もの飛行機が見える場所で、二人は昼食を摂り始めた。
 「ふふふ・・・」
 輝が、可笑しそうに未沙を見る。
 「何よ、その笑い方、嫌な感じ」
 「未沙って、車だけじゃないんだ、もしかして、あれが地の性格?」
 「何の事かしら?輝」
 「また、トボける・・・、だってさ、普段だって、他の車に抜かれると、必ず
抜き返すし、空へ上がればフル・スロットルでぶっ飛ばすし、おまけに、
荒っぽいしさ」
 心外そうな顔をする未沙。
 「そんな、抜き返すなんてしてないわよ、今日だって、どれ位、スピード
が出るか試しただけよ」
 「でも、荒っぽい」
 「解りました!!では、午後はお気に入るよう、お淑やかに操縦してみ
せますわ、教官殿」
 未沙が輝の前に、嫌いなサラダを山盛りにして差し出す。
 「野菜も、ちゃんと食べてね、輝!」
 「え、こんなに・・・、俺、ウサギじゃないんだよ」
 「そんな大きな兎が居るもんですか、何でもいいから、ちゃんと食べなさ
い、せっかく作ったんだから」
 時折、吹き渡る風の中、、二人の食事が進む。
 コーヒーを飲み終わると、輝がゴロッと寝転んだ。
 未沙もバスケットに片付けを終えると、輝の隣で横になる。
 輝の腕が伸び、未沙を抱き寄せた。
 輝の腕枕で、二人は白い雲が浮ぶ青空を見上げる。
 直ぐに二人は、午後の気怠るい、まどろみの中へ入っていった。

 海岸線から遠く離れ、見渡す限りの蒼い海原の上を、二人の飛行機が、
のんびりと散歩している。
 高度を上げ、何処までも続く水平線を眺めると、今度は降下して海面直
近を飛んで行く。
 「潮の香りがする、懐かしいわ・・・」
 「寒くない?」
 「大丈夫よ。ほら、あれ見て!カモメが飛んでる」
 子供のように、指をさす未沙。
 少し傾き出した陽射しの中、銀色の飛行機がカモメ達を追い越した。
 「驚かしちゃったかな」
 「可哀そうよ、輝」
 二人で交互に操縦を代わりながら、複葉機は飛び続ける。
 やがて、海岸線へ戻って来ると、今度は、低空で海岸線に沿いながら飛
んで行く。砂浜を駆け抜け、断崖を飛び越え、再び、どこまでも続く砂浜を、
波打ち際を飛び抜けて行った。
 「誰もいないわね」
 「うん、ここは、街から随分離れてるからね」
 「何処まで行っても、私達だけなんて・・・ちょっと、淋しい気もする」
 「俺が居ても?」
 「ふふ・・・何を言わせたいの?」
 「さあ、何かな?」
 エンジンの音が大きくなり、あっという間に高度が上がる。
 二人を乗せた銀色の機体が、東へ向きを変え、ゆっくりと遠去かって行っ
た。


 夕陽を一杯に受けた平原の中、マクロスシティへ向かう一本道を、輝達の
ジープが戻って行く。
 「何も、未沙まで整備を手伝う事ないのに、俺一人で良かったのに」
 輝が、助手席の未沙を見た、
 「二人でやった方が早く終わるでしょ、一日、お世話になったんだから、私
だって、何もしない訳にはいかないわ」
 「顔、汚れちゃったよ」
 「輝もね」
 二人が、笑い合う、
 「楽しかった?」
 「とっても・・・、今日、少しだけ輝の気持ちが解った気がする、空を飛ぶの
が、こんなに楽しいなんて、私、知らなかった」
 「本当?」
 「本当よ、鳥になって広い空を、思いっきり飛んだ気がしたわ。輝、また連
れて来てくれる?」
 「勿論さ、未沙が、そんなに気に入ってくれるなんて・・・、良かった」
 「こちらこそ、素敵な一日だったわ、ありがとう」
 未沙の手が、シフトレバーに置かれた輝の手に重なった。
 「でも、流石ね、輝」
 「何が?」
 「操縦。私の操縦とは、やっぱり、全然違うもの」
 「そりゃ、未沙とは年季が違うよ」
 ニヤリと輝が笑うと、未沙を見る。
 「帰ったら、今度は未沙を操縦しようかな」
 未沙の指が、輝の手を抓る、
 「直ぐ、調子に乗るんだから!」
 「ヘヘ、ゴメン!」
 輝の元へ、未沙が身体を寄せた。
 耳元へ囁く、
 「操縦の仕方、教えてあげようか?輝、いつも、いつも乱暴なんだから」
 チラッと、未沙を見る輝、
 「俺、乱暴?」
 「そう、乱暴よ。今日の私より、ずっと」
 沈みかかる夕陽の中、二人を乗せたカーキ色のジープが、突然、スピード
を上げ、勢いよく走り出した。


                                       (終)

                                H21.7.4 桜陰堂



 

     

   









(映画の中で)飛行機が出てくる、好きなシーン~あとがきに代えて~

2009-07-04 19:02:37 | HOLIDAY
 桜陰堂、実は飛行機が大の苦手でして。
 高所恐怖症だし(おかしな事に、昔、沢登りをしてた~これ、大概、途中で
幾つも滝を登っていくんですが)、ジェット・コースターも嫌いです。
 そんな桜陰堂にも、飛行機が出てくる好きなシーンは有ります。
 「トップ・ガン」みたいにカッコ良く、メカニカルなタイプではなく、恥ずかしい
けれど、叙情的なタイプのシーンです。
 まず、今回のSSのヒントになった「冒険者たち」(1967年、R・アンリコ監
督、F・D・ルーペ音楽、A・ドロン、R・バンチュラ、J・シムカス、仏映画)。
 マヌー、ローランの男二人組とレティシアが初めて顔を合わせ、お互いの
心が通い出すキッカケとなる美しいシーンです。
 SS冒頭のピンボケ写真にも有りますが、ド・ルーペの「冒険者たち」のテー
マ曲(有名な「レティシアのテーマ」とは違う)が流れる中、銀色の複葉機とレ
ッカー車が、まるで、飼い主と犬がじゃれ合うように疾走する2分位のシーン。
 多分、この映画を好きな人にとって、もう一つの超有名なシーンと合わせて、
思い出に残ってるシーンだと思います。
 1970~80年代、幾度もTVで放映され、名画座の定番でもあったこの映
画、僕達の世代から一回り上の世代まで、そこに居る映画好きの人達(男)
にとって、一種の「青春のバイブル」的な映画でした。
 男ばかりでなく、女性陣もA・ドロン目当てで見に来て、ファンになった人達
が沢山います(この村の人達は、R・バンチュラのカッコイイおじさんがウケル
かもしれない(笑))。
 映画は、今見ると、「甘い砂糖菓子」みたいな感じもしますが、やっぱり、
「青春へのレクイエム」とも言える甘酸っぱい味は、忘れられないものが有り
ます。
 僕の洋画ベスト10には、必ず入る作品です。

 そして、もう一本は「華麗なる賭け」(1968年、N・ジェイソン監督、M・ルグ
ラン音楽、S・マックイーン、F・ダナウェイ)
 持ち前の明晰な頭脳で、地位も名誉も得てしまった主人公(S・マックイーン)
が、完全犯罪(銀行強盗)に挑む。
 結局、それも成功してしまい、人生に何の目的も見出せず、大きな虚無を
抱え込む男。僅かなスリルを求めてグライダーで空を飛び回るが、先日、出
会った保険調査員(F・ダナウェイ)の印象から、漠然と敗北の予感も感じ始
めている。~ま、突然、目の前にコロンボが現れたようなもんで(笑)~
 M・ルグランの曲「風のささやき」(歌N・ハリソン)にのって、流線型のグライ
ダーが大空を当てもなく旋回している、何故だか知らないけど好きなシーンで
す、「風のささやき」って曲が大好きだからかも知れませんが。
 映画の出来もそこそこ良く、面白いと個人的には思っています、何年か前
「The Thomas Crown Affair」(「華麗なる賭け」の原題)のタイトルでリメイク
されてます。
 ただ難点は、いかんせん、S・マックイーンにインテリの役は似合わない(笑)、
濃厚なラブ・シーンも似合わない(濃厚なHシーンでは有りません)、あの70
秒間は拷問に近かったような気がします。
 P・ニューマンだったら、もっとオシャレで素敵な映画になったんじゃないかな、
それとF・ダナウェイの衣装がちょっと・・・、特に、Aラインタイプのミニスカートが
実に合わないんではないかと。

「あとがき」が随分、長くなってしまいました。
 他に「飛べ!フェニックス」なんかも書こうと思ってたのですが、長くなりすぎ
ましたので、この辺で終わりにします。
 
 SS、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

                                  H.21.7.4
                                     桜陰堂


 ※「華麗なる賭け」は、記憶だけで書いたので、幾分、間違ってるかもしれま
  せん、御容赦下さい。

 ※ようつべ「冒険者たち」予告編。上記のシーンが、ほんの僅かですけど出て
  います。
   http://www.youtube.com/watch?v=gAhipgwTyhw
 
 ※ようつべ「華麗なる賭け」、記事にしたシーンです。
   http://www.youtube.com/watch?v=fUm7SVLTIQw&feature=related

 ※「風のささやき」フルコーラスはこちら、「華麗なる賭け」のオープニング・タ
  イトルの場面です。 
   http://www.youtube.com/watch?v=tg-XaYrbX-o  






 

マクロス 序章

2009-05-04 22:33:29 | マクロス 序章
 はじめに

 今回のSSは「マクロス」BEFORE(相変わらず公式設定は無視しています)。
 なので、輝と未沙は一切絡みません、又、話は多少シリアス系です。
 予めご承知おき下さい。
 話は「進宙式」直前の、輝と未沙達の近況報告みたいなものです。
 飛行機が飛ぶシーンばかりなのですが、桜陰堂、飛行機の事は全く解りま
せん、そういうシーンは全部デタラメです、ごめんなさい。
 毎度の事ですが、長いので、お暇な時に読み継いでいって下れば幸いです。

※wik及び「ブービー・トラップ」で確認した所、「マクロス」前の輝は、エア・レ
ースの賞金で生活してる設定ですね、ならば、「アマチュアの~」は変だと思い
ます。そういう訳で、この「序章」の中では、プロの賞金稼ぎに設定しています。
(「ブービー・トラップ」での少佐の発言「アマチュアの大会で2・3度優勝したく
らいで」は、桜陰堂、聞かなかった事にしました)。


    オリジナル・キャラクター

 ジャン・マルタン フリーランスのエア・レーサー。愛機は、黒いボディにマリリ
            ン・モンローを描いた、ユーロ・ファイター。24歳。

 クルト・フォルツ フリーランスのエア・レーサー、実力、NO.1。機体はブルー
           のボディに鮫口、メッサーシュミット社のBf176。26歳。

 ロディ・フィッシャー  ロッキード社のエア・チーム、「フライング・コブラ&ロッキ
           ード」(略称 FC)に新しく加わったパイロット、機体は、シルバ
           ー・ボディにレッド・ストライプのスーパー・ロッキードP-61・カ
           スタム。22歳。

(1)

2009-05-04 22:32:59 | マクロス 序章
 ニ月半ばとは云え、南半球の夜は暖かい、いや、暑い。
 それでも、湿度が低いせいか、機体の最終チェックで吹き出た汗が、徐々
に乾いていく。ここはオーストラリア南部、アデレード郊外のエリザベート飛
行場。
 「まあ、あん時に較べれば極楽みたいなもんさ」
 正月のモスクワ、何で一月にここでレースをするのか、何度、主催者を張
り倒そうと思った事だろう、それに較べれば、少々熱くても、ここは天国みた
いなものだ。
 今日から始まった、エアレースA級第2戦「オセアニア・カップ」、いつものよ
うに輝は、愛機ファン・レーサー・カスタムの横に、テントを張って明日の決勝
ラウンドに備えていた。
 輝のような一匹狼は、巨大企業をバックに、チームを組んで転戦する連中
と違い、守ってくれる者が居ない、マークもされない一匹狼は相手にもされな
いが、何度も優勝し決勝Rの常連である輝は、企業チームにとって邪魔な存
在だ、チームの運営には莫大な金が掛かり賞金のノルマはきつい。そんな連
中が、ちょっと目を離した隙に機体に悪さをする、よく有る話だった。輝も初め
の頃、何度か煮え湯を飲まされた。

 輝が疲れた身体を寝袋に納める、先っき見上げた夜空は、雲ひとつなく空
一杯に星が瞬いていた、明日の天候は保証されたようなもんだ。
 (明日は何としても勝ちたいな)
 ここのところ優勝から遠ざかっている、2位が1回、5位が2回、6位が1回。
機体のメンテナンスを考えると、そろそろ大きな賞金が欲しい頃だ、幸いここ
の所、予選落ちは無いので幾らか運転資金に余裕は有るが、それだって勝
たなければ何時まで持つやらだった。
 (あれから、もう一年半か)
 戦争に行くパイロットや整備士が増えて人手不足になりつつあった時、親
父が死んでチームは解散、残された飛行機や資材を売った金で買った、この
ファンレーサー。空を飛べて且つ飯が食える仕事を考えた時、フォッカー先輩
が、「小遣い稼ぎだ」って言いながら出場していたエアレースを、すぐ思い浮
かべた。
 その先輩や親父に叩き込まれた技術は捨てたものでなく、半年でB級を追
い出され、規模も賞金も違うA級の世界へ来れた。大勢のお客さんの前で、
いろんな曲芸飛行をするのも楽しかったが、有りったけのスピードとテクニック
を競う、今の生活の方が、自分には合ってる気がしていた。
 「先輩、今頃どうしてるんだろう」
 昔から旅から旅の生活は慣れている、と云うより、それが普通の生活と思う
程、それしか知らない輝だが、ここ一年半はずっと独りだった、顔見知りはラ
イバル達しかいない、ジャン、クルト、周、ミハイル、輝と同じ決勝ラウンドの常
連達、中には気軽に話をする奴も居るが、昔みたいに仲間では決してない、
輝はまだ17才だった。

 ガサッ、ガサッ、ガサッ、
 誰かが、こちらへ近づいて来る、輝が慌てて寝袋のファスナーを下ろす、
 「おい、輝、まだ起きてるか?」
 外から、聞き慣れた大きな声がした、輝はそれを聞くと安心したようにテン
トから首を出す、
 「子供は寝るのが早いな」
 「ジャンさん、脅かさないで下さいよ」
 ジャンと呼ばれた男が、輝のテントを見下ろしている、
 「どうだ、調子は?」
 「悪くないですよ、いつもの通り」
 「そうか、いつもの通りか、安心したぜ、100万$は貰っとくよ」
 輝が、いかにもげんなりと云った顔で、
 「そんな事言いに夜中に来たんですか、あんただって、ここん所勝ってな
いでしょ」
 「まあ、そう尖がるなって、整備も済んで、する事無くてよ、ちょいと話でも
しようと思ったのさ。酒有るぜ、一緒に飲まんか」
 フリーランスのパイロット、ジャン・マルタン、歳は輝より7つ上で、レーサ
ー仲間では比較的仲のいい男だが、酒癖が悪いと評判の男だ。
 「僕は未成年ですよ、解ってるでしょ、それに、一晩中、あんたに絡まれた
くないですよ」
 「相変わらず、口の悪いジャパニーズ・ボーイだな」
 「クルトさんが居るじゃないですか、きっと今頃、コックピットの中ですよ」
 「いつものようにか、お前だって解ってるだろ、あいつが他人と付き合う男
かどうか」
 「まあね、でも僕だって」
 「そう言うなって、折角、淋しさを紛らせてやろうと思って来たんだぜ、星も
綺麗だしな」
 「何、柄にも無い事言ってんです、あんた、星より女の子じゃないですか、
今日は居ないんですか「俺の妹」、口ほどでもないんですね」
 「こいつ、口だけは達者だな。・・・シドニーの妹はよ、えらく勘のいい女で
な、ここじゃ、ちょいと、大人しくしてんのさ。ま、お前に言っても、女の怖さ
は解らんか」
 笑いながらジャンが言う。
 「明日、来るんですか?シドニーなら、そんなに遠くないし」
 「いや、危ないのを見るのは厭だとさ」
 「へえ、本気なんですね、その人」
 「知ったような事言うぜ!」
 ようやく観念して、輝がテントから這い出して来た。
 「まあ、ちょっと付き合いますか、ジャンさんも淋しそうだし。但し、僕は酒
飲みませんよ、熱いコーヒーでも飲んでます、二日酔いにさせようたって、そ
うはいきませんよ」

 二人は、輝のファン・レーサーから少し離れた場所に座った。
 「いいんですか、飛行機から離れて」
 輝が聞く、
 「テントの灯りは点けたまま、モンローはトラップとアラームだらけよ、ちょ
っとでもお触りしてみな、凄まじい悲鳴を上げるぜ」
 月明かりの中、二人は夜空を見上げながら、どちらからともなく話出す、相
変わらず雲ひとつない星空だ。
 「しょっちゅう、空飛んでる癖に、空にこんなに星が有るなんて、もう何年も
忘れてたよ」
 ウォッカを煽りながら、ジャンが、ポツリと言う、
 「そうですね、僕も久し振りの気がしますよ、こんなにゆっくり見るのは」
 「戦争が終わってよ、これから、やりにくくなるぜ、輝」
 「そうかも知れませんね」
 「軍を除隊した腕自慢達が、どっと押し寄せてくるぜ、もうすぐな」
 思い出したように輝が、それに答える、
 「今度、FC(フライング・コブラ)に、一人、入ったらしいですね」
 「ああ、予選じゃ出て来なかったが、明日は、そいつが出て来るんだろ」
 「ミハイルさんが予選用のパイロットか・・・あの人がねぇ」
 「ま、そんな訳で、これからは大変だぜ、俺達ぁ、予選落ちしてたら、たちま
ち飯の喰い上げだからな」
 「でも、空戦とレースじゃ違うでしょ」
 「そうかな、命を的に遣り合うってのは違うもんさ、実際・・・」
 輝が押し黙る、また、ジャンが酒を煽った。

 「僕の先輩も、ジャンさんみたいに二日酔いでレースに出てたっけ、その人
も軍に行っちゃったけど」
 輝がコーヒーをぐっと飲み干して、ジャンに話し掛ける、
 「腕は?」
 「僕の先生ですから」
 「そうか」
 ウォッカをまた煽り、ジャンは、そのまま草叢へ寝転んだ。
 つられて、輝も横になる。
 輝の目に、数え切れない星達が拡がる、明るく、暗く、みんな思い思いに・・・、
静かに瞬いていた。
 

(2)

2009-05-04 22:31:34 | マクロス 序章
 エアレース A級第2戦「オセアニア・カップ」
  優勝 1,000,000$
  2位   500,000$
  3位   250,000$
  4位   150,000$
  5位   100,000$
  6位    50,000$
 5km四方の会場で、空に向けられた巨大なレーザー・ダイオードが作る、
20の関門と3ヶ所のスピンターン、それをクリアしながら速さを競うレース。
 決勝ラウンドは、予選を勝ち上がった9機が参加。その第1R,3機ずつが
コースを6周し、勝者がファイナル・ラウンドへ進む。ファイナルRは、勝ち上が
りの、3機が同じコースを12周して勝負を決める。
 今回は、Aコース、高度500m(±50m)、Bコース、400m(±50m)、C
コース、300m(±50m)のセパレート・コースで行われる、各コースは、昨
日の予選タイムで自動的に振り分けられた。
 第1R,輝は、第2組Aコース、つまり予選2番目の成績、予選1位、第3組
Aコースは、輝と同じフリーランスで実力№1のクルト・フォルツ、飲んだくれの
ジャンは、予選4位で1組Bコース、昨日、話に出たFCのロディ・フィッシャー
は、1組Aコースだった。
 そのロディ・フィッシャー、つい先っき、召集所で初めて見た印象は、甚だ良
くなかった、歳は20才をちょっと出た位だが、翳が有って目付きが陰惨だっ
た。


 丁度その頃、日本の横浜、中華飯店「明謝楼」の二階では、15才の少女、
リン・ミンメイが母、しげよと睨み合っている。
 「ねえ、ねえ、ねえ、行ってもいいでしょ、お母さん。折角、「お出で」って言っ
てくれてるんだから、叔父さん、叔母さんにも、随分、会っていないし、ねえ、
行ってみたいわ」
 「今、とっても、お店が忙しいの、みんなで遊びに行くなんて、出来っこない
の解るでしょ、もう、高校生になるんだから」
 「じゃあ、私、一人で行く。もう高校生になるんだから、一人で行けるわ」
 「ミンメイ、娘一人で行かせられる訳ないでしょ」
 「大丈夫だってば、ほんの一週間・・・5日でいいから行かせてよ、丁度、試
験休みで、卒業式の予行演習の日まで休みなんだから」
 「ダメです!」
 それでも怯まず、尚も、ミンメイが食い下がった、
 「島みたいに大きな船が、空を飛ぶんだって、凄いわ」
 しげよは、まるで取り合わない、
 「そんなもんが落っこって来たら、危ないじゃない、ダメです。私は、もう、お
店へ行くからね。ミンメイ、貴方、高校生になるのよ、勉強が一番大事な時で
しょ、絶対、ダメですからね」
 「勉強道具、持って行くわ、だから」
 「ダメです!!」
 遂に、しげよの大声が響き渡る、
 そのままドアを開け、店へ降りて行く。
 母の足音を聞きながら、ミンメイはドアを睨みつけた。
 「絶対、行くんだから!これ位で諦めると思ったら、大間違いよ」


(3)

2009-05-04 22:31:06 | マクロス 序章
 メイン・スタンドに、スピーカーから大きな声が響いてる、
 「スタート、1分前。いよいよ第1R開始だ!では、第一組の各機を紹介
しよう、ウエイティング・ゾーンを旋回してるのは、Aコース、シルバーボデ
ィにレッドストライプ、フライング・コブラのロディ・フィッシャー、Bコース、お
馴染み、黒のボディにマリリン・モンロー、ジャン・マルタン、Cコース、グリ
ーンのボディにホワイト・ベア、ロシア・チャンピオンのセルゲイ・シャルコフ、
所属はスマイリー・ベア!さあ、各機、最後の旋回に入った、スタートまで
後、30秒!!」
 ロディ、ジャン、セルゲイの3機は、第20ゲートの赤と黒のレーザー・ポー
ルを潜りながら、右回りに旋回していたが、最後の旋回になると、今迄より
大きな弧を描きながら加速していく。
 第20ゲートからスタートラインまで3km、時速700km超として約15秒。
スタート15秒前に旋回を終わらせ、そこからフル・スロットルでストレート・ラ
インに入り、スタート・ポイントを飛び抜ける。勿論、0.01秒でも早く、スタ
ート・ポイントを通過すれば、フライング、失格になる。コックピット内のタイマ
ーを睨みながらの神経戦が、最初の勝負だ。
 バンクしていた機体が、スピードを上げながらフラットになり、上下100m
の間隔で一直線に、スタート・ポイントに向かって突っ込んで来る。
 「さあ、来たぞ、来たぞ!スタートタイムをクリアできるか?スタートまで、3、
2,1、ゼロ!!」
 キーン!!!
 ジェット機のような高音のエンジン音が、束になってスタート・ポイントを、一
瞬の内に飛び抜けて行った。
 瞬く間に、巨大なデジタルボードにブルーのランプが点く、
 「オール・ブルー!全機、スタート、クリアー!!」
 それぞれのランプサイドに、タイムが表示される、
 A Roddy  +0.96
 B Jean   +1.02
 C Sergei  +1.29
 その頃、既に3つの機体は、最初のゲートに向け、高速のまま機体を垂直
近くにバンクさせている。第1ゲートから第2ゲートは、カーレースで云うシケ
イン、最高速度から一転、急減速、急旋回しなければならない。
 各機はフル・スロットルのまま、ギリギリまで突っ込み、一転、スロットルを
一杯まで絞ると同時にコントロール・レバーを引っ張り、更に又、スロットルを
上げていく。少しでも加減を誤れば、機体はスピードに煽られ、木の葉のよう
に舞ってコントロールを失う。
 瞬間的に掛かるGの中で、如何に早く、的確に操作出来るか、パイロット達
の腕の見せ所でもあった。
 その、空のシケインを3機が抜け出る、場内から「ワァー」と大きな喚声が上
がった。一番上の、ロディの銀色の機体が、たった1回のヘアピーン・ターン
でジャンとセルゲイを20m近く引き離したのだ。
 「何て野郎だ!」
 銀色の機体を見て、ジャンが叫ぶ。
 3番手だったセルゲイは、これで完全に焦ってしまった。第3ゲートに突っ込
みすぎて大きく振り回され、ジャンの旋回ラインより10mもハミ出してしまう、
修正の効かぬまま第5ゲートに突入、又、大きく振られ、第7ゲートへ向かう
直線ラインで、ようやくコースの修正を果たしたが、既にトップとは300m、ジ
ャンからも200m以上離されていた。
 セルゲイの頭に昇った血は、結局、下がらず、その後もミスを重ね、ゴール・
ラインを越えた時には、ロディから20秒、4000mも離されてしまった。
 この事態にジャンは動じなかった、表の性格とは裏腹に、コックピットの中の
ジャンは、極めて醒めた男だった。
 最初の急旋回を頭上に見た時、ジャンはこのレースを諦めた、直ぐに頭をB
決勝狙いに切り替える、向こうのペースに嵌まらず、追っかけず、無理をする
状況でない時は、置かれた中で最善を尽くす、それがジャンの稼ぎ方だった。
 「ま、アイツが調子こいて、コースアウトしてくれりゃ、めっけもんか」
 トレードマークのM・モンローを、黒い機体に浮かび上がらせた、ジャンのユ
ーロ・ファイターが、軽快なエンジン音を響かせながら、360度の左旋回を抜け
ると、機体を180度バンクさせ、次の右旋回へ入っていった。

 第一組が終わった、圧倒的大差で、FCのロディ・フィッシャーが勝ち上がっ
た。
 「何か、とんでもない奴が来たな」
 愛機のコックピットから、レースを眺めていた輝は、口とは裏腹に身体が熱く
なるのを感じる。
 「あいつと思いっきり勝負したいな、あいつに勝てたら、フォッカー先輩にだっ
て」
 無線機に、連絡が入る、
 「こちら、管制。一条機テイク・オフ、OK!」
 「了解」
 輝は、目の前の事に、頭を切り替えた。
 「とにかく、第一Rを勝ち上がらないと、勝負は出来ませんよ」

(4)

2009-05-04 22:30:33 | マクロス 序章
 3つの機体と轟音が固まりとなって、スタート・ラインを一瞬の内に通過し
て行く。
 「オール・ブルー!」
 ランプ・サイドに、直ぐさま表示されたタイムは、
 A Ichijo   +1.05
 B Pierre   +1.01
 C Antonio +1.36
 最初のシケインから左旋回、右旋回を経て、360度の左右スピン・ター
ン、更に 宙返りと続く前半部、スピードを殺さず急旋回するのは、アクロ
バット・チームで育った輝の得意技だ。ファン・レーサーと云う機種も、スピ
ードより旋回性能を重視している。いつもの事だが、ターンで相手を引き離
し、ストレート・ラインで追い付かれる、今日の展開もそうだった。
 第14ゲートを過ぎる頃は、輝が10m以上の差を付けているのだが、長
いストレート・ラインを抜けて、メイン・スタンドへ戻って来ると、殆ど差が無く
なっていた。そんな状況のまま4周目が終わろうとしている。
 3機の際どい接戦に、満員のスタンドがヒート・アップしていく。4周目の
ゴール・ラインを3機が固まったまま飛び抜けると、スタンドから大喚声が
上がった。
 5回目のシケイン、ここでチーム・エアバスのピエールが僅かに外へ振
られた、シケインを抜けると、ピエールの青にイエロー・ストライプの機体が、
前の2機から2,30m後れる、更に、左・右のスピン・ターンを抜けた時に
は、先頭の赤と白のファン・レーサーから4、50m離された。もう1機のエ
ア・フィアット、オレンジとグリーンの機体は5m位後ろに、しっかりと喰い付
いている。
 第18ゲートを通過した時、輝は、左前方に取り付けてあるディスプレイを
見やった。
 G18 A   0.00
     B +0.24
     C +0.02 
 輝は、それを確認すると、直ぐ前方の第19ゲートの赤と白のレーザー・ポ
ールを見た。左手でスロットルを絞り、コントロール・レバーを右に倒す、機体
をバンクさせながら時速600kで旋回に入る、三分の一を過ぎた所で、スロ
ットルを再び押し上げ、機首をメイン・ストレートに向けた。
 5週目、通過タイム。
  1.Ichijo    0.00   
  2.Antonio +0.01
  3.Pierre   +0.21
 最後のシケインから、幾つかのゲートを経て、横・縦3回のスピン・ターン、
残り6、000mを切ってもアントニオとの差は0.05秒、第18ゲートから第
19ゲートへの長い直線で、ジリジリと差を詰めるられる。
 ほんの僅かの差を付けて、最終ターンに突っ込む、輝の目に、最後のスト
レート・ラインが見えて来た。
 その瞬間、輝の左手がスロットルを離れ、ブースター・スロットルを一杯に
押し込んだ。
 ズーン!!
 ロケット・ブースターを一勢に点火させたファン・レーサーが、時速1,100
kmへ一気に加速させ、ゴール・ライン目掛けて突っ込んで行く。
 僅かに、ほんの僅かに、赤と白のファン・レーサーがオレンジ色の機体を抑
えて、ゴール・ラインを突っ切った。
 「ウォー!!」
 満員のスタンドから、熱狂的な喚声が上がり、デジタル・ボードに順位が表
示される。
 1.Ichijo    0.00
 2.Antonio +0.02
 3.Pierre   +0.39
 鳴り止まない喚声の中、輝の赤と白のファン・レーサーが、エンジン音を響
かせながら、メイン・スタンドへ戻って来る。高度を下げ、左右に機体をバンク
させながら、再び、メイン・スタンドの前を、ゆっくりと通り過ぎて行った。

(5)

2009-05-04 22:30:03 | マクロス 序章
 「艦長、敵機捕捉、距離300k、高度3000、4時方向より100機、8時
方向より200機」
 レーダー画面を見ていた、ヴァネッサ少尉が叫ぶ。
 コントロール・パネルを操作していた、早瀬未沙中尉とクローディア・ラサ
ール中尉が、同時にグローバル艦長へ振り向いた。
 「艦長、迎撃態勢の指示を」
 未沙が指示を仰ぐ。
 艦長のブルーノ・J・グローバル准将は、表情を変えず、
 「早瀬君、今日は最後の演習だ、君の思うようにやってみたまえ、クロー
ディア君もだ。キム君、全艦に第一種非常警戒態勢、全隔壁を降ろせ」
 「Yes, Sir!」
 三人が声を揃える。
 艦内にサイレンが鳴り響く中、未沙も表情ひとつ変えず、クローディアへ
向いた、
 「8時方向に4中隊、4時方向へ2中隊向かわせる。クローディア、手薄に
なる右舷へ、陸戦隊を多く回して」
 「了解!」
 未沙とクローディアが、各々の通信パネルへ手を伸ばす、
 「敵機捕捉、スカル、レッド、グリーン、イエローの各中隊は、エリアIに向
け、直ちに発進せよ、パープル、ヴァーミリオンの2中隊は、エリアEへ出撃
せよ、敵機接近中、距離260k、急げ!!」
 「ディフェンダー第1~第7中隊、ファランクス第1~第10中隊は、右舷に
散開、ディフェンダー第8~第10中隊、ファランクス第11~第15中隊は左
舷に散開せよ、トマホーク各中隊は所定通りの位置へ展開、敵は15分で
来る、至急、展開せよ!」
 次々と指示を出していく合間に、クローディアがぼやく、
 「統合軍もイケスカナイわね、300機なんて、こっちの3倍じゃない」
 「向こうは旧型、こっちは最新型って事じゃない」
 引き締まった表情の中、未沙は秘かに闘志を燃やしている。何十回の演
習で、航空隊との意思疎通も出来、今では、最新鋭機バルキリー9中隊か
らなるマクロス航空隊を、自在に操る自信を持っていた。
 今日は、それを存分に試す事が出来る。
 未沙の指が、再び通信パネルを押す。
 「ブルー中隊、ブラウン中隊、発進せよ。ブルー中隊は、本艦最終防衛ラ
インの左舷、ブラウン中隊は、右舷に急ぎ散開、攻撃隊を突破して来る敵に
備えよ」
 緊迫したブリッジの中、二人の、絶え間のない指示が続いている。

  
 その少し前、エリザベート飛行場。
 「とんでもねえ組へ、入っちまったぜ」
 ファン・レーサーの下部へ潜り込み、ラジエーターの整備をしていた輝に、
ジャンが声を掛ける、
 「見てましたよ、あのロディって人、凄いですね。セルゲイさんが、完全に
逆上しちゃったんですから」
 「笑い話の続きになりたくなけりゃ、お前さんも、気をつけるこった」
 「僕は大丈夫ですよ、それより、100万$、残念でした」
 「嫌味な野郎だな、お前は、せっかく忠告してやってんのによ」
 輝が、ゴソゴソと機体の下から這い出て来る、
 「忠告は、確かに受け取りましたよ、有難うございます。ジャンさんって、
意外と優しいんですね、優しいのは女にだけだと思ってた」
 「ほう、「有難う」なんて言葉、知ってたのか」
 「礼節の国の生まれですからね、これでも」
 「ふん、男に「優しい」なんて言われるようじゃ、俺も、そろそろ別の商売
探さなきゃな」
 ジャンが、輝に背中を向けて歩き出した。
 「じゃあな、ま、せいぜい頑張んな、俺は15万、ちょいと稼いでくるわ」
 間もなく、ジャンの出るB決勝が始まる。
 空には、コカーサス・アクロバット・チームの4機が、曲芸飛行の真っ最
中だった。
 蒼い空をバックに、赤、白、黄色、それに緑の複葉機が、木の葉のよう
に絡み合い、舞っている、少し前の自分達のように。