銀色海岸(イラスト連載小説)

まだ見捨てずに続きを待っててくれたとは!そんな君の友情に応えて6年ぶりの更新(2018.5)

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妙な気分

2018年05月03日 | 第九章






アイドルワイルドの前に、数人の人影があった。
胸騒ぎがした。
「何か、あったんですか?」
と、ひとりに尋ねると、入り口のドアを指した。
張り紙があった。

「お客様へ
アイドルワイルドを今までご愛顧いただき、有難うございました。
突然でございますが、やむなき事情により、閉店させていただくことになりました。
これまでの皆様方のご温情に、心からお礼申しあげます。
                            アイドルワイルド店主」


遅かった。
僕は唇をかんだ。

「うさこさん、だいじょうぶかなぁ」
「佐久間先生の所へ行ったんじゃないのか?」
「それならいいが・・・」
「もうあのコーヒー、飲めないのか」
常連たちが入れ替わり立ち替わりやってきて、同じような会話をした。
暮色に染まったアイドルワイルドは、今までみたことのない淋しい佇まいを見せていた。

レモンのような月が登った。
この場所を去りがたく、ボクはひとり裏手へ回ってみた。
うさこさんが出迎えてくれた、小さな緑のドア。
あのときは、タンポポのような灯かりがともっていたものだが。
(なんだ?)
ドアの前に、月灯かりに照らされて、鈍く光るものがあった。
フォトスタンドだった。
うさこさんの引越し荷物から滑り落ちたのだろうか。
あわただしくこの家を離れたことが想像できる。

家に戻り、写真を確かめて、(お前かよ)と思わず言った。
大口を開けてマフィンをほうばろうとしている男、それは赤星山のボクだった。
あの日が、もう何年も前の出来事に思えた。
それにしても、君はなぜ、この滑稽な一枚を選んだんだ。
うさこさん、妙な気分だ。





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