高知発 NPO法人 土といのち

1977年7月に高知県でうまれた「高知土と生命(いのち)を守る会」を母体にした、45年の歴史をもつ共同購入の会です。

食と生活の質

2014-08-01 09:00:00 | 土といのちからのお知らせ
理事長 丸井一郎です。

現代ドイツの生化学・栄養学の研究者ライツマンは、生活の質(QOL = quality of life)と食の関連について、次のように解説しています。括弧の中は筆者の補足です。

近年のこのことが論議されるのは、世界的に食量などの生産が無制限に増大し、国際市場の再編と富の極端な集中を生んだこと、さらにそれが富裕な個人と多数の貧困という明確な対比を結果したことに起因する。(たとえばアメリカなどで貧困の指標としての肥満の原因がファストフードなど偏った食生活にあることが言われている。)

生活の質について、現代の社会政策の指針としては、量ではなく質における成長と環境の質の保全が中心である。
この両者に共通する課題は、人間にとって良質な生存環境の維持と持続可能性である。(したがって、EUは農業生産にではなく、伝統的な農村風景と景観の管理費として農家に費用を支払っている。)
この視点から、食料と栄養についてQOLとの関連を指摘してみよう。

環境面への好ましくない負荷では、動物性食料の生産が圧倒的な要因である。
食料生産から発出する温室化の原因になる気体について、その80%は畜産からである。社会経済関連では、栄養摂取に起因する疾病(成人病、若年肥満など)の増大が問題で、医療費など支出が増大する。
これは運動不足のほか、動物性食品と重度加工品(レトルト食品やインスタント食品などなど)の過剰摂取によっている。
 
食生態学的に望ましいのは、加工程度の低い、適正に調理された地域の有機農産物(ヨーロッパでは植物性食品と乳製品)を中心にした完全栄養食である。
伝統的に地中海の食文化がこの指針に最も適合するが、そこでも北米や中・北欧風のファストフードの進出が見られる。(イタリアではそれへの対抗としてスローフード運動が起こった。)

ファストフードの摂取は、すぐに空腹を充たし、必要な熱量(カロリー)を与えるが、(社会文化的に見て、)食欲を充たす食事ではないので、さらに食べ続け、食べ過ぎることになる。
家族の中で多種かつ少量の調理品を、しかも何段階かに分けて、ゆっくり食べると、食欲は真に充たされる。
肥満の少ない地中海諸国や日本の事例がこれを証明する。
より早く多く食べるのではなく、地域の食材によるスローフードが必要である。
ヨーロッパには(もちろん日本にも)地域ごとに伝統のある多様な食文化があり、これを守らねばならない。 

ということなのですが、近年、日本の食生態事情も変化(崩壊)し始めていることは筆者も論じたことがあります。
地球の各地域に固有の自然環境(風土)およびそれへの創造的な適応としての生産形態と食生態を評価し、そこに見られる多様性が大切にされるべきだと考えます。
また上で見たように、ライツマン氏は、単に空腹を満たすことと、「食事」、とくに共に食べること(共食)とは別事象であることを明確にしています。
前者はさしあたりの身体の維持(栄養摂取)であり、後者は食文化(正確には「生活形式」)に関わる重要事です。

コメント
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