団塊オヤジの短編小説goo

Since 11.20.2008・時事ニュース・雑学・うんちく・豆知識・写真・動画・似顔絵師。雑学は、責任を持てません。

コメントについて

「記事に無関係なコメント、誹謗中傷等のコメントは私の判断で削除させていただきます。また、名前の記入のないときは、場合によっては削除させていただきます。ご了承くだい。楽しいコメントをお待ちしています」

都月満夫の絵手紙ひろば💖一語一絵💖

都月満夫の短編小説集2

「容姿端麗」
「加奈子」
「知らない女」

都月満夫の短編小説集

「キヨシの帰省」
「出雲の神様の縁結び」
「ケンちゃんが惚れた女」
「惚れた女が死んだ夜」
「羆撃ち(くまうち)・私の爺さんの話」
「郭公の家」
「クラスメイト」
「白い女」
「逢縁機縁」
「人殺し」
「春の大雪」
「人魚を食った女」
「叫夢 -SCREAM-」
「ヤメ検弁護士」
「十八年目の恋」
「特別失踪者殺人事件」(退屈刑事2)
「ママは外国人」
「タクシーで…」(ドーナツ屋3)
「寿司屋で…」(ドーナツ屋2)
「退屈刑事(たいくつでか)」
「愛が牙を剥く」
「恋愛詐欺師」
「ドーナツ屋で…」
「桜の木」
「潤子のパンツ」
「出産請負会社」
「闇の中」
「桜・咲爛(さくら・さくらん)」
「しあわせと云う名の猫」
「蜃気楼の時計」
「鰯雲が流れる午後」
「イヴが微笑んだ日」
「桜の花が咲いた夜」
「紅葉のように燃えた夜」
「草原の対決」【児童】
「おとうさんのただいま」【児童】
「七夕・隣の客」(第一部)
「七夕・隣の客」(第二部)
「桜の花が散った夜」

小説「逢縁機縁」

2015-06-08 06:08:00 | 短編小説

都月満夫

 

「私、重子って言います。二十八歳で、仕事はみんなと同じです」

先輩に誘われて、合コンに参加した。私は最後に挨拶をした。みんな看護師仲間だが、相手のことは聞いていなかった。

男性四人、女性四人。男性の中に、私の好きなタイプはいなかった。

そんな私と違って、三人の先輩たちは、猛烈に自己アピールを開始していた。

…みんな、焦っているの? 美人なのに…。

食事を直ぐに平らげた私は、ただの傍観者になっていた。暇を持て余していた。乾き物を摘みながら、ウーロンハイを飲んでいた。

「ねぇ、君は何だか楽しそうじゃないね」

私の向かいにいた男性が話しかけてきた。

「いいえ、別にそんなことありません。私、人見知りなんです。ご心配なく…」

…ちょっと、ぶっきらぼうだったかな。

「俺は人数合わせで参加しただけなんだ。どう、今から別の場所で飲み直しませんか?」

「えっ?」 きょとんとする私。

「あっ、送り狼にはならないから大丈夫」

「ん~、どうしようかな」

「俺は、もっとご馳走が出ると思ってたんだけど、食べ物が少ないし、お腹が空いちゃってさ。君もお腹が空いてないですか?」

「あら、私もお腹が空いたなあと思ってたところなの。じゃあ、抜け出しましょうか」

食べ物に釣られた私。食事をするだけだからと、軽い気持ちで椅子から立ち上がった。

「おいおい、二人でどこへ行く気なんだ?」

「ずるいぞ、ルール違反じゃないか。どこか場所を変えるなら、俺たちも一緒に行く」

二人の男性が立ちふさがった。

「私も一緒していいですか?」

更にもう一人。

その瞬間、先輩たちの声が消えた。沈黙の底に、不穏な空気が流れた。彼女たちの表情が、氷のように固まった。みんなの視線が、アイスピックのように私に突き刺さった。

…どうやら拙いことになっちゃったみたい。もしかして、私ってモテモテなの? からかわれてるの? それとも、軽い女に見られてるの? ここは脱出するに限るわ。

私は最初に声を掛けてきた男性に言った。

「私、ちょっと悪酔いしたみたい…。今日は帰ります。折角のお誘いなのに御免なさい」

他の男性陣にも、作り笑顔で会釈をした。

「体調がイマイチなので、失礼します」

呆然とする男性陣と、不機嫌な女性陣を尻目に、私は外に出た。

 

昼の暑さが、まだ舗装に貼りついていた。今日の為に買ったハイヒールの靴音が、ケッケッケと、私を笑う。酔った女の声が、ジャングルの鳥のようにけたたましく響いた。

…合コンに出席するのは、滅多にない機会。私、期待しすぎていたわ。ちょっと、スカートが短すぎたのかしら? お腹も空いてきたし、履きなれないハイヒールで足も痛くなるし…。もう、最悪よ。

私はハンドバックを振り回しながら、タクシーを探していた。

「はぁはぁ…。やっと追いついた」

背後から聞き覚えのある男の声がした。

「あははっ、ゴメンよ。驚かしたかな?」

男が膝に両手を付いて、息を切らしてそこにいた。最初に声を掛けてきた男性だ。

「俺の行き付けの居酒屋があるんだ。さっ、腹ごしらえタイムにしよう」

「腹ごしらえタイムって…」

私は思わず声を出し、笑ってしまった。

…断ったのに、この人は何か勘違いしているの? だけど居酒屋か~。このまま帰るのも寂しいし、お腹も空いているし…。

「私の奢りで、貴方の支払いで、どう?」

私は、ちょっと首を傾けて言った。

「あははっ、君の奢りで俺の支払い? 面白いね。いいよ」

…この人、笑顔になると、白い歯が印象的だわ。私のタイプじゃないけど、まんざら悪くもない。清潔感がちょっと素敵。

「店はここから近いけど、そのハイヒールで大丈夫?」

「いつもハイヒールだから、平気よ」

 

居酒屋と言われたが、私の想像していたのとはまるで違った。そこは料亭だった。

…このお店、お腹一杯食べたら、諭吉さんが何人いなくなるのかしら。

彼は引き戸を、カラカラと開けた。

「いらっしゃいませ、坂田様」

和服の女性が、三つ指を突いて迎えた。

「あら、驚きました。坂田様が女性をお連れしてのご来店は、初めてでございますね」

…初めて女性を連れてきた? 嘘でしょ。

そうは思いながらも、笑がこぼれた。

…この男、何者? 当然の疑問よね。何者だっていいわよ。支払いは私じゃないし、お腹一杯食べたら、サッサと帰ろう。

「どうぞこちらへ…」

案内されたのは個室だった。

「個室って、周りを気にせずに食事を楽しめるから、好きなんですよ」

…いきなり個室って、どうよ。ま、いいか。

「まぁ~、こんな素敵な居酒屋は、生まれて初めてだわ。こんなお店が行き付けなの?」

「気にいってくれたみたいだね」

食前酒のワインも美味しい。

「この白ワイン、美味しいわね」

「ああ、ライスワインだよ」

「ライスワイン?」

「極上の日本酒ですよ」

「日本酒なの? 香りもフルーティで、スーッと喉を通るわ。こんなお酒は初めて…」

女将が持ってきたお品書きには、先付、前菜、吸い物、御造り、主肴、焼物などの料理名が並んでいた。先付は枝豆豆腐。前菜は季節の山菜と魚介盛り合わせ。

「きゃあ~。可愛い盛り付け…」

…ここは上品に食べなくちゃ駄目よね。

そう思いながら、たちまち平らげた。

吸い物はコーンすり流し。御造りは鮮魚盛り合わせ。主肴は十勝牛のちり蒸し。焼物は朴葉焼きと続いた。

どれもとても美味しく、お酒も進んでほろ酔い気分。でも、まだちょっと物足りない。

「あとはご飯ものになるけど、ほかに食べたいものはありませんか?」

私の気持ちを察したように、彼が言った。

「いただきついでに、お願いしてもいいかしら? 茶碗蒸しと、あとはフカヒレ。ここは和食屋さんだから、フカヒレは無理よね」

「あるよ」 そう言って、彼は注文した。

フカヒレの姿煮と茶碗蒸しが登場した。

「フカヒレなんて、初めてなの。どうやって食べたらいいの?」

「本当に、初めてなのですか?」

「当たり前でしょ。私は庶民の中の庶民よ。フカヒレなんて、上流階級の食べ物でしょ」

私は素直に思ったままに言った。

「君って、本当に面白いね。今から、上流階級が食べるフカヒレを食べるんだから、君は上流階級になる訳ですね」

「そうね。そう言う事だわ。今日から私は庶民から、お嬢様になるのよ」

「その茶碗蒸しは、フォアグラ入りです」

「なによ、それ。超上流階級じゃない」

話し上手な彼。返す言葉を選ばない私。

「坂田さん、下の名前は何ていうの?」

今更ながらの質問に、彼は驚いた。

「さっきの店で、俺の自己紹介を聞いてなかったんですか?」

「えへっ、ごめんなさいね。あんまりタイプの人がいなかったので、聞いてなかったわ」

私はペロッと舌を出し、首を傾けた。

「正直ですね。俺もタイプじゃないってことか…。君は首を傾けるのが癖のようですね」

「あら、さっきと今では状況が違うわ」

やっぱりちょっと首を傾けた。

「坂田景清といいます。古臭い名前ですよ。時代劇のようだ」

「景清って名前なの。いいじゃない。私の今夜の経験も、とても過激よ」

…彼は、私のジョークに反応してくれない。こんな私を前にして、緊張しているの? 彼にとって、私はタイプの女なの?

「ついでと言っては申し訳ないですが、君の苗字を教えていただけますか?」

「佐藤、佐藤重子。ありふれた名前よ」

「重子さん。交際している人はいますか?」

「今は、いないわ」 私は見栄を張った。

 すると彼は、座り直して、私を直視した。

「佐藤重子さん。俺と付き合ってください。勿論、真面目に結婚を前提にします」

…何よ。いきなり交際の申し込み? 結婚を前提に? 今夜出逢ったばかりよ。

私は口の中に入っていたフカヒレを、吹きだしそうになった。

…この人は、いったい何を考えているの?

「坂田さんは、初めて食事をする女性に、結婚を前提に付き合うって言うんですか?」

「女性と二人で食事をするのは初めてです」

…私のコンプレックスは、高すぎる身長。今夜は、どうせデカイ女だもんと開き直り、履いてみたかったヒールを履いてきた。それなのに、このお店まで歩いた時、違和感がなかった。普通に歩けたわ。

「突然ですが…。坂田さん、ご身長は?」

「俺の? 何で身長を聞くんですか? 一九八センチですよ」

「えっ?そんなにあるの?」

「重子さんは?」

「一七五センチくらいかな…」

「へえ~、もっとあるかと思いましたよ」

「私、身長がコンプレックスなの…」

「何を言ってるんですか。俺のお袋なんか一八〇センチですよ。親父もデカイですよ」

「私の一七五センチなんて小さいの?」

「うん。君は俺から見たら普通ですね」

…私が普通? 初めて言われたわ。

その時、襖の向うから声がした。

「坂田様。ご友人がお見えですが…」

「誰ですか?」

「河瀬様と鎌田様がお見えになって、合流したいそうです」

「今夜は、彼女と二人で食事をしたいから、断ってください」

「あら、合流したらいいじゃない」

「俺は、重子さんを、まだ誰にも紹介したくない。もっと、君を知りたいですからね。こんな素敵な女性に彼氏がいないなんて、俺の為に神様が仕組んだに違いありません」

「坂田さん、何を言ってるの? 私をからかってるのね? 友人に合わせたくないのは、私がブスだから? 私のドコが魅力なのよ」

褒められるほど、惨めになってしまった。

「私…、もう帰るわ」

「重子さん。俺は真面目です。重子は、自分の魅力に気が付いてないんだ」

「だから、私の何処に魅力があるのよ?」

少しムッとした顔で、私は訊いた。

「重子さんはとても魅力的です。一七五センチもある身長は、モデルのようだし。色白で柔らかそうな肌。スラリと伸びた足にミニスカートが似合う。艶のあるロングの黒髪に天使の輪。二重の大きな瞳。とても綺麗です。話も面白い。素敵な女性です。最高です」

「もう、いいわよ。ふざけないで」

「ふざけてなんかいません」

「本当に、そう思ってるの? 本気なの?」

…私は信じてみようかと、思い始めた。

突然、坂田の友人たちが入ってきた。

「なんだよ、坂田。女連れだったのかよ」

「あら、残念ね。私たちは、これからホテルに行くのよ。ね、景清…」

…私ったら、何を言ってるんだろう。

ロケットが発射する程、顔から火が出た。

「重子さん。ちょっと待ってください。知り合ったばかりで、ホテルって…」

「あら、冗談じゃないわよ。私がそんなに好きなら、いいじゃない」

突拍子もない発言に、私は開き直るしかなかった。戸惑う坂田に友人が言う。

「坂田、紹介しろよ」

「紹介なら、自分でするわ」

そう言って、私は立ち上がり、自己紹介をして、二時間ほどの経緯を話した。

「みなさん、お分かりいただけましたか。私は、坂田さんとお話の続きがありますの」

「そうだな。これからホテルに行くって言ってるのに、邪魔しちゃ悪いよな」

「お前、女嫌いじゃなかったのかよ?」

しぶしぶ、坂田の友人たちは退散した。

「申し訳ありません。あいつらに悪気はないんです。でも、突然ホテルは驚きました」

…この人って、嘘を付けない人なのね。好きになりそう。もう、なったかも知れない。

そこで、私は賭けに出た。

「あらっ、もうこんな時間なのね、そろそろ帰るわ。ホテルなんて、私どうかしてたわ」

「それはいいとして、まだ十時ですよ」

「私には、もう十時なの」

私は冷たい言葉を残して部屋を出た。

…トイレで十分程、化粧直しをして、部屋に戻ろう。もし、まだ彼が部屋に居たら、本当にデートに誘ってもらおう。

私は戻って、部屋の襖を開けた。目に飛び込んできたのは、グラスに付いた私の口紅跡を見つめる坂田だった。

「坂田さんたら、何をしてるの?」

「見られちゃった」

「見ちゃったようね。私を待っていたの?」

「振られたと思ってさ。何処に行こうか?」

「さっき言ったわ。二回も言わせないで…」

「あれは冗談だろう? まさか本当に?」

…部屋に入った途端、いきなり襲ってなんてこないわよね。でも、襲われてもいい気分。

「じゃあ行こうか。言っておくけど、俺が女性とホテルに行くのは重子が初めてだよ」

「あら~、光栄だわ」

…それは嘘でしょ。そうは思いながら、ここは大人の駆け引きよね。何故だか、この人と居ると素直になれるわ。

 

タクシーはすぐに停車した。

「こんなに近いのに、わざわざ車に乗せるなんて優しいのね」

「だって、ヒールに慣れてないだろ?」

「うふふ。そうよね。わかるわよね」

車を降りて二度ビックリ。そこは高級ホテル。それが可笑しくて、私は笑った。

「ん? 何か面白い?」

「だって、ラブホじゃないわよ」

「うん。ここじゃダメかな…」

「そんなことないけど…」

部屋は、夜景が一望のスウィートルーム。

彼は笑いながら私の手を握った。

「おいで、重子」

「景清、靴を脱いでもいいかしら?」

私は、状況がよく呑み込めていなかった。とにかく足が痛かった。

「重子。君は最高だ。俺の理想の女だ」

景清は、私を抱きしめ、唇を奪った。息が止まるほど、長い時間だった。抵抗はできなかった。というより、する気がなかった。

景清が、そっと唇を離した。

「結婚を前提にって言葉は、取り消します」

「そうよね。からかっただけよね」

私は改めて馬鹿な自分が情けなくなった。

「違う。重子さん、俺と結婚してください」

「もう、いいわよ。私の体重は百キロよ」

「本気だよ。俺のお袋も、九〇キロはある。美しさの基準は人によって違うさ。」

「景清、信じていいのね。信じるわよ」

「いいよ。居酒屋もこのホテルも親父が経営してる。もう従業員に知られちゃったしね」

「景清、まだ歳を聞いてなかったわ」

「二十五だよ。重子、年下は嫌かい?」

景清の厚い唇が、私の口をふさいだ。

コメント (10)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

倉内佐知子

「涅槃歌 朗読する島 今、野生の心臓に 他16篇(22世紀アート) 倉内 佐知子 22世紀アート」

もしも、お手すきでしたら、ぽちっとお願いします^^


絵手紙ランキング