2009/2/2~2/3深夜。
親友すえもんと釣りに行く。
すえもんとは中学以来の友達である。
ナマズやフナやウグイなどをいつもいっしょに釣り歩いていた。
その頃の年齢特有の残虐性、あるいは理由なき焦燥感や無力感からか
釣った魚をカッターで切り裂き、その辺に無意味に並べるなどというまことに野蛮な事をしてみたり
黄昏行く川の堤防の上で、お互いの好きな女の名前などを告白しあったりしたりしていた。
高校は別になって次第に疎遠となり、社会に出てからも土地が離れて縁はなく
しかし10年ほど前、帰郷した僕がある日、ふと、すえもんの家の前を通った際偶然に再会し
まだ釣りを続けている事を知り、再び縁が繋がり今に至る。
もうさすがに無意味に魚を切り裂いたりなどはしないが(料理はするようになったが)
今でもこの人といるとあの頃のままの気持ちになる。基本的に何も変わっていない。
本当の親友というのは……。何かの本に書いてあった。
「真に何でも言い合える親友というのは、子供の頃に作った親友だけである。
大人になってからできた友達もそれに近いものにはなれるが、そこには利害の関係が必ず生まれ
言えない事が常に存在するのだ」と。
この人を見ていると、そうかもしれない、と思う。
言わない事も無いではないが、それは「あえて」言わない事でなんである。
この日。
すえもんの家庭の都合で23:00あたりからの釣りになる。
海はど干潮に向うタイミングであまり良い時間帯ではない。
「ある条件」が河野方面にあるという情報を頼りに「がけ崩れの南側」の道から海に降りた。
車を走らせていると「ある条件」が見え始めた。この条件はずいぶん遠くからでも分かるのである。
勢い込んで現場に着く。しかしそこはシャローのゴロタ浜だった。
「ある条件」が効くにはある程度の水深とテトラが必要なのである。ここにそれは無かった。
しかし、あるいは、と、釣り始める。
「多い日夜用slimグリーンメタリックレッドヘッド」でロングキャストを続けた。
この条件にはこのカラーが効くような気がした。
しかしやはりあたりは遠い。
一度だけフルキャストしてようやく届く大岩の際で、ドンッ!と強いあたりを感じたが外してしまう。
そして結局それだけだった。
「ある条件」はその1箇所にあるのみで、仕方なく僕達は甲楽城のテトラに入った。
しかしやはり状況は渋くようやくやっと
22cmのこいつが釣れただけだった。
そして、この写真がこのルアーの遺影となった。
こちら方面のポイントに疎い我々は思い切って北に向った。
大きく宮崎を回る迂回路を通り「がけ崩れの北側」の道を下り「幽霊テトラ」のある防波堤に入った。
先日の事もあり新規のポイントを開拓しようと巨大なその防波堤の中央付近、大きな岩があるポイントに入る。
これが悲劇の喪失の始まりとなった。
テトラが苦手なすえもんだがそれでも難なくたどり着けるぬるいポイント。クランクした堤防の凹部にあたる。
ろくにポイントの様子も観察せずに「多い日夜用slimグリーンメタリックレッドヘッド」をキャストする。
すると、いきなり、引っ掛かった…。押しても引いても外れない。強くひっぱるとにゅ~と動く。
まさか…ライトで照らすとそれは定置網のロープだった。これに引っ掛かるともう終わりである。
あぁぁぁ。このルアーはなくしたくない。できる事ならこのままここでずっと繋がっていたいぃぃっ!。
心から思った。
が、しかし当然そうもいかず泣く泣く切る。
「僕ここ嫌いッ!!もういやっ!!」
すえもんに当たるが無言のまま困った顔をするだけだ。
「僕そっち行く!!」とすえもんを越えてロープから遠い場所に入る。
程なくすえもんが「釣れたぞ~」と声を上げる。見ると15cm程のアカメバルだ。
「おお、よかったな~」
「うん、ジグヘッド底シェイク~」
落ち込む僕に元気をつけようと明るい声で応えてくれる。
優しいのである。
ふんっそんな魚っ、と思いつつも僕も底シェイクを始めた。
新規の場所で底の様子が全く分からない。すぐに根がかり。
ロッドをあおっても外れず。ロストを覚悟でロッドと糸をまっすぐにしてひっぱった。
「べきっ」
暗闇にいやないやな音が響いた。
…。
おそるおそる、おそるおそる、ロッドのティップを照らしてみる。
トップガイドが、なかった。絡んだままひっぱったのだ。
ラインも切れてこの世からトップガイドの存在が消えた。
わぁぁぁぁぁ!!!!。83deepぅぅぅぅぅ!!!!!!
極めて激しく動揺しつつも落ち着いた声で「…すえもん、竿折れた」と告げた。
「うそやろっ」暗闇ですえもんも激しく動揺した。闇の空気が揺れた。かける言葉を探している沈黙があった。
優しいのである。
テトラにしゃがみ込みゆっくりと煙草を吸った。
この場所でできる事は何も無くなり引き返そうとテトラを登りかけたが岩のりで滑り上手く登れなかった。
全力を挙げれば登れるだろうが全力を出す気力がなかった。また僕はすえもんに当たった。
「すえもんっ!!登れんっ!」
「おう、待っとけ」
テトラが苦手なすえもんがいっしょうけんめいこちらに向った。
優しいのである。
「竿、見せて」
ティップを見せた。すえもんがそれを手にするとジョイントが外れた。
外れるなどとは思っていなかったすえもんはそれをお手玉した。
「カラン」
ティップがテトラの隙間に落ちた。慌ててすえもんは手を伸ばす。しかし届かなかった。
「ああ、ああ、行っつんた、す、すまん」
「いいいい、かまわん、どうせ折れてたんやし」乾いた声で答えた。
すえもんも僕と同じくらい落ち込んだ。
とても優しいのである。
ほんの15分で僕は大切なものを2つ無くした。こんな事があるのだろうか。
最近しばらく、仕事でも家庭でも、何をしても上手く行かず、ついていない事が多かった。
体調も悪く常に頭痛と腹痛を抱えていた。
そして今日は、僕が持つ「もの」の中で一番大切なものと非常に大切なものを一時に失ったのだ。
激しい喪失感が僕を包んだ。手がなくなったような気がした。どうにかしてくれと思った。
しかし
同時に、ふと
「これ以上はもう落ち無い、ここが底だ」
と直感した。あとは上がるだけだ、と。
案の定。
次の日から僕は上昇を始めた。
また続くんだよ。w
TACKLE DATA
ROD/Glamour Rock Fish TR83deep⇒死亡
REEL/EXIST2004
LINE/Daiwa Emeraldas SENSOR 0.5号+7lbフロロ
Moon DATA
親友すえもんと釣りに行く。
すえもんとは中学以来の友達である。
ナマズやフナやウグイなどをいつもいっしょに釣り歩いていた。
その頃の年齢特有の残虐性、あるいは理由なき焦燥感や無力感からか
釣った魚をカッターで切り裂き、その辺に無意味に並べるなどというまことに野蛮な事をしてみたり
黄昏行く川の堤防の上で、お互いの好きな女の名前などを告白しあったりしたりしていた。
高校は別になって次第に疎遠となり、社会に出てからも土地が離れて縁はなく
しかし10年ほど前、帰郷した僕がある日、ふと、すえもんの家の前を通った際偶然に再会し
まだ釣りを続けている事を知り、再び縁が繋がり今に至る。
もうさすがに無意味に魚を切り裂いたりなどはしないが(料理はするようになったが)
今でもこの人といるとあの頃のままの気持ちになる。基本的に何も変わっていない。
本当の親友というのは……。何かの本に書いてあった。
「真に何でも言い合える親友というのは、子供の頃に作った親友だけである。
大人になってからできた友達もそれに近いものにはなれるが、そこには利害の関係が必ず生まれ
言えない事が常に存在するのだ」と。
この人を見ていると、そうかもしれない、と思う。
言わない事も無いではないが、それは「あえて」言わない事でなんである。
この日。
すえもんの家庭の都合で23:00あたりからの釣りになる。
海はど干潮に向うタイミングであまり良い時間帯ではない。
「ある条件」が河野方面にあるという情報を頼りに「がけ崩れの南側」の道から海に降りた。
車を走らせていると「ある条件」が見え始めた。この条件はずいぶん遠くからでも分かるのである。
勢い込んで現場に着く。しかしそこはシャローのゴロタ浜だった。
「ある条件」が効くにはある程度の水深とテトラが必要なのである。ここにそれは無かった。
しかし、あるいは、と、釣り始める。
「多い日夜用slimグリーンメタリックレッドヘッド」でロングキャストを続けた。
この条件にはこのカラーが効くような気がした。
しかしやはりあたりは遠い。
一度だけフルキャストしてようやく届く大岩の際で、ドンッ!と強いあたりを感じたが外してしまう。
そして結局それだけだった。
「ある条件」はその1箇所にあるのみで、仕方なく僕達は甲楽城のテトラに入った。
しかしやはり状況は渋くようやくやっと
22cmのこいつが釣れただけだった。
そして、この写真がこのルアーの遺影となった。
こちら方面のポイントに疎い我々は思い切って北に向った。
大きく宮崎を回る迂回路を通り「がけ崩れの北側」の道を下り「幽霊テトラ」のある防波堤に入った。
先日の事もあり新規のポイントを開拓しようと巨大なその防波堤の中央付近、大きな岩があるポイントに入る。
これが悲劇の喪失の始まりとなった。
テトラが苦手なすえもんだがそれでも難なくたどり着けるぬるいポイント。クランクした堤防の凹部にあたる。
ろくにポイントの様子も観察せずに「多い日夜用slimグリーンメタリックレッドヘッド」をキャストする。
すると、いきなり、引っ掛かった…。押しても引いても外れない。強くひっぱるとにゅ~と動く。
まさか…ライトで照らすとそれは定置網のロープだった。これに引っ掛かるともう終わりである。
あぁぁぁ。このルアーはなくしたくない。できる事ならこのままここでずっと繋がっていたいぃぃっ!。
心から思った。
が、しかし当然そうもいかず泣く泣く切る。
「僕ここ嫌いッ!!もういやっ!!」
すえもんに当たるが無言のまま困った顔をするだけだ。
「僕そっち行く!!」とすえもんを越えてロープから遠い場所に入る。
程なくすえもんが「釣れたぞ~」と声を上げる。見ると15cm程のアカメバルだ。
「おお、よかったな~」
「うん、ジグヘッド底シェイク~」
落ち込む僕に元気をつけようと明るい声で応えてくれる。
優しいのである。
ふんっそんな魚っ、と思いつつも僕も底シェイクを始めた。
新規の場所で底の様子が全く分からない。すぐに根がかり。
ロッドをあおっても外れず。ロストを覚悟でロッドと糸をまっすぐにしてひっぱった。
「べきっ」
暗闇にいやないやな音が響いた。
…。
おそるおそる、おそるおそる、ロッドのティップを照らしてみる。
トップガイドが、なかった。絡んだままひっぱったのだ。
ラインも切れてこの世からトップガイドの存在が消えた。
わぁぁぁぁぁ!!!!。83deepぅぅぅぅぅ!!!!!!
極めて激しく動揺しつつも落ち着いた声で「…すえもん、竿折れた」と告げた。
「うそやろっ」暗闇ですえもんも激しく動揺した。闇の空気が揺れた。かける言葉を探している沈黙があった。
優しいのである。
テトラにしゃがみ込みゆっくりと煙草を吸った。
この場所でできる事は何も無くなり引き返そうとテトラを登りかけたが岩のりで滑り上手く登れなかった。
全力を挙げれば登れるだろうが全力を出す気力がなかった。また僕はすえもんに当たった。
「すえもんっ!!登れんっ!」
「おう、待っとけ」
テトラが苦手なすえもんがいっしょうけんめいこちらに向った。
優しいのである。
「竿、見せて」
ティップを見せた。すえもんがそれを手にするとジョイントが外れた。
外れるなどとは思っていなかったすえもんはそれをお手玉した。
「カラン」
ティップがテトラの隙間に落ちた。慌ててすえもんは手を伸ばす。しかし届かなかった。
「ああ、ああ、行っつんた、す、すまん」
「いいいい、かまわん、どうせ折れてたんやし」乾いた声で答えた。
すえもんも僕と同じくらい落ち込んだ。
とても優しいのである。
ほんの15分で僕は大切なものを2つ無くした。こんな事があるのだろうか。
最近しばらく、仕事でも家庭でも、何をしても上手く行かず、ついていない事が多かった。
体調も悪く常に頭痛と腹痛を抱えていた。
そして今日は、僕が持つ「もの」の中で一番大切なものと非常に大切なものを一時に失ったのだ。
激しい喪失感が僕を包んだ。手がなくなったような気がした。どうにかしてくれと思った。
しかし
同時に、ふと
「これ以上はもう落ち無い、ここが底だ」
と直感した。あとは上がるだけだ、と。
案の定。
次の日から僕は上昇を始めた。
また続くんだよ。w
TACKLE DATA
ROD/Glamour Rock Fish TR83deep⇒死亡
REEL/EXIST2004
LINE/Daiwa Emeraldas SENSOR 0.5号+7lbフロロ
Moon DATA