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国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

春日井市産廃処理施設、試運転でピンチ

2008年12月28日 | 廃棄物政策
 粘り強い住民の反対運動に愛知県も捨てておかれなかったのか、試運転中の施設に改善命令を2度出した案件があります。
 経緯は以下のとおりです。

 2000年ごろ、名古屋市内のパチンコ業・名成産業(代表取締役伊藤満寿男)が春日井市の庄内川畔松河戸町にある自らの土地(旧メッキ工場)を撤去。跡地に傾斜回転炉という怪しげなタイプの焼却炉をを据え付け、「感染性廃棄物から廃パチンコまで」を破砕・焼却する中間処理施設の建設計画を立てました。

 01年5月、春日井市保健所との事前協議を終え、同月23日、愛知県に施設設置許可申請を行なったのです。
 現地にはただちに同年8月19日、産廃焼却炉(松河戸町)建設を阻止する会(会長・中嶋哲二)が結成され、死に物狂いの反対運動が展開されました。建設予定地から200メートルと離れていない場所に住宅地があり、特に取り扱う産廃の種類に住民は驚いたのです。この世に存在する有害物質がその狭い地域に集中して持ち込まれるといっても過言ではありませんでした。
 それからの約10ヶ月間は文字通りのケンカ状態でしたが、何とか打開する方策はないかと思いついたのが「両者が一堂に会し、何が問題なのかをじっくり討議する」シンポジウムでした。事業者側から3名、運動側から3名という人数についてようやく話し合いがつき、開催されたのは2002年7月21日春日井市内の公会堂でした。

 業者側は伊藤代表取締役、お抱えのコンサルタント、焼却炉メーカーの社長。運動側は中嶋会長に加え、梶山正三ゴミ弁連会長、池田こみち環境総合研究所副所長でした。さすが運動側のメンバーをみて、事業者側は怖気づいたといいます
 終了後、何度も業者に思いとどまるよう説得したのですが、庄内川対岸の守山市に「もっと過激な」運動体が誕生し、阻止する会の方針が生ぬるいと非難。業者側が意地になったせいもあり、強硬姿勢に転じました。阻止する会はやむなく建設差止めの仮処分申立を名古屋地裁に行い、05年1月14日の第1回審尋から6回の審尋を経てたのですが、同年7月13日、「申立却下」となりました。
 阻止する会はこれを不服とし、名古屋高裁に持ち込みましたが、これも不発。このさなか、県は2004年4月に設置を許可し、業者側は建設に着手しました。阻止する会は06年12月19日、すでに許可が下りた「工場、倉庫、事務所」の操業差止めの本訴を起こすに至りました。
 事業者側は何ごともなかったように07年10月から試運転に入りましたが、県も住民運動の手前、放ってもおけなかったのか、改善命令を本年3月に出し、さらに今月、別添の改善命令を再度出しています。

 以上が大まかな経緯ですが、すでにブログでも紹介したように、関西でも有名な製鉄会社がこの分野に乗り出してみごと失敗しています。近隣住民の意思に逆らって営業を開始しても果たして荷(廃棄物)が集まるかどうか、その保証はなく、阻止する会は県への働きかけを含め、活動の手を緩めておりません。

《参考》
春日井「産廃処理施設撤退も」 事業者 試運転で基準超え
読売新聞 - 2008/12/25
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/aichi/news/20081224-OYT8T00918.htm
 春日井市松河戸町の産業廃棄物焼却施設について住民、業者、行政が話し合う「松河戸周辺環境保全地域連絡会」が24日、同市役所であった。事業主「名成産業」の伊藤満寿男社長は、再度の試験運転でも基準を達成できなかったことを受け、「次の試運転で基準を達成できなければ、事業撤退も考える」との決意を明らかにした。
 同施設は県が2004年に設置を許可し、昨年10月から試運転していたが、今年3月の検査で排ガスから基準を超える塩化水素が検出されるなど基準を達成できず、県から改善命令を受けた。9月に試運転を再開したが、10月の検査では排ガス中の一酸化炭素濃度、騒音、臭気指数の3項目で基準を超えたため、県は近く2度目の改善命令を出すことにしている。
(2008年12月25日 読売新聞・中部版)

■「再び基準超過なら撤退」 春日井の産廃焼却施設
中日新聞 - 2008/12/25
http://www.chunichi.co.jp/article/aichi/20081225/CK2008122502000036.html
 春日井市松河戸町の産業廃棄物焼却施設で、業務改善命令を受けてやり直していた試運転の最中に基準を超えるばい煙などが検出された問題で、施設事業主の名成産業(名古屋市東区)は24日、今後再び基準超過を起こした場合には事業から撤退する意向を明らかにした。 (小野沢健太)
 県や市、地元住民などでつくる「松河戸周辺環境保全地域連絡会」で、同社の伊藤満寿男社長が表明した。県は年内に2度目の業務改善命令を出す予定。
 同施設は9月9日から10月15日にかけて実施した3度目の試運転で、排ガス中の一酸化炭素濃度が106ppm(維持管理基準100ppm)だったほか、騒音と臭気も基準を超えた。
 廃棄物処理法では、業務改善命令で指摘された事項が改善されない場合は設置許可が取り消される。連絡会で、県は▽命令での指摘事項と数値超過は物質や場所が異なる▽今後の改善は可能-として、許可取り消しには踏み込まない方針を説明した。
 ただ、2度目の改善命令には、すべての項目について維持管理基準を守ることが盛り込まれる見通し。これにより、4回目の試運転ではあらゆる基準超過が指摘事項への命令違反となる。
 連絡会では名成産業が「県の測定方法に疑問がある」と弁明したが、住民からは「何度も事故や数値超過を起こし、もう信じられない」「地元への説明がなく、モラルに欠けている」「命令ではなく取り消しにすべきだ」などと厳しい意見が相次いだ。
 同施設は2004年4月に県が設置を許可。操業の許可申請に向けて試運転をしていたが、昨年11月に消石灰の飛散事故を起こし、今年3月には鉄さびを飛散させた上に塩化水素などの排出値が維持管理基準を上回った。

《ブログ「東京23区のゴミ問題」主宰者のコメント》
●産廃の焼却施設や処分場に関しては官民ともに厳しく共闘態勢だが~、一廃に関してはなかなか…行政と市民は対立構造が多い~
●今日発表された、東京23区の「豊島清掃工場の実証確認結果(3回目)」
一酸化炭素の計測値(平成20 年6 月13 日及び7 月11 日) が維持管理基準値100ppm のところ一時的に1 号炉で216ppm 及び2 号炉で154ppm となった。1 号炉については、二次燃焼空気供給装置の動作不良により発生した。直ちにごみ供給を停止して二次燃焼空気供給装置の交換を行い、正常な燃焼状態に回復した。また、2 号炉はごみ供給装置が詰まり燃焼状態が不安定になり発生した。直ちに解除作業を行い、ごみの供給を開始して正常な燃焼状態に回復した。それ以外の時間帯とその他の測定項目はすべて法規制値及び自己規制値を下まわった。
●上記、春日井「産廃処理施設」並みに厳しくすると、23区の清掃工場などとっくにみんな基準超過で撤退しなくてはならない。実証確認試験データをとる期間だけの調査でも、たまたまなのか、それが日常的なのかはわからないが、あちこちの工場で一時的とはいえ窒素酸化物や塩化水素、一酸化炭素の計測値は基準値を超過している。

■実証確認実施期間中の管理基準値超過例
(公表された運転データからだけでも)

光が丘清掃工場(平成20 年1・3 月実施)
一酸化炭素濃度の測定値で1 号炉において維持管理基準値100ppm のところ一時的に193ppm(平成19 年11 月最大値)になった。これはごみ質の急激な変化による燃焼不良が原因であり、直ちに空気量等の調整を図り、正常な燃焼状態に回復した。また2 号炉(平成20 年1 月22日23 時から23 日3 時)で最大値376ppm となった。これもごみ質の急激な変化による燃焼不良が原因であったが、不安定な燃焼状態の継続が想定されたので、焼却炉の停止を行った。

大田清掃工(平成19 年4 月実施)
一酸化炭素の計測値で廃棄物の処理及び清掃に関する法律の維持管理基準値100ppm のところが一時的に235ppm となった。

大田清掃工場(2回目)(平成19 年12 月実施)
一酸化炭素濃度の計測値で維持管理基準値100ppm のところ一時的に219ppm となった。また、大田清掃工場の操業に関する協定値で、窒素酸化物70ppm のところ一時的に71ppm、塩化水素15ppm のところ一時的に20.6ppm となった。

北清掃工場(3回目)(平成20 年6 月実施)
一酸化炭素の計測値(平成20 年5 月18 日及び6 月2 日並びに6 月8 日) が維持管理基準値100ppm のところ一時的に120.5ppm 及び161.7ppm 並びに197.6ppmとなった。これら原因は、ごみ質の急激な変化により発生した。直ちに燃焼空気量の調整や投入ごみ量の調整を行い燃焼状態の改善を図った結果、何れも、2 時間目以降は正常な燃焼状態に回復した。

豊島清掃工場(3回目)(平成20 年7 月実施)
一酸化炭素の計測値(平成20 年6 月13 日及び7 月11 日) が維持管理基準値100ppm のところ一時的に1 号炉で216ppm 及び2 号炉で154ppm となった。1 号炉については、二次燃焼空気供給装置の動作不良により発生した。直ちにごみ供給を停止して二次燃焼空気供給装置の交換を行い、正常な燃焼状態に回復した。また、2 号炉はごみ供給装置が詰まり燃焼状態が不安定になり発生した。直ちに解除作業を行い、ごみの供給を開始して正常な燃焼状態に回復した。

渋谷清掃工場(平成19 年12 月実施)
一酸化炭素の計測値(11 月最大値) が自己規制値(維持管理基準値)60ppm のところ一時的に78ppm となった。これは植栽剪定ごみが大量に供給されたことによる燃焼不良が原因であり、直ちに燃焼状態の回復を図り、それ以外の時間帯は自己規制値を下まわった

多摩川清掃工場(平成18年10月実施)
窒素酸化物の計測値で法規制値は満足していたが、協定値50ppmのところが一時的に52ppmとなった。しかしそれ以外の項目についてはすべて法規制値及び協定値を下まわった。

世田谷清掃工場(平成20 年4 月実施)
窒素酸化物の計測値(3 月20 日及び4月1 日並びに4 月11 日)で協定値50ppmのところが一時的に56ppm 及び51ppm 並びに52ppm となった。

《ブログ「東京23区のゴミ問題」主宰者のコメント》
●東京二十三区清掃一部事務組合中防灰溶融施設で排ガス水銀濃度が自主規制値を超過したとき、「『2時間以上水銀濃度が自主規制を超え、原因を特定できなかった場合、運転を停止する』というマニュアルがある。(中防灰溶融施設ではそのマニュアルを守らずに9月7日(金)から平成19年9月10日(月)まで水銀超過のまま操業を継続した。)」となっていたので、一時的に規制値超過でも運転を停止し改善すれば問題なしということのようだが…春日井の場合は、その改善が出来ないということなのだろうか??

《津川注》
 上記資料には足立清掃工場分が入っていない。しかも各清掃工場ではそこの管理職が東京二十三区清掃一部事務組合(一組)に報告するため、かなり控えめなものになっている。そこで内部のある職員から生々しい実情を聞いた。以下のとおりである。

「廃プラが入ったことで(特に足立は100%受入れだから)塩基度がもの凄く上がった。塩基度が上がると(灰溶融炉内の)融点が高くなり、レンガも傷むし、ボイラーへの負荷も高くなる。廃プラの中身もきわめて質が悪い。違法に持ち込む業者が以前から多く、廃プラ解禁によってその傾向はひどくなっている。当然焼却炉の熱量も高くなり、クリンカー対策に追われることになった(温度が高いと炉壁に付着する塊が増え、燃焼効率を悪化させるからだ)。その心配があったから早くから改修予算を増やせと要求してきたのだが」。
 そして 東京二十三区清掃一部事務組合には「前科」がある。それは3年前に起きたある重大事故を闇に葬ってしまったことだ。状況は以下のとおりである。

 2005年5月26日午後8時3分、1号炉B系プラズマトーチの冷却水が漏れ、大量の水が炉内に噴出、爆発に至る。メーカー側は「異常燃焼」と呼称。
トーチ先端のコリメータ(ノズル)とアダプタスリーブ(コリメータとトーチ本体のシュラウド間をつなぐ鋼製パイプ)が脱落。部品の一部である絶縁体も炉外へ吹き飛んだ。

被害の状況(メーカー側の報告書より)
① 地下1階   1号水砕水槽コンベアの天板が一部持ち上がって変形
② 1~2階   1号炉上部設置機器損傷
③ 3~M4階 グレーチング(網目になった足場)の破損・変形
④ 3~5階 蛍光灯の一部破損
 
工場職員からの聞き書き(一部)
①トーチを引き抜いたとき、火柱があがった。そのあと全部で7回爆発している。冷却水が止まっていない状態だから中に水が溜って水蒸気爆発を起こす。その繰り返しだった。なぜすぐに止めなかったか。それは1本6,000万円もするトーチを守るため、というほかはない(冷却しつづけないとトーチがひん曲がり使い物にならなくなる)。安全よりトーチが大事ということだ。そのため二次災害、三次災害が起きたらどうなるか。
②事故は中央制御室でわかった。見に行ったら火柱が10メートルほど上がっていた。バグフィルター装置の底部に当たってそれ以上いかなかった。そこから曲がって逃げた焔が4階のグレーチング(網目の床)をアチコチ飛ばした。出力が最大でなかったのが不幸中の幸いだった。
③ピーク時だったら部屋ごと吹き飛んだことだろう。死人も出たはずだ。荏原(運転委託)の人たちだけでなく、職員も巻き添えになったと思う。
 考えられる最悪の事態としては、a.スラグが噴出する状況の中で、b.まわりのケーブルがすべて焼ける、c.焼却炉の緊急停止が前提だが、被害が大きければ止められない、d.そこからホッパー(バンカーからごみを供給する受け口)へ火が逆流し、e.バンカー全体に火災が起きることもあり得た。
④コリメータ脱落の原因ははっきりしないが、a.局部的な磨耗、b.締付けが悪かった、の二説がある。コリメータが飛んで炉の中へ落ちたことは事実で現物は溶けてしまったからヒューマンエラーだというメーカーのいい分だけが通っている。締め方が悪かった、マニュアルができていないというが、我々は技術そのものに問題があり、いつか爆発するものと思っていたから案の定という受け止め方をしている。
上記「異常燃焼」という言葉で結局、爆発事故は存在しないことになっている。

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