循環型社会って何!

国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

10月12日は厄日だった

2007年10月14日 | 清掃工場
 10月12日は重大事件・事故続出の一日でした。一種の厄日なのでしょう。まず朝8時42分、かの愛すべき奇人にして文化功労者の黒川紀章氏が死亡。次に内部告発と思いますが赤福の「賞味期限ねつ造」事件が発覚しています。しかしこれは奇妙な話で、何しろ名古屋、京都、大阪のJR・私鉄売店、デパ地下などに一刻の休みなく配送し、決して商品を途切らすことが許されないのですから大量生産システムをとるほかはありません。まさか上賀茂神社の神馬堂のやきもちや東京銀座の空也最中みたいに「売切れ次第閉店」商法と同列に考えていたらその方が不自然というべきです。「まき直し」(冷凍してつくり置き、随時解凍する方式)をやるのは当たり前の話でしょう。問題は赤福本社が創業300年や手づくりのイメージをやたら振りまいてきたことです。

◆たったひとつのミスで
 そして真打ち格のニュースが自動改札パニックでした。まさにくるものがきた、という感じです。JR、私鉄、地下鉄約650駅で始発から自動改札機の電源が入らないトラブルが起き、各社とも自動改札機を開けっ放しにして通行勝手とせざるを得ませんでした。詳細はあらゆるメディアが報道済みだし、各社の被害額がどれほどのものかも公表されることでしょう。パニックは午前10時過ぎに仮復旧したようですが、この種の「あってはならない」システムダウンは過去に何度も起きていたのです。
 有名なものでは2002年4月1日、鳴り物入りでみずほ銀行が誕生したのですが、その途端、メインコンピュータが不具合を起こし、公共料金二重引き落としなどの不祥事が相次ぎました。2005年10月にはライブドアに強制捜査が入り、株の売り注文が殺到。これが処理しきれず、東証のシステムがパンクする事故が起きています。2007年には全日空国際線予約システムトラブルで営業不能になり、欠航騒ぎで羽田はパニックになりました。さらに完全コンピュータ化した新聞編集システムも数え切れないトラブルを起こしています。
 このように肥大化したコンピュータ依存体制がもたらす恐さは、ほんの些細なミスが広範囲の被害をもたらすことです。たとえば30年ほど前に広島市で大規模停電が起きましたが、その後の調査で「プログラムの1ヶ所にコンマがひとつ抜けていた」ことが原因とわかったのです。
 しかし何よりも恐いのは原発など巨大建造物の運営制御がコンピュータなくしては動かないという現実です。全国各地の清掃工場でもIT化は進んでいますが、現場経験や技能修得が不十分のままコンピュータ依存の体制が進むことの不安は拭えません。以下、現に起きた二つの事故を紹介しておきます。

◆二つの火災・爆発事故
 広島県福山市のRDF焼却・発電施設(㈱福山リサイクル発電、旧NKK・広島県下16市町村などが出資)で2003年8月29日、試験燃焼中のコークスベッド型溶融炉で火災事故が起きました。これは、毎時2.5トンのRDFが炉に投入される設定になっていたのに、その10倍ものRDFが入ってしまい、二次燃焼室の圧力が急上昇。高温のガスが逆流して炉の本体と二次燃焼室をつなぐパイプが焼損してしまった事故です。なぜ溶融炉の中に大量のRDFが入ってしまったのか。コンピュータの設定ミスかシステムの誤作動か、いまだ明らかになっていません。
 もうひとつは2004年1月24日午前11時40分、香川県の直島プラント(2号炉)で起きた爆発事故です。03年9月から本格稼働をはじめた豊島廃棄物の溶融施設でした。
 事故の3日後、現場に入った石井亨・前香川県議会議員は「鋼鉄でできた上部のカバーが変形して60センチほど浮き上がり、締め付けボルトが吹っ飛んで残った穴が大きく広がっていた。産廃を炉に運ぶコンベアが破損してその破片が危険防止の黄色い鉄柵にぶつかっている。誰かがそこにいたら死傷事故にもつながりかねなかった」と述べています。
 爆発事故についての本格的な事故対策検討会(以下検討会)は同年2月15日に行なわれました。以下、事故原因のあらましを「豊島廃棄物等技術委員会事故報告書」から要約しておきます。
 「産廃の水分量を減らすため(豊島の掘削現場で)約8%混合している生石灰と産廃中のアルミニウムなどの金属が化学反応を起こし、継続的に水素が発生。産廃の熱分解で水素の発生がみられた。発生した水素ガスは圧力調整で炉の燃焼室に吸い込まれるが、時折圧力が変化して吸引が不可能になり、水素が供給筒に溜まったとみられる。この水素濃度が爆発限界点に達し、廃棄物中の物質と機械類の摩擦で静電気が発生、引火して連鎖的にコンベア2ヵ所でも爆発した模様」。
 たぶんこの推論で間違いはないでしょうが、気掛かりなことがひとつある、というのは前出の石井亨氏です。

◆コンピュータ依存体制の今後
 「それは爆発でプラントが自動停止しなかったことです。爆発音を作業員が聞いて、現場を確認し、はじめて炉が変形して運転不能の状態だということがわかった。中央制御室でも爆発と同時に炉内圧が狂い、至るところに警報が鳴って非常事態になったといいます。たしかに自動停止の機能はあるのですが、プラントが自動停止する非常事態とは地震と停電、誘引機などの重大故障のことで、爆発やトラブルなどに備えたものではないこと、そして自動停止なら1号炉もいっしょに止まる筈でした」。
 問題はモニターを操作している人は溶融という現場や技術を経験しているのか、それともコンピュータ技術者なのかという点です。石井さんに聞いたら、そのどちらでもないということでした。
 「日常のオペレーター業務は三菱マテリアルの人が当たっています。つまり豊島廃棄物を直島で引き受ける条件として、現場で何人使うかが直島町側の要求に入っていました。要するに中央制御室の中で炉の運転を習っているわけです。それらの人たちが新規採用か中途採用か人事異動かはわかりませんが、比較的若い人が配置されているから覚えは早い。しかし中央制御盤で訓練をはじめるとやはりバーチャル感覚になることは避けられません。制御盤の上で何が起きたのかは学習できますが、現場、つまり炉の中に何が起きたのかは実際に炉の操作にあたった人でないと判断はできない。この画面が出たらああしろ、こうしろというマニュアルはあっても現実に何があったかはわからないのです」。
 団塊世代といわれるベテラン技術者の大量離職が現実のものとなり、全国清掃工場現場のIT化は急速に進むことでしょう。それにつれてシステムダウンに起因する事故の可能性が増えてこないとはいい切れないのです。

2007年10月13日


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