今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「このごろ他人はおろか自分の子でさえ笑ってはいけないと言うものがあります。笑うと子供の心を傷つけると言うのです。親が子を笑うのですから、悪意なんぞありはしません。どうして傷つくのでしょう。これしきのことに傷つくなら傷つくがいいのです。それに全く無傷で大人になることはかえって危険です。またこの世の中には人に笑われなければおぼえられないことが山ほどあります。
私の事務所へ来る三十代の紳士に、『雪之丞変化』のことを雪之丞へんかと言う人があります。へんかじゃあるまいへんげだろうと、三十になったらだれも教えてはくれません。笑ってくれるのは中学高校時代までです。
中学高校生は辛辣なもので、『オイ妖怪へんかだとよ』と、だれかが先んじて笑うと、他の不確かなものは追随して笑って、笑ったことによっておぼえることもあるのです。」
(山本夏彦著「つかぬことを言う」中公文庫 所収)
「このごろ他人はおろか自分の子でさえ笑ってはいけないと言うものがあります。笑うと子供の心を傷つけると言うのです。親が子を笑うのですから、悪意なんぞありはしません。どうして傷つくのでしょう。これしきのことに傷つくなら傷つくがいいのです。それに全く無傷で大人になることはかえって危険です。またこの世の中には人に笑われなければおぼえられないことが山ほどあります。
私の事務所へ来る三十代の紳士に、『雪之丞変化』のことを雪之丞へんかと言う人があります。へんかじゃあるまいへんげだろうと、三十になったらだれも教えてはくれません。笑ってくれるのは中学高校時代までです。
中学高校生は辛辣なもので、『オイ妖怪へんかだとよ』と、だれかが先んじて笑うと、他の不確かなものは追随して笑って、笑ったことによっておぼえることもあるのです。」
(山本夏彦著「つかぬことを言う」中公文庫 所収)