「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

故 郷 Long Good-bye 2021・10・24

2021-10-24 06:09:00 | Weblog


   今日の「 お気に入り 」 。

   「 家郷忘じ難しといふ 。まことにそのとほりである 。故郷はとうてい捨てきれない

    ものである 。それを愛する人は愛する意味に於て 、それを憎む人は憎む意味に於て 。

     さらにまた 、予言者は故郷に容れられずといふ諺もある 。えらい人はえらいが故に

    理解されない 。変つた者は変つてゐるために爪弾きされる 。しかし 、拒まれても

    嘲られても 、それを捨て得ないところに 、人間性のいたましい発露がある 。錦衣

    還郷が人情ならば 、襤褸をさげて故園の山河をさまよふのもまた人情である 。

     近代人は故郷を失ひつつある 。故郷を持たない人間がふえてゆく 。彼らの故郷

    は機械の間かも知れない 。或はテーブルの上かも知れない 。或はまた 、闘争その

    もの 、享楽そのものかも知れない。しかしながら 、身の故郷はいかにともあれ 、

    私たちは心の故郷を離れてはならないと思ふ 。

     自性を徹見して本地の風光に帰入する 、この境地を禅門では『 帰家穏座 』と

    形容する 。ここまで到達しなければ 、ほんとうの故郷 、ほんとうの人間 、ほん

    とうの自分は見出せない 。

     自分自身にたちかへる 、ここから新らしい第一歩を踏み出さなければならない 。

    そして歩み続けなければならない 。

     私は今 、ふるさとのほとりに庵居してゐる 。とうとうかへつてきましたね ――

    と慰められたり憐まれたりしながら 、ひとりしづかに自然を観じ人事を観じてゐる 。

    余生はいつまで保つかは解らないけれど 、枯木死灰と化さないかぎり 、ほんとう

    の故郷を欣求することは忘れてゐない 。 」


    「 花いばらここの土とならうよ

     ひとりきいてゐてきつつき

     けふはおわかれの糸瓜がぶらり

     住みなれて茶の花のひらいては散る

                     ( 山頭火 )」


    ( 出典: 種田山頭火著 村上護 編 小崎侃・画 「 山頭火句集 」ちくま文庫 ㈱筑摩書房 刊 )

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