循環型社会って何!

国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

石原東京都知事の苦しい言い訳(築地市場のアスベスト問題)

2007年10月17日 | 廃棄物政策
◆基準値を1,000倍上回るベンゼン
 去る10月6日、築地卸売市場(約23ヘクタール)の移転予定地とされる豊洲の東京ガス跡地から基準値の1,000倍という高濃度のベンゼンが検出されました。土壌汚染を調査する専門家会議(東京都が委嘱・委員長平田健正和歌山大学教授)の地下水調査で判明したものです。
 この衝撃的な数字に多くの都民は仰天しましたが、築地水産仲卸関係者で組織する「市場を考える会」の山崎治雄代表幹事は「精密な調査をしたからといってリスクをゼロにすることはできない。それでも調査をつづけるというのはまず移転ありきで議論しているということだ」(YAHOOニュース)と指摘しています。これを裏書するように石原東京都知事は12日の定例記者会見で「万全の手をつくし都民に心配ない形で(豊洲新市場を)建設してゆく」(時事通信10月12日)と述べました。しかし専門家会議は反響の大きさを考慮したものか、予定地40ヘクタールについてさらに4,000ヶ所のボーリング調査を東京都に求めています。

◆唐突なアスベスト発言
 これに対しても石原知事は「再調査に10ヶ月かかるようだが、それぐらいの時間的誤差だったら(2016年のオリンピックが)東京と決まった場合の話だが、あまり差し支えはないと思う」(前出時事通信)と強気でした。
 なぜこうも豊洲移転に固執するのかといえば、築地が引っ越した跡地にオリンピック開催を前提としたプレスセンターの建設を計画しているからです。石原知事はもう後に引けない事情にあるとしか思えません。多分焦りなのでしょう。
 あまり知られていませんが「築地市場は老朽化して狭い。その上アスベストが相当に残っている」という発言も石原知事は行なっていたのです。すなわち再選後の記者会見で「(築地は)選挙戦の攻撃材料として無理やり持ち出された問題だ。しかしあれだけの話題になったので、とにかく早めに専門家を選んで検討してもらう。ただ築地には大量のアスベストが使われており、もっと現代的で機能的、清潔で危険のない施設に変えるべきだ」。
 またNHKの若い記者から受けたインタビューで「豊洲移転は青島知事時代に決まったことだよ」と答えています。若い記者は目を白黒させていたそうです。しかしこれは彼一流の逃げというべきでしょう。
 
◆すでに9割方除去
 石原知事の初当選は1999年4月です。それまで(つまり青島時代)は「施設の老朽化・過密化が著しくなったので、現在地(つまり築地)で再整備を行なう」という方針が貫かれていたのです。それが移転に変わったのは99年11月のことでした。すなわち築地市場整備推進協議会による「 現在地再整備の困難性から移転整備へと方向転換すべし」との検討結果が出たためです。時系列からいって青島知事時代はまだ「現在地再整備」でしたから、「青島の責任」といわんばかりの石原発言は男らしくないというべきでしょう。仮にそうだとしても政治家は結果責任を負うべきなのです。
「築地市場にアスベスト」発言も苦し紛れのイチャモンとしかいいようがありません。なぜなら東京都はすでに1989年5月に策定した「東京都アスベスト対策大綱」に基づき、92年から築地市場のアスベスト除去作業に取り掛かっていたのです。これも「現在地再整備計画」の一環でした。しかも除去作業は現在ほぼ9割方終し、東京都中央卸売市場事業部の伊藤達也施設課長も「そろそろ峠は見えてきた」と明言されているほどです。
 むろんそこに至る道程は平板ではありませんでした。90年代初めといえば一般にアスベストについての関心は薄く、都庁内にも十分な知識をもつ職員が少なかったため、「単なる屋根の葺き替え」程度の感覚で工事を進めた形跡があります。
 たとえば築地市場のメイン舞台というべき水産仲卸売場全体の大屋根改修工事(92年施工)では約束したはずの塀囲い、湿潤化という当たり前の予備作業抜きに工事を行なったため、直下の店舗はおびただしい埃で大きな被害を受けたといいます。

◆三者でリスクコミュニケーションを図る
 これに対しアスベストの持つ有害性に気づき、生鮮食品を扱う職場のアスベスト除去作業はどうあるべきかを模索していったのは現場の市場労働者たちです。築地には職種ごとに労働組合が組織されており、その連合体として市労連(市場労連の意味)がありました。
 工事に先立つ91年9月に市労連は東部労災センターから講師を招き、特に吹きつけアスベストの撤去処理の基本的な勉強を積んでいました。 その中心で活躍したのが現中皮腫・じん肺・アスベストセンターの事務局長、永倉冬史氏です。現在も午前中はまぐろ仲卸店の従業員として目一杯働き、午後からは事務局のある亀戸に駆けつけるなど忙しい毎日を送っています。
 永倉さんたちは最初のうち、東京都職員と年中喧嘩していました。しかしのちに職員側もことの重大さに気づき、協力的となったといいます。「工事を発注する前にその内容、問題点を討議する」というリスクコミニュケーシヨンを行ない、それを発注要件として入札させ、業者を決める。その後業者がどういう工事をするのかの「施工計画書」を東京都に提出。都職員と業者、労組の三者が検討会を持って2回目のリスクコミュニケーションを行なったのち、工事に着手するのです。工事中も約束どおり行なわれているかについて3回目のリスクコミュニケーション。工事が完了したあとも写真・報告書つきで情報開示が行なわれます。

◆再び禍根を残すな
 永倉さんは次のようにいっています。「実質15年前から行なわれてきた築地のアスベスト撤去工事は現在日本中のどこで行なわれている工事より安全に行なわれたと自負しています。こうしたリスクコミュニケーションや私たちが積み重ねてきた実体験がもっと全国に広がって欲しいと思います」。
 問題は古くから築地で働いてきた労働者に中皮腫患者が出ないかということです。永倉さんがつづけます。「以前鮭のセリをしていた方が中皮腫で亡くなりました。原因がここのアスベストじゃないかという疑いを持ちましたが労働基準監督署は認めていません」。
 アスベストを豊洲移転の論拠にしている石原東京都知事の発言をどう思うかとの問いに永倉さんは次のように答えました。
「アスベスト対策に東京都は何十億もの金をかけてきました。食品を扱っている施設から有害物質を撤去するには如何に膨大なコストがかかるかを身に沁みて体験してきたわけです。しかし豊洲にはすでに築地以上の有害物質があると分かっているのに、営業を始めてから問題が起きたら撤去にかける費用は築地どころではないはずです。なぜ経験に学ばないのかといいたい」。
 作家というにはあまりにもズサンな感性を持つ石原慎太郎に専制君主並みの権力を与えてしまった 東京都民の罪はあまりにも大きいといわねばなりません。

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