「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2005・02・10

2005-02-10 07:00:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム「自分のなかなる他人」の一節です。「ああ玉杯に花うけて」という一高の寮歌で始まる文章の中にあります。

「友の悲運にかけつける足は我にもあらず勇むのである、わが喜びに友は一度は喜ぶが、再三再四かさなると面白くなくなる。
 友の不運はひそかに嬉しいものだというと、滅相もないと怒る友に似たものがある。だから誰も言わない、栄華の巷低く見て、ウソつけと言うものもない。
 故に友の幸運が何度重なっても喜んでくれる友こそ友である。俗に金銭の貸借は友情を失うからしないという友があるが、それは貸さないということを飾って言ったのである。
 真の友なら貸す機会が与えられたことを喜び、貸したことを忘れる。形成逆転してこんどは、貸し手が借り手に回ると、以前の借り手は喜んで貸して貸したことを忘れる。
 かくの如き友は求めて得がたいから、にせの友を本ものの友だと思って、それも出来るだけ大勢にかこまれて死にたいのである。花環ぐらいはくれるだろう。この世にそれ以外の友があろうか。
 誰の心のなかにも他人がいる。私はそれを自分のなかなる他人と呼んでいる。どんな人にもいる。老若を問わず。第三者を見るときは、その他人の目で見て辛辣なことをいう。それなのに自分のことになると皆目見えなくなる。それが健康というもので、健康というものはイヤなものである。」

 長い引用になりましたが、山本夏彦さんのコラムの中で、気にいっているもののひとつです。
コメント
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