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カルロス・ゴーン氏に見る弁護戦略 2018.12.11 

2018-12-11 09:38:47 | 社会・経済

日産自動車の前会長カルロス・ゴーン氏と側近の者代表取締役グレゴリー・ケリー氏が、金融商品取引法違反で起訴されさらに同法違反で再逮捕されました。

報道によれば、起訴された事実は2015年までの5年間の報酬不記載であり、再逮捕の事実は2016年~2018年までの3年間の報酬不記載ということです。

 

この状況は、ゴーン氏らにとって最悪です。

再逮捕されたことで「40日間も勾留されることになる!」と報道されていますが、日本の刑事司法はそんなに甘くありません。

今後もさらに再逮捕が繰り返される可能性があります。

再逮捕されなくても、起訴後の勾留で身体拘束が続きます。

保釈請求をしても、否認事件だからということで、検察側立証が終わるか、あるいは公判前整理手続きに付されて弁護側の証拠意見・予定主張が出るまで保釈は認められないでしょう。

そうなると、森友事件と同様に一年程度は身体拘束されたままになるという可能性が大です。

裁判で有罪になるか、無罪になるかはわかりませんが、なにせ99.9%有罪の刑事裁判です。

特捜部がぶち上げて、起訴してきた事件を無罪にするのは裁判官としてはとてつもない勇気がいるでしょう。

 

しかし、実は、ゴーン氏らにとってこの最悪の状況を避けるチャンスはありました。

それは、特捜部が8年間にわたる報酬不記載の事実を二つに分けて再逮捕するという姑息な手段を使った点です。

一部報道にあるようにこの再逮捕は不当だと考えますが、しかし、実はゴーン氏にとっては最大のチャンスでした。

なぜチャンスだったのか?

次のような弁護戦略を描くことができたからです。

一度目の勾留の被疑事実について処分保留(釈放)にさせて、再逮捕、再勾留させる。

一度目の勾留の被疑事実と二度目の勾留の被疑事実は、包括一罪あるいは少なくとも実質的に一罪であるとして、勾留に対する準抗告を認めさせる。

そうすると、特捜部は無理やり慌てて起訴して裁判官に起訴後勾留を請求するか、起訴するかどうかの判断を先送りしていったん釈放するかのどちらかしかなくなります。

後者が弁護側のベストシナリオで、いったん釈放させてしまえばそのまま不起訴になる可能性も十分にあります。

完全に不起訴にはならないにしても、ケリー氏だけは不起訴になったり、ゴーン氏についても背任罪など本丸と言われる事件への発展を阻止することができるでしょう。

前者の場合でも、その段階でケリー氏だけは処分保留で釈放したり、ゴーン氏についても、取調べをストップさせることができますし、証拠構造を固められないままの起訴という形に持ち込めます。

いずれにしても、検察が当初に描いた絵は完全に崩れてしまい、この事件はとてもしょぼい事件になってしまうでしょう。

私自身、こういうシナリオで不起訴に持ち込んだ経験が2回あります。

この弁護戦略の最大のポイントは、一度目の被疑事実について起訴させずに「処分保留」に持ち込むところにあります。

 

そして、ケリー氏だけでも不起訴で釈放されれば、ゴーン氏の裁判や生活を支援するためにケリー氏に動いてもらうことができるようになります。

ゴーン氏が仮に有罪になったとしても金融商品取引法違反だけなら、海外企業、あるいはルノーでCEOに返り咲き、日産自動車に復讐することもできるかもしれません。

 

ところが、ゴーン氏らの弁護団は、このチャンスを潰してしまった。

その原因は「黙秘」させなかったからです。

逮捕後、報道でゴーン氏の言い分がたくさん報道されているところを見ると、二人とも黙秘することなく、取調べで自分の言い分、正当性を訴えているようです。

しかし、捜査機関に対して被疑者が自分の言い分をいくら主張したところで、捜査官が「なるほど!そうだったんですね!」と了解してくれることなどありえない。

ゴーン氏が弁解すればするほど、特捜部はゴーン氏・弁護側の主張を潰すためには、どこを捜査すればいいのか知恵を付けていくばかりです。

特捜部は、初めから被疑事実を二つに分断して再逮捕し、40日間の勾留をするつもりだったようです。

つまり、20日間の勾留だけでは、ゴーン氏から十分な供述が引き出せずに起訴するところまで持っていけないかもしれないと考えていたのです。

確実に起訴できるだけの自信はなかったのでしょう。

 

ゴーン氏とケリー氏が「黙秘」を貫いていれば、特捜部にとっては捜査に逮捕時から進展がありません。

一回目の逮捕勾留で20日間取り調べた後、とりあえず処分保留(釈放)しておいて、再逮捕してさらに20日間取調べるということにせざるを得なかったでしょう。

そして、弁護人は準抗告を通して、ゴーン氏とケリー氏を釈放させてしまうのです。

「黙秘」させていれば、弁護人のベストシナリオに持ち込めた可能性は十分にあります。

 

では、なぜ、弁護団は黙秘させなかったのか?

ゴーン氏の性格によるところもあるかもしれませんが、ここで、弁護人が「大物ヤメ検弁護士」というところが引っ掛かります。

「大物ヤメ検弁護士」と言われる人と一緒に仕事をしたことがありますが、こういう弁護士は決して「黙秘」させようとはしません。

元大物検事としては「黙秘」など卑怯だ!真実を話すべきだ!と思っておられるのかもしれません。

しかし、それ以上に、元大物検事である自分が被疑者から話を聞いて、無実だ、嫌疑不十分だと判断したのだから、捜査にあたっている後輩の現役検事(昔の部下たち)も、被疑者からきちんと話を聞けば自分と同じように判断するに違いないと考えておられるのではないか思います。

残念ながら、被疑者が弁護人にすべてを正直に話しているとは限りません。ウソもあれば、勘違い、思い込み、記憶違いなどということはいくらでもあります。

弁護人は、捜査機関が収集した証拠を見ることができていません。

圧倒的に情報量が違うのですから、たとえお世話になった「大物ヤメ検弁護士」から何を言われたとしても、現役検事としては「いやいや、ご存じではない証拠があるのですよ。」と反論されるばかりです。

自分たちが現役の時代には、たとえ先輩の「大物ヤメ検弁護士」から言われても、捜査方針を変えるなどということはしなかったでしょうが、いざ立場が変わると、自分が言えば捜査方針を変えてくれると信じてしまうのはやむを得ないことなのかもしれません。

 

今回の事件で「黙秘」という弁護方針は、ずっと刑事弁護をしてきた弁護士からすれば極めてオーソドックスなものです。

おそらく多くの刑事弁護人は「黙秘」という方針をとり、それを可能とするために、連日、接見を繰り返すことでしょう。

ゴーン氏も、生粋の刑事弁護人に依頼していれば、明日くらいに釈放されていたかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

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