「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2006・04・17

2006-04-17 07:45:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、藤原正彦さんの「国語教育絶対論」から、「祖国とは国語である」という見出しの付いた小文の一節で、昨日の続きです。

 「一般国民にとって、ナショナリズムは不必要であり危険でもあるが、祖国愛は絶対不可欠である。わが国語にこの二つの峻別がなかったため、戦後、極めて遺憾なことに諸共捨てられてしまった。悔まれる軽挙であった。現在の政治・経済・外交における困難の大半は、祖国愛の欠如に帰着する、と言ってさして過言でない。
 祖国愛は国際人となるための障害と考える向きもあるが、誤解である。国際社会はオーケストラのごときものである。オーケストラに「チェロとビオラとバイオリンを混ぜた音を出す楽器で参加したい」と言っても、拒否されるだけである。オーケストラはそのような音を必要としていない。バイオリンがバイオリンのように鳴って、はじめてオーケストラに融和する。国際社会では、日本人としてのルーツをしっかり備えている日本人が、もっとも輝き、歓迎されるのである。根無し草はだめである。
 祖国愛や郷土愛の涵養は戦争抑止のための有力な手立てでもある。自国の文化や伝統を心から愛し、故郷の山、谷、空、雲、光、そよ風、石ころ、土くれに至るまでを思い涙する人は、他国の人々の同じ思いをもよく理解することができる。このような人はどんな侵略にも反対するだろう。
 ここ数十年、小中高における国語の授業時間数は漸減してきたが、それに呼応するように、祖国愛も低下してきている。祖国の文化、伝統、情緒などは文学にもっともよく表れている。国語を大事にする、ということを教育の中軸に据えなければならないのである。」


   (藤原正彦著 「祖国とは国語」 新潮文庫 所収)
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